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【カンヌ直前集中連載】世界の広告賞をおさらいしよう(3)

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ゴールデンエッグ賞を題材に実験

実験を行ったのは、スウェーデンにオフィスを構えるCP+B の支社、CP+B ヨーロッパ。実験の主体となったのは同社のCCO グスタフ・マートナーが率いるクリエイティブ・チームだ。

CP+BヨーロッパのCCOグスタブ・マートナー

CP+BヨーロッパのCCOグスタブ・マートナー。スウェーデンのローカル広告賞「ゴールデンエッグ」の入賞作品が果たして国際的な審査員にどのように評価されるかを知るための調査を実施した。

スウェーデンには古くから存在するゴールデンエッグと呼ばれる権威あるローカル広告賞がある。ここ数年、この賞のエントリーは急速に減少していた。世界的経済不況の中で、多くの広告会社は、ローカル賞と国際賞の両方に応募するだけの経済的な余裕がなくなっている。しかし、ゴールデンエッグへのエントリーの減少には、もうひとつ大きな理由があった。国際広告賞に入賞することの方が、スカンジナビアの広告会社にはより重要な使命になってきているからだ。

「カンヌライオンズのような国際広告賞を受賞すれば、そのクリエイターもクライアントも国際的な脚光を浴びる。ローカルの賞を獲っても、そうした効果はない。そこで、多くの広告主やクリエイターが、ローカル広告賞を避けて、国際的な広告賞を求めるようになった」と、マートナーは説明する。そこで、歴史と伝統を持つゴールデンエッグのようなローカル賞の意味、価値を知るために、4A(アメリカ広告業者協会)に匹敵するスウェーデンのACA(アソシエーション・オブ・コミュニケーション・エージェンシーズ) は、CP+B に本当にゴールデンエッグのようなローカル賞には価値がなくっているのかを探るための調査を依頼した。

CP+B は、スウェーデンのローカル文化とは全くかけ離れたアフリカ ガーナの首都アクラと、香港(日本を含むアジア)、ラトビアの首都リガにある広告会社に、2010 年のゴールデンエッグの入賞作品をいくつか送り、「これらの作品を再審査してほしい」と依頼した。

送られたのは、AMF 年金のCM「ベスト・シンス1994 年」、マクドナルドのグラフィック広告「まだ着かないの?」、スウェーデンICA 銀行のグラフィック広告、携帯電話会社テリアのグラフィック広告の4 点。

調査の結果を報告したレポート。表紙は「ゴールデンエッグ」賞のロゴで飾られている。

AMF年金のCM。スウェーデンの人気テレビ番組のソープオペラの主役が演じるこのCMの一場面は、他の国の審査員には皆目、何のことなのか判らなかった。

マクドナルドのグラフィック広告「ねー、まだ着かないの?」。ラトビアもガーナチームもコピーを理解したが、香港・日本チームは理解できなかったようだ。

ICA銀行の印刷広告。ガーナの審査員チームが一番理解するのに苦労した広告。

携帯電話会社テリアの広告。ラトビアやガーナは、「スウェーデンのデザインセンスが表れたよい広告」と評価したようだ。アジアチームは「まあまあ」と評価。

「この調査は、ただのギミックで行ったものではない。いくつかの重大な命題が含まれていたのだ」とマートナーは言う。①ローカル広告が国際的に理解されるのは不可能か? ②世界中どこでも理解されるアイデアは存在するのだろうか?③カンヌやD&AD のような国際的な広告賞を受賞することは、ローカルクライアントにとって本当に重要なことか?この3 つの答えを見つけることが調査の目的だったという。

各国に送られたゴールデンエッグ受賞作品が、それぞれの国でどのように評価されたかを、CP+B はドキュメンタリー映像で制作。各国のクリエイターが作品を見て戸惑ったり、笑いこけたり。売られている商品が何なのかすら理解できなかったものもある。スウェーデンの有名なソープオペラ(昼ドラ)をテーマにしたCM には、「一体何のこと?」とほとんどの国のクリエイターが首をかしげた。また中には、多くのクリエイターが「いいね」と喜んだものもあった。そういった情景が撮影され、5 分間のビデオに集約されてゴールデンエッグの対象となるスカンジナビア周辺の広告会社にくまなく配布された。同時にYouTubeにも配信し、一般からの評価も求めた。読者の皆さんにもYouTubeでビデオを鑑賞していただきたい。

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ローカルvs インターナショナル

CP+B ヨーロッパのこの調査は、さまざまな示唆があった。ひとつは、やはりローカルの文化によって広告の評価に差があること。最も大きな差が出たのは、香港に集まったアジアの審査員の評価。彼らはほとんどの広告の意図を理解できなかったようだ。一方、スウェーデンと文化が似通っているラトビアが評価が一番近かったことから考えて、広告の評価には文化的背景が大きな影響を持つことがわかる。「この実験で明確になったことがひとつ。ローカル広告はローカル審査員にしかわからないという事実。決して国際広告賞に応募する意欲と意味を否定するわけではないが、ローカル賞の重要性を認識してほしいということを、この実験の結果、声を大にして言える」という。ちなみに、この実験の結果、2011 年のゴールデンエッグへの応募作品の数は前年より9%増加した。

前々回のコラムでインタビューしたブラジルのクリエイター、ミッチェル・サーパの言葉、「カンヌでグランプリを受賞することは広告会社のクリエイターの人生を変える力を持っている。しかし、ローカル広告賞の受賞は、クライアントのビジネスを変える力を持っている。広告人としてどちらを取るか。永遠の命題だろう」が思い浮かぶのである。

【カンヌ直前集中連載】世界の広告賞をおさらいしよう(1)はこちら
【カンヌ直前集中連載】世界の広告賞をおさらいしよう(2)はこちら

文・楓セビル
青山学院大学英米文学部卒業。電通入社後、クリエーティブ局を経て、1968年に円満退社し、ニューヨークに移住。以来、アメリカ広告界、トレンドなどに関する論評を各種の雑誌、新聞に寄稿。著書として「ザ・セリング・オブ・アメリカ」(日経出版)、「普通のアメリカ人」(研究社)など。翻訳には「アメリカ広告事情」(ジョン・オトゥール著)、「アメリカの心」(共訳)他、多数あり。