コラム

ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント

企業の哲学が問われる時代

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不祥事企業も「敬意」と「誠実」をコアバリューに掲げていた

透明性の時代において、生活者に共感されるにはどうすれば良いのだろうか。最も重要なことは商いの原点にかえることだ。不誠実な言動や不毛な社内政治をやめ、社員、顧客、株主、地域の方々、生活者、そして世界にいかに貢献すべきか、自社の存在意義を見つめ直すことから始めるべきだろう。

米国史上でも指折りの企業スキャンダルとなった「エンロン」は利益至上主義を極め、2000年度には年間売上高1110億ドル(全米第7位)、2001年の社員数2万1000人という巨大企業となった。しかしながら巨額の不正経理・不正取引が明るみに出てからわずか1.5カ月で破綻に追い込まれる。破綻時の負債総額は簿外債務を含めると400億ドルを超えていたのではないかとも言われている。

その裏にあるのは、経営トップや金融エリートによる徹底的な利益追求の姿勢だ。何年にもわたって粉飾決算が行われ、電力のデリバティブ取引を拡大させ、2000年のカリフォルニア電力危機の原因のひとつにもなっている。そんなエンロンの掲げていたコアバリュー(企業にとっての核心的な価値)4つのうち2つは「敬意」と「誠実」だった。エンロンのリーダーは不正会計を長年行い、無謀な取引のリスクにも気づいていた。コアバリューは単なるお題目にすぎなかった。

2008年の金融危機において、巨大保険会社AIGはサブプライム問題で多額の損失を抱える。損失額は2008年通期で992億9000万ドルとなり、アメリカ企業史上最大の赤字額となった。ニューヨーク・タイムズ紙の報道などで破綻気配が濃厚になり株価が急降下。最大750億ドルの資金調達ができなければ倒産法を適用せざるを得ない状況にいたり、米国政府が公的資金投入を決定した。つまり米国民の税金で救済されたのだ。

救済の一週間後、AIG子会社のアメリカン・ゼネラル社幹部は高級リゾート地に関係者を集め、総額44万ドルもの経費をかけて会合を繰りひろげた。そのAIGが掲げていたコアバリュー6つのうち2つは、やはり「敬意」と「誠実」だった。残念ながらAIG幹部には敬意と誠実が致命的に欠けていた。

企業哲学が、社員の幸せに結び付く

ブランドの哲学を構造化すると、「ミッション」「ビジョン」そして「コアバリュー」で構成される。「ミッション」とはそのブランドが何のために存在するのか「そのブランドの存在意義」であり、企業の持続可能性を決定づけるものだ。それに対して「ビジョン」とは未来を創りだすもので「企業にとって望ましい未来像」を描き出したものだ。そしてもう一つ、「コアバリュー」とは企業にとっての核心的な価値、「その企業は何を大切にしているか」をあらわすもので、社員にとっては行動規範に通ずるものだ。これらを順守する優先度は、事業計画や予算よりも上位に位置づけられなくてはならない。

家庭向け化成品の世界的メーカーであるSCジョンソンは自社のミッションを「コミュニティの幸福に貢献するとともに環境の維持・保護に務める」とし、「五世代にわたり家族に愛される企業」というポジショニングを明文化した。家族に愛されるコンセプトはお客様にだけ適用されるのでない。もちろん社員に対しても同様だ。

SC ジョンソンの社員は、仕事と家庭のバランスがうまくとれるよう多くの配慮がされている。例えば、家族と週末を過ごすために早く帰宅できるよう、金曜日夕方の会議は開かれない。夫婦どちらも社員だった場合には、海外赴任は二人一緒が原則となる。これらにより、彼らは、自然と家族を愛し、幸せな生活を送るようになる。ザッポス同様、会社のコアバリューが、社員の人生に大きく影響しているのだ。

企業哲学は社員の幸せに色濃く結びつく。それは一般社員にとってだけではない。マッキンゼーが1997年に行った調査によると、企業エグゼクティブの58%は「ブランドの価値と文化を社員の最大の動機づけ要因」とみなしており、「昇進や成長」の39%、「報酬の差別化」の29%を大きく上回った。世界が金融危機を経験した現在において、この意識がさらに強まっていることは間違いないだろう。企業理念、ブランドの約束、コアバリューを真摯に共有すること。それこそが、優秀な社員に恵まれ、生活者の共感を得るための、強力無比な差別化要因となってきたのだ。


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斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー

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