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「東京を演奏する」サイトはこうつくられた――TOKYO CITY SYMPHONY制作者インタビュー

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「TOKYO CITY SYMPHONY」の最終シーンメイキング

森ビルが4月23日にオープンした、六本木ヒルズ10周年記念サイト「TOKYO CITY SYMPHONY」。東京の都市模型に自在にプロジェクションマッピングできる、そのインタラクティブ性と映像の美しさで反響を呼んでいる。クリエイティブディレクターの大八木翼氏、演出のTAKCOM氏、音楽を制作した□□□の三浦康嗣氏、Webを担当したバスキュールの渡邊敬之氏に制作の舞台裏を聞く。

東京から世の中を楽しくするムーブメントを

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模型のサイズは、17×15メートルにおよぶ

「六本木ヒルズはさまざまなインスピレーションを与えてくれる場所。10周年の記念サイトは、それをインタラクティブで世界中の人に体験してもらえるものにしたかった」と大八木氏は企画のスタートを振り返る。「街のインスピレーション」という目に見えないものを、どうしたらWeb上で体験してもらうことができるのか。着目したのが、森ビルが所有する1000分の1の東京の都市模型だった。17×15メートルのこの巨大な東京ジオラマは、都市模型としては日本最大。六本木ヒルズ設立とほぼ同時に制作され、この10年間、随時新しい建造物を追加しながら、メンテナンスされ続けてきた。現在の東京の都市の姿を細部にわたり忠実に再現する、同社ならではの資産だ。

この模型を使って、「見る」だけでなく「体験」するコンテンツをつくる。そのためにプロジェクションマッピングを活用するアイデアが生まれた。「都市模型を見ていたら、ビルを指で押せそうな気がしたんです。楽器を弾くみたいに、都市を演奏するイメージが湧きました。そこから、PCのキーボードを押すことで模型が反応を返してくれるインタラクティブなコンテンツが作れないか、という風に広げていったんです」(大八木氏)。

その実現のための手法として選んだのが、プロジェクションマッピングだ。プロジェクションマッピングは、この1~2年日本でもさまざまなイベントで行われ人気を博しているが、巨大な建造物に照射するだけがその使い方ではないと考えた。模型を“動かし”、“体験”できるものにするために、プロジェクションマッピングが最も有効だと判断した。

Webサイトのテーマは「TOKYOを世界にプレゼンする」。東京から世の中を楽しくするムーブメントを起こしていく、という六本木ヒルズ10周年のテーマ「LOVE TOKYO」と呼応する形で、東京を世界に誇る街として見せていくというゴールが定まった。

映像、音、Web制作――それぞれのチャレンジ

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未来都市をイメージした「FUTURE CITY」

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眠らない賑やかな街「ROCK CITY」

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花鳥風月のモチーフを使った「EDO CITY」

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3つの都市テーマから演奏する都市を選べる

「TOKYO CITY SYMPHONY」の映像には、未来都市をイメージした「FUTURE CITY」、眠らない賑やかな街「ROCK CITY」、花鳥風月のモチーフで自然との共生を表す「EDO CITY」の3つのテーマが設けられている。東京を表す「○○CITY」の候補を100以上出した中から、現在の東京を表すのにふさわしいテーマを絞り込んでいった。東京の街が持つ多様な顔を、異なる複数の世界観の映像を通じて描き出す狙いだ。

映像を見た人がまず驚くのが、何と言っても、数センチメートルのビル模型一つひとつに映像を正確に照射するその精巧さ、計算が行き届きた美しさだろう。この映像制作はP.I.C.S. managementのTAKCOM氏が手がけた。昨年9月に実施され話題を呼んだ東京駅舎のプロジェクションマッピングなど、これまでも同氏は数々のプロジェクションマッピングを手がけており、その実績から声がかかった。

