ブレーン編集長 刀田聡子
“モノづくり革命”をうたう『MAKERS』がヒットし、3Dプリンタへの注目が高まり、日本でも市民工房「FabCafe」が注目を集めた。2012年は、企業(送り手)・ユーザー(使い手)・クリエイター(つくり手)の関係にドラスティックな変化が起きはじめた年だった。その中で活躍が目立ったのが、ファシリテーターやプロデューサー、コネクターなど、プレイヤーの新しい組み合わせを考え、結びつけ、企画として世の中に送り出していく人々だ。昨年ブレーンでは「共創型クリエイティブ」(7月号)、「プロデューサーとつくり手の新しい関係」(1月号)といった特集テーマで、この変化を描き出そうとしてきた。周りの力を上手く引き出し、つなぎながら化学反応を起こしていく「共創」スタイルのクリエイティブは、今年も存在感を強めるだろう。
関係性が絶えず変化し、入れ替わり、周りの景色が変わり続けるからこそ、企業の本質(アイデンティティ)を明らかにしようとする活動が、以前に増して重視されるようになった。グローバル化やマルチデバイス化が進む中、重要なのは、一つひとつの地域事情やメディアに細かく対応することより、むしろ、どんな言語やメディアでも変わることのない“らしさ”やアイデンティティを考えることだ。視線を上げ、俯瞰の眼を持つこと。近年インナーコミュニケーションに注力する企業が増えているのは、その“らしさ”をより強化しようとする動きだろう。商品、広告、CSRなどの境目が溶解していく中、一貫した“らしさ”が感じ取れるようになっていなければ、効果的なコミュニケーションは生み出せない。昨年「セルフブランディング」というワードが台頭したが、ソーシャルメディアの時代には、企業にも個人にも“らしさ”を磨く活動が求められていると感じる。
こうした変化の中で、クリエイターの役割はどう変わるのか? 商品開発やマーケティングに参加するなどの“代理業ではない”クリエイティブや、ファシリテーションやプロデュースに徹する“作らない”クリエイティブの領域が、より広がっていくはずだ。一見新しい仕事のようでいて、クリエイティブなアイデアで課題を解決する、というアイデンティティは昔も今も一貫している。メディアや手法から自由になることで、逆にクリエイターという職業の“らしさ”がはっきり見えてくる。今年も、クリエイターの力が求められるフィールドと、そこで力を発揮した素晴らしい仕事を、しっかりと描き出していきたい。
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