アメリカで始まったウォールストリート占拠運動ではソーシャルメディアが多用された。ニューヨーク・ウォール街で始まったこの運動は、全米各地、そして欧州、オーストラリア、アジア、アフリカにも広がっている。OWS運動は、どこまで具体的な政治勢力になるのか、もし、政治政党などに結実することになれば、史上初のグローバルなソーシャルメディア党になる。
まだ、そこまで具体的な動きは見えないが、夏の党大会以降、本格化するアメリカ大統領選に向けて、注目度が高まることは間違いない。そこで、今回は早くからこの動きに注目してきた東京農工大学の松下博宣教授の視点を紹介する。
世界中に張り巡らされた根茎と化すウォール街占拠運動
松下 博宣(東京農工大学大学院産業技術専攻教授)
「ウォールストリートを占拠せよ」(Occupy Wall Street:以下、OWS運動)ではソーシャルメディアが多用されたことが知られている。OWS運動は、社会システムのやぶれ、ねじれのようなものだ。筆者はOWS運動を、変幻自在に「空間」に根を張りめぐらせる複雑なリボゾーム(根茎)のようなものに見立てている。そこでは、さまざまな「差異」が既存の社会システムに意義を唱え、反対・反抗のメッセージを拡散している。
4つの反抗は米国の根幹を問う
当初は、実に様々な反対・反抗のメッセージが乱舞していたが、運動の過程を経て、それらの反抗のメッセージは、大別して4つに集約されてきている。
- 大量失業問題無策に対する反抗
米国の統計では失業率は9パーセントと言われている。しかし、非正規労働者で十分な賃金を得ることができない「アンダー・エンプロイメント」を含めると17パーセントという高い数値となっている。特に若者の失業問題は深刻だ。労働市場から排除されている人々が多すぎるのである。これらの背景から、オバマ政権は、失業問題に対して有効な政策をとっていないという批判が噴出した。 - 格差に対する反抗
富裕層上位1パーセントが全米所得の20パーセントを占めている。そして資産規模では上位10パーセントに属する人々が全米の資産の90パーセントを占めるという強烈な所得格差、資産格差がやり玉にあがっている。「99%の私たち」というスローガンには、「1パーセントのアメリカ人が占有する富に対して99パーセントのアメリカ人は排除されている」という問題意識が顕れている。もはや、この圧倒的な格差を容認すべきではない、という反抗である。 - 民主主義の換骨奪胎に対する反抗
さらに進んで、この格差を放置しているアメリカの民主主義はどうなっているのか、という疑問がある。圧倒的多数の持たざる「民」のために民主主義はあるはずなのに、まったくそうなっていない現状に対する反抗である。 - 強欲・金融資本主義への反抗
先に上げた3つの反抗は、行きつくところ現行の体制のバックボーンである資本主義のあり方に向かっている。99パーセントの人間が直接関与している実物経済を活性化させるより、むしろ、それに寄生して利益を収奪する強欲・金融資本主義が諸悪の根源というのである。その象徴としての「ウォールストリート」がやり玉に挙がっているという構図だ。
これら4つの理由が結合すると、明確な体制への反抗となる。すなわち、米国流のフリーマーケット(自由市場)によって、「自由」を享受できるのは、わずか1パーセントの富裕層である。特に実物経済にレバレッジを掛けて欲しいまま儲けて、破綻すれば、税金によって救済される大手投資銀行の存在に、人々は、強欲・金融資本主義の米国国家との結託を見てとった。それらの結託はアメリカの国是であるはずの民主主義の根本を否定するものなのだと。OWS運動は、現下米国の、市場主義、資本主義、民主主義のありかたに対する先鋭な反抗なのである。
松下博宣(まつした ひろのぶ)東京農工大学大学院産業技術専攻教授
コーネル大院修了、米国Hay Consulting Groupにて経営コンサルタントを経て、創業社長として(株)ケアブレインズを起業。成長軌道に乗せた後2007年同社を上場企業に売却してイグジットを果たす。現在、東京農工大学大学院産業技術専攻、日本工業大学大学院技術経営研究科でアントレプレナーシップ、新規事業創造、技術経営、マーケティング戦略を講ず。NPO国際社会起業サポートセンター理事。内閣府社会イノベーション研究委員を歴任。
※続きは『人間会議』2012年夏号(6月5日発売)「ソーシャルメディアの本質」特集でお読みいただけます。ご予約はこちらから。
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