「とはいえ、これほど細かい模型へのプロジェクションマッピングは初めてです。建物の壁面は凹凸はあっても一つの『スクリーン』としてとらえられますが、小さな模型の側面一つひとつに照射しながら立体的な映像を作り上げていく作業は、通常のプロジェクションマッピングとは全く異なりました」(TAKCOM氏)。映像表現に入る前のそもそもの課題として、どうすればこの模型に照射する映像がつくれるのか、という問題があった。模型全体を3Dスキャンする方法も試してみたが、思ったように作業が進まない。さまざまな方法を試した結果、プロジェクターと同ポジで模型を撮影し、その画像をテンプレートに映像をつくり込んでいく、通常のプロジェクションマッピングと同じ方法を採ることにした。

音楽制作も膨大な作業量を必要とした。0.5秒、1秒、2秒といった細切れの映像素材は全部で70種以上。その一つひとつに音を当てていく作業だ。これらが、キーボードの一つひとつに対応して鳴る音となる。「とにかく音のバリエーションをどれだけ揃えられるかがキーでした。さらに、それがどう組み合わさっても、一つの曲として聴こえないといけない。そしてFUTURE・ROCK・EDOの3つのテーマごとに音を明確に変える必要もありました」と□□□の三浦康嗣氏。それらの条件を満たした上で注力したのは「やらされている感」をユーザーに抱かせないこと。インタラクティブコンテンツは、よほどよくできていないと、すぐに飽きられてしまう。「Garagebank」(Macにプリインストールされている音楽編集ソフト)よりも面白いものをつくる、と個人的に目標を掲げて取り組んだという。

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キーボードの操作画面

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ユーザー一人ひとりの曲がつながって一つのシンフォニーになる

そして最後にバトンを渡されたバスキュールのWeb制作チームには、こうした複雑な工程をユーザーに一切感じさせず、シンプルなインターフェイスに見せることが求められた。インタラクティブコンテンツは、実際にシステムを動かして触ってみなければ、その是非が判断できない。「そのため、できるだけ早い段階で正確なモックアップを作るのが僕たちの役割。そこから、トライ&エラーを繰り返してクオリティを高めていきました」と渡邊敬之氏。モックアップをつくっては、全員で試し、意見を出し合う。その意見を反映させて、再びフィードバックを得て…という作業を約3カ月間、ひたすら全員で続けることとなった。「ずっとFlash制作に携わってきましたが、もうFlashの技術だけでは新しいものは生みづらくなっています。今回映像のTAKCOMさんと音楽の三浦さんと組んでチームで化学反応を起こしながら制作できたことが、自分にとっては一番の収穫になりました」(渡辺氏)。

世界中の人に見てもらいたい

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制作チーム。左から、バスキュール 馬場鑑平氏、TAKCOM氏、SIX 大八木翼氏、□□□ 三浦康嗣氏。

「遊べば遊ぶほどハマっていく、もっと遊びたくなる、そんな“フィーリング”をデザインしたかった」と大八木氏。「目指す姿は最初から明確に見えていたけれど、行く方法はチームで作りながら考えました。全部が新しいことだったから『これをやってください』と人に渡すこともできない。全員でプロセスそのものからつくっていったように思います」。

現在、TOKYO CITY SYMPHONYのサイトでは各ユーザーが東京の街を“演奏”して生まれた曲が流れ続けている。ひとときも留まらずに姿を変え続けるその様子は、めまぐるしく変化する「TOKYO」という街の姿そのものだ。公開から約1週間、シンフォニーのプレイヤーは1万人を突破。できあがった曲の長さは8万秒=20時間以上を超えた。ソーシャルメディアで拡散し、国内外のメディアで取り上げられたことで、「TOKYOを世界にプレゼンする」という目標にも近づいた。「自信を持って世界の人に発信できるコンテンツ。とにかくいまは、世界中の人に見てもらいたい」と大八木氏。今後、この模型とプロジェクションマッピングは、六本木ヒルズのイベントでの公開、アーティストとのコラボなども検討されており、同社の資産にひとつ新たな価値を加える形となった。

スタッフリスト

企画制作:SIX+P.I.C.S.+バスキュール
クリエイティブディレクター:大八木翼(SIX)
演出:TAKCOM(P.I.C.S.)
Webディレクター+プログラマ+デザイナー:馬場鑑平、渡邊敬之、前田定則(バスキュール)
音楽制作:三浦康嗣(□□□)