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コラム

CSR視点で広報を考える

模擬訓練でも必要なのがThink big, Start small, Do it fast!

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精緻でリアルなシナリオ作りで従業員に緊張感を与えよ

企業の年間行事で防災の日(9月1日)を超えたあたりから、毎年模擬訓練の指導要請が急激に増加し始める。東日本大震災以降、マスコミや専門家による地震などの影響についての露出が増えたという理由もあるかもしれないが、今年は特にその傾向が顕著であった。

昨今の模擬訓練は、数年前のそれと様子がかなり違ってきている。昔の訓練が、個々の従業員の役割を丁寧に演じるかのようなロール・プレイング型であったのに対して、現在は、想定外の事態をもイメージできるような思考型あるいは試行錯誤型の訓練に変わりつつある。危機的事態を誘引するサプライズ情報の入手によって劇的に変わる対策の柔軟性なども訓練では求められている。東日本大震災や原発問題で経験した「想定外」の事態から学んだ教訓と言える。

こうした思考型訓練でのシナリオは精緻かつリアルである。単純な震度(揺れ)の影響だけにとどまらず、季節、インフラの破壊状況、ライフラインや通信手段の制限、近隣住民などとの関係など多数の被害想定の中で実施される。大枠の条件設定だけでも25項目以上にわたり、それらの条件設定は当該企業の実態にあった被害想定であることに重点が置かれている点が特徴となっている。

これまでのロール・プレイング型は、確かに個々の従業員が自身の役割や全体の事業継続計画の中での立ち位置を確認する作業という意味で重要であったが、事業継続計画そのもの自体の枠から外れた事態の発生には対処できない課題が多数発見された。緊急事態の現場では、「機能停止」という状況が最も大きな問題を起こすということを、我々は東日本大震災の経験で深く心に刻むことになった。

このロール・プレイング型に代わって出てきたのが、情報が少なく結果が予測できない事態の中でもベストな選択肢をできるだけ意識的に取ろうと心がける思考型訓練である。予め多くのことを決めていても実際にその条件に合致する事態が発生する確率は少ない。そうした中で大枠の方針や考え方を決めておき、現実の事態に応じて対策を講じて行く方法だ。想定のシナリオは大胆かつ広範囲に置き、発災後の実際の現場では要所要所でできるところからすばやく実施していくThink big, Start small, Do it fast!の原則に則っている。

以下に一般的な想定シナリオと模擬訓練の要項を示すので参照されたい。

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訓練では、臨場感を出すために、実際に対象エリア内での安否確認を行い、その情報収集の中で予め事務局側が準備したサプライズ情報を取り込むことで、よりリアルな演出が可能となる。管理部門(経営企画、総務、人事、セキュリティ、広報など)のほか、製造、営業、開発などの各部門においてもシナリオに基づく被害シナリオを大胆に予想し、対策を真剣に考えることで、危機的事態にも向き合える訓練となる。訓練の当日各部門から提供される被害状況に基づき、広報がホームページに掲出する「○○地震に対する当社の被害について」のドラフトも実際に対策本部に提出する。国交省が想定する帰宅難民への対応にも呼応し、本社入口に溢れ始める一般帰宅困難者(通行人被災者)に対する対応も総務が避難所誘導者を出したり、一部受け入れを検討するなどの対応を判断する。本社内負傷者の止血訓練や受け入れ要救助者に対してのAEDの実施訓練なども同時に行う。

実際に手順を踏むことで、思わぬ伝達ミスや情報収集の困難さ、判断材料不足などの事態に遭遇し、さらに試練を重ねることになるが、そうした学習が現実の地震などの発生では大きな経験値となる。

ある会社では、「対策本部設置の初日に数百万円の現金が必要」と申請したが、金は経理が用意するものと始めから思い込んでいたこと自体が間違っていた、と反省することも。実は現金という形で不測の事態に備えて金庫内で保管している企業は意外にも少ない。

模擬訓練を行うことは、単に事業継続計画の中での自身の役割や責務を検証するだけでなく、実は全体の流れの中で「想定外」事態が発生しても、会社の基本的な方針、考え方を応用し、厳しい環境下においてもベストな対策を選択できる能力を身につけさせる予備的学習と考える方がよい。

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー

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