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ソーシャルリーディングサービス活況――ネットとリアルで顕在化する“自己表現”としての読書

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業界全体で販売部数の低下に苦しむ出版界。しかし一方で、新しい読書のスタイルとして読書会やソーシャルリーディングサービスが人気を集めている。こうした流れを受けて『宣伝会議』12月15日発売号では、生活者インサイトを反映した、これからの書籍プロモーションの在り方について特集を組んだ。
今回は、本誌での特集に連動して、読書をめぐる生活者の“自己表現欲求”に焦点を当てた抜粋記事を紹介する。

「ソーシャルリーディング」とは、一言でいえば「読書体験の共有」だ。特に「電子書籍元年」といわれた2010年頃から注目を集め始めたが、最近では紙の書籍でも利用が広がっている。ソーシャルリーディングの普及によって、個人的な活動だった「読書」が他者と共有体験するものに変わり、さらには自分を表現するツールとしても機能するようになりつつある。

コンデナスト・デジタルで『VOGUE』『GQ』などのデジタルマガジンや、「VOGUE.COM」などを統括する田端信太郎氏は、昨今のソーシャルメディア上の様相を「ジャズ喫茶化」と表現している。いわく、ジャズ喫茶では自分が本当に聞きたい曲よりも、周囲の目を気にして「あの人は通だな」と思われるような曲をリクエストする風潮があったそうだが、ソーシャルメディア上で共有されるリンクや写真などにも同じ力学が働いている、という指摘だ。「『WIRED』(※1)創刊号で“必読書50冊”を選ぶ読者投票企画を行ったところ、予想以上に学術的で難しい本が人気を集めた。拡散を狙ってツイッターでのツイート投票にしたため、本当に読んでいるかは別として、“この本を推薦することで知的な人だと思われたい”という動機は少なからず働いたと思います」。

※1…コンデナスト・パブリケーションズが発行するライフスタイル誌。日本版は1998年の休刊を経て、今年6月に同社より再刊行された。

掲示板やネットニュースサイトなど、匿名性の担保されたネット世界では、堅い話よりも“B級”と称されるコンテンツがアクセスを稼ぐのが定説だった。しかし、SNSの実名利用促進により、その空気が変わってきていると田端氏は考える。「“何にいいね!を押すか”が、どんな服を着てどんな車に乗るかということ以上に自己プレゼンテーションの材料になってきている。ジャズ喫茶の空気が社会全体に広まりつつあるという気がしています。ただ、いいね!やリツイートによる便乗だけで中身がなければ、周りのユーザーにも見破られますから、たとえば本なら実際に買って読み、実態も追いつこうとする。出版社などのメディア企業は特に、その空気を上手く利用すべきでは」。

ソーシャルメディアによって顕在化した生活者の“自己表現”欲求は、リアルの世界でも発露されている。そのひとつの場が、ここ数年、静かなブームとなっている「読書会」だ。

日本最大級の読書会コミュニティ「猫町倶楽部」は、2006年に活動を開始し、現在までで延べ5000人以上が参加している。当初は会員4人の小規模なサークルだったが、07年からmixiのコミュニティとして活動を続けるうちに支持を集め、徐々に参加者を増やしていった。運営会社の猫町代表・山本多津也氏によると、最近の参加者は読書会に「議論」ではなく「共感」や「受容」を求めているという。「空気を読むことを強いられる日常の中で、現代人は慢性的に自分の嗜好や思想を出さないようにしている。だからこそ、読書会という趣味の共同体の中でパーソナルな部分を出せる“解放感”は大きいようです」。

猫町倶楽部の独自性のひとつに「ドレスコード」があるが、ハードルになると思われるこの制度を導入したことで、逆に参加者は増えたそうだ。「ドレスコードが好評なことからも、参加者が読書会を自己表現の場として楽しんでいることがわかる。最近では、読みたい本だから参加する、というより、参加したいから読む、という傾向がより顕著になっていると感じます」。

出版コンテンツが、生活者にとって「自己表現の材料」という新たな役割を与えられ、その要求に応えるサービスも多様化しつつある今、供給側である出版社や書店には何が求められているのか。12月15日発売の『宣伝会議』では、出版界を取り巻く生活者インサイトの変化から、ソーシャルコマース時代のマーケティングに共通するヒントを探る。