テクノロジーの進化や働き方の多様化など、人材・組織を取り巻く環境はかつてないスピードで変化しています。本連載では、そうした変化の実態をデータで読み解き、これからの人材マネジメントのヒントを探っていきます。前回は、新入社員が「社会人としての基本」と「成長」を強く意識する一方で、「会社の文化や風土への適応」の優先順位を低く捉えていることをお伝えしました。では、そうした新入社員の価値観の変化は、職場環境や上司の関わり方への考え方にどのような影響を与えているのでしょうか。連載の最終回となる今回は、新入社員が理想とする職場像と上司像の10年間の変化に着目し、これからの育成のあり方を探ります。
3人に2人が『お互いに助けあう』職場を求めている
リクルートマネジメントソリューションズが2026年度の新入社員を対象に実施した意識調査では、働きたい職場の特徴についても尋ねました(図表1)。
最も多かったのは、「お互いに助けあう」(66.8%)。3人に2人以上が選択し、調査項目全体の中で最も選択率の高い項目となっています。
一方、「皆が一つの目標を共有している」(23.9%)は過去最低となり、「ルール・決め事が明確」(16.5%)は過去最高となりました。
<図表1>働きたい職場
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2026」
育成のあり方が大きくシフト──「強さと熱量」から「心理的安全性と個別対応」へ
前回のコラムでお伝えしたように、新入社員の「成長」への意欲は高まっている一方、変化が速く、対応の難しさが増す今日のビジネス環境では、成果や成功体験はすぐに得られにくくなっています。最も経験が少ない新入社員が大きな不安を持つのは当然と考えられます。
「お互いに助けあう」がこれほど求められている状況は、同じ調査で示された「仕事についていけるか」という不安(64.6%)の表れです。新入社員は、成長へ向けたサポート体制が整った職場環境を求めているのです。
注目すべきは「ルール・決め事が明確」が過去最高になったという点です。不確実性が高まる時代だからこそ、新入社員は「何をすべきか」が明確に示される環境を求めています。
こうした期待を踏まえると、不安を前提とした受け入れ設計や成長支援のしくみを築いていくことの重要性が見えてきます。困ったときに頼れる環境と、明確なルールが土台となることで、新入社員は安心して成長に向き合うことができるようになるのです。
『丁寧な指導』が初のトップに──上司への期待が大きく変わっている
同じ調査で、上司に期待することについても尋ねました(図表2)。
最も多かったのは「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」(50.1%)。調査開始以来、初めてトップとなり、過去最高を記録しました。
次点は「相手の意見や考え方に耳を傾けること」(46.4%)、その次が「好き嫌いで判断をしないこと」(32.5%)です。上位項目に共通するのは、個別対応への高い期待です。
<図表2>上司に期待すること
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2026」
こうした変化は、新入社員が抱える「仕事についていけるか」という不安と密接に関連しています。変化が速く、対応が難しい今日のビジネス環境では、一人で乗り越えていくことはとても困難です。
新入社員は、お互いに助け合える職場風土を土台に、「上司からの丁寧で、成長につながる指導」を求めていると言えます。
興味深いのは、「言うべきことは言い、厳しく指導すること」(24.0%)が3年連続で上昇している点です。
これまで若者は「厳しい指導は苦手」という傾向がありましたが、仕事への不安の高まりを背景に、「何も言われず成長しないことの方がリスク」という捉え方が生まれてきているのかもしれません。10年前と比較すると、この項目は下降していますが、直近3年での上昇トレンドは特徴と言えるでしょう。
フィードバックの方法には様々なノウハウが存在します。新入社員が求める「丁寧さ」「耳を傾けること」「ほめること」といった関わり方を軸にしながら、言うべきことは伝え、成長につながる指導を実践していくことが、今後の上司の関わり方に必要なポイントとなります。
10年で何が変わったのか──『活気・情熱』から『個性の尊重・助けあい』へ
ここで、新入社員が理想とする職場像と上司像がどのように変わってきたのかを、10年前の2016年と比較してみましょう(図表3)。
10年前と現在を比較すると、大きな変化が見られます。かつて重視されていた「活気」「情熱」「厳しい指導」といった要素よりも、「個性の尊重」「助けあう」「丁寧でよい点はほめる」への期待が高まっています。
具体的には、以下の通りです。
【職場への期待】
上昇:「個性を尊重する」+12.0pt、「お互いに助けあう」+10.4pt
低下:「アットホーム」-11.2pt、「活気がある」-7.8pt
【上司への期待】
上昇:「丁寧に指導する」+10.8pt、「よい仕事をほめる」+9.9pt
低下:「情熱を持って取り組むこと」-7.2pt、「厳しく指導する」-6.8pt
ただし、「厳しく指導」は直近3年では回復傾向にあります。
<図表3>理想の職場・上司の過去10年間比較
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2026」
心理的安全性と個別対応が、今後の育成の中心に
この変化は何を意味しているのでしょうか。求められる育成のあり方が大きくシフトしています。かつての、強さを持ち熱量で引っ張るアプローチから、一人ひとりの個性と不安に向き合い、安心できる関係性を土台に伴走的に成長を支援するアプローチへのシフトです。
時代環境の急速な変化、不確実性の高まり、AIの進化といった背景の中で、新入社員は「自分の力を高めること」に強い意識を向けています。同時に、そうした成長を実現するには、一人で乗り越えることの難しさも認識しています。だからこそ、新入社員は、個性を尊重され、困ったときに頼れ、丁寧に導いてくれる職場と上司を求めていると考えられます。
新入社員の価値観と職場・上司への期待の変化は、決して矛盾するものではなく、一貫性を持っています。成長への強い意欲を、心理的安全性と個別対応で支えることが、今後の新入社員育成の中心になります。



