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情報をコントロールできない時代、企業はメディアとどう向き合うか?(後篇)

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sumally(サマリー)山本憲資氏×NHN Japan・田端信太郎氏――「MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体」刊行記念対談

情報をコントロールできない時代、企業はメディアとどう向き合うか?(前篇)はこちら

―11月12日に「アドタイ」で連載していた田端信太郎さんのコラム「メディア野郎へのブートキャンプ」を基にした書籍が刊行しました。コラムはメディア・ビジネスに携わる人に向けたものでしたが、書籍化にあたって「社会に対して大きな影響力を発揮するメディアの構造を知ることは、一般のビジネスパーソンにとっても必要なこと」という田端さんの考えを盛り込み、大幅に加筆した内容になっています。
ビジネスパーソンの中でも、特に宣伝・販促活動に携わる企業の方たちは、メディアに関する理解が不可欠と思いますので、今日は企業を取り巻くメディア環境をテーマに、田端さんと昨年9月にネット上のソーシャルサービス「Sumally」を立ち上げた山本憲資さんにお話をいただきます。

(本記事は、「宣伝会議」2012年10月15日号に掲載されたものです)

「あなた、ダサいから売りません」とは言えないのに…

田端 企業が自らメディアを作って情報を発信していくという選択肢もあると思うけど、最近、気になっているのが、オウンドメディアとブランディングの関係。ブランディングの手段として、例えば、資生堂の「花椿」のようなオウンドメディアが存在するわけだけれど、オウンドメディアを立ち上げさえすればブランドができるのか、と言ったらそうではない。商品自体が、非常に優れていれば、メディアをつくらなくても、ブランドはつくれる気もするし。

山本 伝えたいターゲットが明確に決まっている場合には、メディアをつくることに意味があると思うし、これから知名度を上げていく段階では一貫した姿勢を伝えることができるオウンドメディアをつくる意味はあるんじゃないですか。それ以外にオウンドメディアを持つ意味があるとすれば、商品それ自体で一貫した姿勢を示し続けるのは難しいということもあると思います。商品は時代やターゲットに合わせて、変えていかざるをえなくても、オウンドメディアがあれば、一貫したスタンスを保つことができますから。

田端 なるほどね。でも、ブランディングという観点で言うと、企業側がそこに身を委ねざるを得ないネットの世界が広がっていく中で、ブランドの「世界観」をコントロールしたがるような意味でのブランディングは難しくなっているよね。
ブランド管理にこだわる企業は、自分たちのブランドが露出する場所や露出の仕方に、こだわるし、だから企業がすべてをコントロールできないソーシャルメディア上での露出を極端に嫌がる。僕は、そこで、身を委ねられないというのは、突き詰めると自社の商品や自分たちの組織に自信がないってことのような気もするんだけど、どうだろう。

山本 自信がないのとは違うと思いますよ。嗜好品の世界、いわゆるラグジュアリーブランドは特に、ブランド自体がセグメントメディアだし、自分たちの世界観が自分たちの望む文脈で伝わればよいと思っている。むしろそれ以外の人たちに自分たちの望まない文脈でブランドが露出することは、ストレスな部分もあるのでは、と。

田端 でも、伝える相手を絞ったところで、最終的に買う客までは商売上、絞り込めないよね。オカネを握りしめて店頭にきた客に「あなた、ダサいから売りません」とは言えないわけだし。自分たちのブランドイメージに合わないお客が、商品を買って身に着けて街を歩くかもしれないよね。最後は売上に転ぶなら、所詮ブランドの世界観云々とか言うのも何だか白々しいなと思って。最初から、ユーザーにいじられても、露出したほうが最終的には、売上につながるのに。

山本 ラグジュアリーブランドは、一人あたりの単価が安くても、より多くの人に売るというスタイルのビジネスモデルではないですから、難しいですよね。

「欠席裁判」されないように、自らネット世界に身を委ねるべき

田端 僕も企業が意思を持って、「こんな見られ方をしたい」と思うのは当然だと思うけれど、それが単なる表面的な話で、ただの「ことなかれ」主義になってないかって気がするんだよね。
ブランド名で検索したら、ディスカウント販売されている楽天サイトやら、ディスりまくられた記事やらがでてくるわけで、どんなに自社サイトでイメージ管理をしたところで、俯瞰的に見たら、あんまり意味がないんじゃないかな、と。それなら、あえてそういう世界に積極的に関与していって欠席裁判されないようにしたほうがいいように思うんだけど。

山本 その話の展開だと、「シャネルが楽天で自ら商品を売ったほうがいい」という話になっちゃうじゃないですか。それは違いますよね。この問題は企業が独自に対応できることではなくて、彼らがストレスを感じないようなオウンドメディア以外のプラットフォームをつくること以外に解決策がないと思いますよ。

田端 検索エンジンとパーマリンクがあるがゆえ、ネットでは動線設計が機能しない。結局、ネットの世界にはまだブランドにこだわる企業が安心して使えるようなクローズドで、セグメントされた場所ってないよね。

山本 企業は身を委ねていかざるをえない方向にあると思いますけど「身の委ね方の設計」があるんじゃないですかね。
例えば、ラグジュアリーブランドが秋葉原ではなく表参道に出店するのは、この設計の一つだと思うんですよ。別に、誰でもお店に行くことはできるはずなのに出店する街というシステムも含めて、来るお客が制限されるように動線設計されている。今、ネットの世界には「特定のセンスを持った人たちが集まる、街のように人をオリエンテッドにした場」がないんですよね。

田端 フェイスブックやツイッターにも人が集まってはいるけれど、嗜好性で「場所」がセグメントされているとまでは言えないからね。たまたま場末の居酒屋に集まった人たちが、最先端の世間話してることもあり得るって感じだよね。

山本 これが、インタレストグラフを基点にしたSNSなら嗜好性によるセグメントができる。「Sumally」のようなキュレーションメディアが目指しているのは、そこなんです。

田端 今や様々にメディアやデバイスの種類も増えているし、それぞれの抽象度も上がっているから、パッと見の雰囲気だけで、その本質を理解できないものも多いよね。でも、「Sumally」も「NAVERまとめ」も、「Tumblr」もそうだけれど、そういうモノを使いこなせたら、企業にとってすごい力になるはず。企業が情報をコントロールできない領域が増えていく流れは止まらないし、メディアの本質を理解した上で、身を委ねていくことが必要なんだと思いますよ。(完)

(本記事は、「宣伝会議」2012年10月15日号に掲載されたものです)

情報をコントロールできない時代、企業はメディアとどう向き合うか?(前篇)はこちら

ふたりのプロフィール

NHN Japan 執行役員 広告事業グループ長
田端信太郎氏
リクルート、ライブドア、コンデナスト・デジタル社で新規メディア開発を推進。2012年6月より現職。

サマリー 代表取締役
山本憲資氏
大学卒業後、電通、コンデナスト・ジャパン「GQ JAPAN」の編集者を経て、2010年4月「Sumally」設立。

『MEDIA MAKERS』
個人や企業の命運をも左右する「メディア」。企業のマネージャークラスであれば「財務諸表は読めません…」とは恥ずかしくて言えないのと同様に、今の時代「メディアについて分かりません」は通用しなくなっています。「R25」、「WIRED」、「LINE」…数々のメディアビジネスを経験した著者が、その成り立ちから影響力の正体を解き明かします。

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