条例に示す事業者に課す努力義務とは?
東京都が昨年3月30日に制定した東京都帰宅困難者困難者対策条例(東京都条例第17号)の施行が今年4月からと迫っている。東京都は昨年公報で条例の内容を発表し、その後も継続して首都直下地震帰宅困難者対策協議会が検討し、最終報告を9月10日に公表していた。
本状例の施行により、都内の事業者(企業)は以下の対応を努力義務として課せられている。「努力義務」とは「従わなければ必ずしも罰せられる」ものではないが、大半の企業が従う可能性があり、「従わなかった場合に、他の企業との比較によりバッシングや風評となる」リスクを含むレベルのものとなる可能性がある。特に東京都は共助の視点から本条例を施行するため、CSR(企業の社会的責任)の立場からもどの程度事業者が対応を行う準備をしているかは、ステークホルダーから注目されるだろう。
(1)従業者の一斉帰宅の抑制
本件については2011(平成23)年11月22日付で協議会より公表された「一斉帰宅抑制の基本方針」に基づくものである。事業者に対しては、従業者のオフィス内での安全な滞在を確保するため、建物の耐震化の検証、1981年以降の新建物耐震基準(建築基準法の改正内容)の確認が含まれている。
同時に滞在する室内が安全であることを視点に、什器備品の安全な配置、オフィス内での安全なスペース確保、キャビネット・書架・物品庫・移動ラックの固定措置、キャスター付き機器・テーブル・OA機器などのデスク周辺の固定措置、ローパーテイションの床・壁への固定措置など、オフィス内において人的被害が発生する可能性の高い箇所について対策を講じることを前提としている。詳細な情報は「事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」、東京消防庁「職場の地震対策」、東京消防庁「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」などを参考にするとよい。
また、家族の安否確認をサポートするためのしくみを導入することも前提となっている。理由として、東日本大震災において、家族の安否確認が取れない人が多くいたため、従業員にオフィス待機を指示したい場合においても個々の従業員が帰宅するか会社にとどまるかの判断ができずパニックになるケースが散見されたためだ。
(2)3日分の備蓄
備蓄については、雇用の形態を問わず、事業所内で勤務する全従業員とし、水については、一人当たり1日3リットル(計9リットル)、主食については、一人当たり1日3食(計9食)、毛布については、一人当たり1枚、その他の品目については物資ごとに必要量とし、具体的に保温シート、簡易トイレ、衛生用品、敷物(ビニールシートなど)、携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池、救急医療薬品類などが例示されている。
(3)集客施設の施設利用者保護
本件については、主に百貨店、展示場、遊技場、映画館、コンサートホール等の集客施設が対象となるが、外部の訪問者が多数いる場合も考慮の対象となる。また、訪問者にそのような属性がない場合でも、帰宅途上にある帰宅難民が事業者に援護を求めてくる可能性も想定されている。今回の条例の説明では、災害時要援護者(高齢者、障害者、乳幼児、妊婦、外国人、通学の小中学生等)への対応や急病人が発生した場合の対応を事業者側が検討しておく重要性が記載されている。
急ピッチで進む事業者の対策
最近、企業内で地震への対策が急ピッチで進んでいる。都内及び近隣にインフラを持つ企業では、施設の耐震性や安全性に対するリスク診断・アドバイスを専門家に求めることも少なくない。新たなオフィスの開設、引っ越し・移転などの際に、不動産・運送業者に加え、地震対策のプロを入れて、什器備品やラック・キャビネットなどの固定、室内での安全点検、防災のための指導を受ける事例も多くなってきている。また、備蓄についても大企業では、25年度末までには配備を概ね完了する準備を進めている。
東日本大震災では、その大きな教訓として、事業者におけるEmergency Plan(緊急時計画)の中に、BCP(事業継続計画)は作成されていたもののEvacuation Plan(避難計画)が作成されておらず、従業員の安全面の視点からの対策評価が甘かったことが指摘されている。昨今の事業者における動向を見ると、建物、施設の安全性が確保されてこそ、従業員の安全が維持され、事業継続計画、避難計画・再開計画も遂行されることが再認識されつつあり、より実効性のある災害時計画が整備されている。
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