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ソーシャルがわからない企業に明日はない(4)

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【ソーシャルがわからない企業に明日はない(3)】はこちら

竹の輪っかと紐だけで雪の上をさくさく歩ける快感

雑木林

雪に包まれた雑木林。樹種が豊富なのだが、素人には違いがよくわからない。

場面は再び雪の中。北上川支流の和賀川流域でのAQUA SOCIAL FES!!(アクアフェス)に戻る。アクアフェスの参加者たちは、かんじきを履いて1メートルを超える積雪のうえに、おそるおそる足を踏み出した。竹の輪っかに紐を結んだだけの原始的なものだが、雪に埋もれずさくさく歩ける。先人たちの暮らしの知恵ってすごい!この手軽さと比べると、スキー板やブーツやストックを製造するためにかかる資源とエネルギーの多さがばかばかしく思える。

アクアフェスの監修者、岸由二・慶應義塾大学教授は、産業文明の大地を忘却する日常がさまざまな環境問題の根本原因として横たわっているという。そして、土地や地形やそれを基盤にした生命圏を含めた文明観を取り戻すことが、環境問題の解決に不可欠であるという。現代ほど産業文明中心でなかった時代、ほんの数十年前までは、人類の多くがそうした文明観の下に暮らしていたと言われるが、それを理念的には理解したつもりでも、実感としてとらえるのは難しい。

しかし、かんじきで雪の上を歩いてみる、たったそれだけの体験で、産業文明以前のテクノロジーの環境優位性を体感することができる。技術や物流システムが未発達だと、身の周りの自然環境のなかから得られるものに依存して生活することになる。そうすると、最小のエネルギーで最大の効果を得ようとすることになる。まさに、サバイバルの知恵だ。

人間中心のものの見方を変えてみる

冬芽のかたちは樹木によってさまざま。


ガイド役の功孝さん

ガイド役の功孝さんが樹種によって異なる「顔」をもつ冬芽を紹介してくれる。

岸教授は研究室にこもるよりもフィールドで実践することを重視してきた「地面のでこぼことくっついて生きている」研究者だ。アクアフェスを支える全国の環境NPOも、そうした思想を共有している。そのため、プログラムの端々に、そうした根本的な環境問題への考え方を実感としてとらえられる仕掛けが仕込まれている。特に環境学習中心のソフトプログラムは、環境のことは何も知らなくても楽しめる構成だ。

しかし、岸教授の著書や活動の内容を知って参加すれば、ふだんの暮らしのなかで見逃しがちな自然環境とくっついて生きてきた歴史や暮らしの知恵を見つけて楽しむこともできる。

と、かんじきひとつに込められた意味をあれこれ考えながら、ガイドの功孝さんの後を進む。歩くのは「星めぐりの森」という雑木林のなかで、沢内銀河高原ホテルから和賀屋までの1キロ足らずの距離だが、一面雪に覆われていて先が見えないので、心なしか遠く感じる。樹種もなにもわからないのだが、実際は雑木林なので、ミズナラやクリのほか、シウリザクラやオオヤマザクラといった桜の一種など、さまざまな顔をもっている。

元気な木に倒れかかった枯れ木や木の幹に絡んだ蔦を見つけると、功孝さんは立ち止り、これらが虫たちにとって格好のえさ場や住みかとなること、虫は鳥の餌になること、鳥たちの糞が土壌の栄養になることなどを解説してくれた。枯れ木やつたが見苦しいからといって森林のなかから取り除いてしまうと、生き物が住みにくくなってしまうという。

樹齢100年

森林には「主」と呼ばれる樹齢100年を超える大きな木がある。

また、しばらく進むと、功孝さんが立ち止まり、ユビソヤナギの説明をしてくれた。川沿いの氾濫原で生息するので、ユビソヤナギがあると、過去に洪水があったことがわかるという。氾濫原とは、洪水後にできる平坦地のこと。人間から見れば、「わざわざ洪水の起きるところに生えるなんて」というところだが、氾濫原は平坦で水の供給がよく、植物の生育には最適な環境だ。ただし、洪水のたびに洗い流されてしまうので、生息できる樹木はヤナギ類に限られる。洪水は人間にとっては災害だが、ユビソヤナギにとっては生きるために欠かせない自然現象だ。

しかし、ユビソヤナギの自生地はどんどん減っていて、いまや環境省指定の絶滅危惧種Ⅱ類。堤防や河川の流路の改変など、治水を行えばユビソヤナギが生きられる土地はなくなってしまう。のみならず、人間は宅地や農地の開発によって、洪水の記憶を忘れてしまう。ユビソヤナギの冬芽から、自然の理(ことわり)を無視した人間が自分で自分の首を絞めている、いまの環境問題の根底に横たわる原因が浮かび上がってくる。

質の高い環境プログラムをマーケティング活動として行う

こういったプログラムの内容だけを紹介すると、「そんなのうちの会社のCSRでもやってるよ」という声が聞こえてきそうだ。しかし、アクアフェスはソーシャル・マーケティングに質の高い環境学習プログラムを取り入れているところが新しい。

マーケティング活動なら、「どうせ見せかけだけのいい加減な環境活動をやっているんでしょう」と思ってしまうが、参加してみるとそうでもない。確かに、フェスのタオルや手袋、ビブスなどのキットは演出度が強いが、これぐらいわかりやすいほうが、参加者の人数確認や安全管理などが容易になるという合理性もある。

逆にここまで徹底的にやっていると、手間暇=コストも膨らむため、費用対効果は?KPIはどうなるの?という疑問もわいてくる。トヨタマーケティングジャパンの折戸氏に聞くと「実験的な試みなので、走りながら評価の仕方も考えていく」とのこと。

これまでのマーケティング活動の創意工夫の結果(もちろん、商品力もあって)、AQUAが売れており、目標販売台数を超えた部分は、新たなマーケティング手法の開発のためのR&D(研究開発)に投資できるということか。アメリカでも、GMやフォードがソーシャルメディアを使ったマーケティング活動に大きな予算を使っているが、トヨタも負けていないようだ。


【連載】

人間会議2011年冬号
『環境会議2012年春号』
エネルギー問題や自然環境保護など、環境問題への対策や社会貢献活動は、いまや広告・広報、ステークホルダー・コミュニケーションに欠かせないものとなっています。そこで、宣伝会議では、社会環境や地球環境など、外部との関わり方を考える『環境会議』と組織の啓蒙や、人の生き方など、内部と向き合う『人間会議』を両輪に、企業のCSRコミュニケーションに欠かせない情報をお届けします。 発行:年4回(3月、6月、9月、12月の5日発売)

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