3月15日、欧州議会は初めて2030年までの再生可能エネルギーの統合目標についての投票を行った。投票結果は、欧州委員会(European Commission )の「エネルギーロードマップ2050」の実現に向けて準備をしなければならない欧州連合理事会(European Council)に対する強力なメッセージとなった。これを受けて、欧州風力発電協会(EWEA)の規制関連事項を担当する代表、ステファノ・ブルジョワ氏は、「閣僚たちは欧州議会の決定を尊重し、2030年の再生可能エネルギー目標に裏書きを与えるべきである」と述べた。
2050年までにCO2排出ゼロのエネルギーを目指す欧州
欧州委員会の「エネルギーロードマップ2050」とは、2050年までに排出量を80%以上削減するという野心的な目標を達成するための方針で、その実現にはCO2の排出がほぼゼロのエネルギー生産を実現しなければならない。「エネルギーロードマップ2050」は、エネルギー供給と競争力に支障を与えることなく、目標達成するための低炭素エネルギーシステムと必要な政策の枠組みを詳述している。これにより、欧州連合(EU)加盟国は、2030年までに必要なエネルギーを選択し、安定したビジネス環境を整えるように備えなければならない。今回の投票は昨年12月に公表された「エネルギーロードマップ2050」を受けたものである。
再生可能エネルギーを経済のけん引役に
このような野心的な目標に対して、欧州でも世論は分かれており、大きく推進派と反対派がいるほか、気候変動対策に対する緩和策への偏りを懸念する適応策重視派や企業に排出量の規制を課すことによる競争力の低下や域外への漏えいを懸念する声、市場メカニズム否定派など、さまざまな声がある。
「再生可能エネルギーは効率的であり、2030年に向けた目標を設定することで、競争力ある産業の育成とエネルギー安全保障を実現できるとする」推進派の中心となるのが、気候変動アクションの理事、コニー・ヘデゴー氏や、欧州委員会エネルギー担当委員のギュンター・オッティンガー氏だ。オッティンガー氏は、国別計画の並存よりも、汎欧州的行動を進める方が、コストも低くなり、供給も安定するとして、2014年までに共通エネルギー市場を創設する行動計画の推進役でもある。
企業への厳しい規制は経済活性化の起爆剤になれるのか
再生可能エネルギー産業を経済のけん引役とするために欠かせないのが、欧州排出量取引(ETS)の修正だ。炭素の市場価格は低迷を続けており、最盛期の1/10程度まで落ち込んでいる。炭素の市場価格は、再生可能エネルギーへの投資効率にも影響するため、価格の低迷は再生可能エネルギー導入にとってマイナス要因となる。
そこで、欧州議会のメンバーは、市場における炭素価格を引き上げるための緊急措置が必要であるという考えを示している。EWEAのレミ・グルエ上級アドバイザー(気候と環境問題に関する規制を担当)は「もっとも簡単な方法は市場における過剰な割当をなくすことだ。委員会はいますぐこれを実行する措置を提案すべきだ」と述べている。キャップ&トレード方式の排出量取引の市場に活気を与えるのは、企業への厳しい規制だ。
不透明感を抱えながらも野心的な決断をしたEUに、日本が学ぶべきこと
昨年来、金融不安が高まっていた欧州経済だが、今年に入ってからは経済指標が改善し、3月15日には国際通貨基金(IMF)が、4年間で280億ユーロ(約3兆円)のギリシャ支援を承認したことを市場が好感している。
ただ、ヴェスタス(デンマーク)やガメサ(スペイン)といった欧州の風車メーカーは、華鋭風電(Sinovel Wind)や金風科技(Goldwind)といった中国メーカーとの価格競争で苦戦を強いられている。風力発電首位のヴェスタス(デンマーク)は、年初に2335名の人員削減を発表したばかりだ。
とはいえ、経済の先行きが見えないなかでも、EUは再生可能エネルギーをエネルギー安全保障の柱に据える決断をした。日本はどうか――。
再生可能エネルギーの効率は立地条件に左右される。日本は風力発電の適地が少ない、太陽光発電や地熱、バイオマスなど、いずれもコストと安定供給に課題が多いと指摘される。しかし、「エネルギーロードマップ2050」を実現するための行動計画に着手した欧州委員会と比べて、日本では「できない理由」をあげる議論が多すぎはしないか。
「欧州はなぜ決断できたのか」日本はその意思決定のプロセスに学ぶ必要がある。
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