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「こだわり」「お約束」を捨てよう―『SPUR』☓『STORY』編集長対談

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1989年の創刊から一貫してハイブランドに愛され続ける集英社『SPUR』、7号連続で実売前年比100%超の記録更新中の『STORY』。両誌の編集長が、これからも求められる雑誌のあり方を語り合う。
(この記事は、『編集会議2012年夏号』(@henshukaigi)に掲載した記事を再構成したものです。)

『SPUR』らしさは必要ない

内田氏

『SPUR』内田秀美 編集長

『SPUR』内田秀美 編集長
『SPUR』を23年間担当していることもあってか、最近「『SPUR』らしさは不必要ではないか」と思い始めています。少し前までは「『SPUR』らしさ」を追求していましたが、編集部員にはいま、「タブーはない。自分の好きなことを何でもやっていい」と伝えています。マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの荒木飛呂彦先生に表紙や別冊付録を描き下ろしていただけたのも、先生の大ファンだった部員の熱意から生まれた企画でした。荒木先生の画業30周年と、グッチ創設90周年が、モード誌『SPUR』で結びついたら面白い、その一念で。私のマンガ好きも生かせましたし。

為田氏

『STORY』為田敬 編集長

『STORY』為田敬 編集長
ここ1~2年の『SPUR』に元気な印象があるのは、編集部員自身が面白がっているのが伝わるからでしょう。それが雑誌づくりの原点ですよね。

内田: プロとしてコンテンツを考える能力や発想は必要ですが、同じくらい「自分が好きなことを伝えたい」という熱意、相手にも同じものを好きになってもらえるほど、無邪気に自分の思いを伝えられる素直さが大切ですね。

為田: 無邪気さ、素直さは重要。編集者はスタッフのまとめ役でもあるので、バランス感覚も欠かせません。アタマが凝り固まっている人は難しいかな。

内田: ソツがなさすぎるのもつまらないし、かといって、あんまり不思議ちゃんでも困る、という。

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「理想」を見せるには、リアルさが不可欠

内田: 『SPUR』はシャネルやエルメスなど、時代をけん引するハイブランドを紹介していますが、大切にしているのはモードの中にある「リアル」です。モードは難しいものではなく、知れば知るほど楽しいもの。それをきちんと伝えるモード誌でありたい。

為田:確かに『SPUR』は『non-no』に通じるものを感じますよ。リアルさを大事にする「non-no魂」が入っているのかな。

内田:言われてみれば、そうかも。夢を見るためには実感が必要だと思うんです。ある企業の社長のお話に「高いレベルに触れてこそ、大きな夢が見られる」という言葉があって、とても共感しました。仮に誌面で100万円を超える商品を掲載するにしても、「いつか手に入れたい」と、自分に関係ある商品として実感できるように誌面をつくらないと、と考えています。

為田: 雑誌も「読者目線」と盛んに言われるようになって。けれど、どこまで読者に寄り添うのか、雑誌の考えで突き進むのか、線引きが重要ですよね。確かに「先生は読者」で、ファッション業界の著名人でもスタイリストでもないのだけれど、読者全員が先生ではない。先生とする「読者」の選び方に編集者のセンスやレベルが問われていて、うまく選ぶ必要があります。
『STORY』のいまの読者は、働く女性が増えましたから、グレーやカーキなど、アースカラー系のシンプルな装いがリアル・クローズになっています。一昔前のようにヒラヒラしたワンピース、リボンやフリルなど、ぱっと目立つ「砂糖のような甘さ」を必要としていない。「無糖派層」と題した企画を載せた際に部数が伸び、私自身、そうしたリアルな読者像を体感しました。

1冊まるごと考える『SPUR』、企画書のない『STORY』

為田: 『SPUR』編集部で企画を考える際はどうされているんですか?

内田: 毎月、編集部員それぞれがまるごと1冊分の企画を提出するようにしています。ファッション担当やビューティー担当といったカテゴリー分けはありますが、自分の担当分野の企画だけでなく、各自が大特集、第二特集、ファッション、ビューティー、インテリア、旅、カルチャー、インタビューと1冊分考えてもらうんです。『STORY』ではいかがですか?

為田: ウチは企画書をつくらないんですよ。企画会議で皆が口頭で発表して、皆でメモを取っていくんです。書いてきたものを読み上げると、人の話を聞かなくなってしまうので。その場で「AさんのアイデアをBさんの構成でページにすると面白いね」なんてやりとりをしていくので、3時間くらいかかります。それを寝かせておいて、ぎりぎりのタイミングで方向性を決めて、調整します。

内田: 誌面を考えていく上で、いまの誌面にある種の「飽き」があっていいとも思うんです。飽きるから次に行けるし、新しいことを探す原動力になる。変なこだわりを持つより、時代の波に乗ることのほうが楽しい。それでこそ雑誌のブランドは強くなっていくとも思います。

為田: ブランドを維持するのと、同じ誌面を繰り返すのは同義ではないんですよね。そもそも、新しい何かを知りたくて雑誌を買っていただいているわけですから、私も『STORY』でしか通用しない「お約束」やこだわりにとらわれてはいけないと考えています。時代の空気や読者の嗜好が変わる潮目を読めるかどうかが、編集者の腕の見せ所でしょう。編集者の仕事は、旅行をしていても、お酒を飲んでいても、いつも企画と結びつけられる仕事。だからこそ、いま、この時代に生まれてきたことも楽しまないとね。

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