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コラム

楽天大学学長が語る「EC温故知新」

なぜスーパーで買えるソフトドリンクが、価格競争せずにネットで月商7000万円売れるのか?

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それらの取り組みが実り、だんだんアクセス人数が増えていくなかで、「買ってもらいやすくするための商品企画」や「自販機では売っていない商品企画」の取り組みも進んでいきます。ここでは代表例を3つ紹介してみましょう。

「独自の価値」のつくり方、3つの事例

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一つめは、「ミネラルウォーターのお試しセット」
通常、1銘柄につきペットボトル24本で1ケースとして販売しているものをバラして、「6銘柄×4本」のような独自セットをつくり、「お好みのミネラルウォーターを見つけてください」と提案していきました。

代表例その2は、「黒烏龍茶」。
2006年に新発売された「トクホ(特定保健用食品)」の黒烏龍茶がまだ世の中に認知されていなかった頃から、黒烏龍茶を中心にした「健康特集」に注力しました。たとえば、「父の日ギフト」として「お父さんのストレスタイプ別コンテンツ」「健康診断で数値が気になる項目別コンテンツ」などをつくったり、食欲の秋に「ダイエット特集」、年末年始に「忘年会特集」をやるなどして、「父親や夫の健康を考えるなら黒烏龍茶」というイメージを定着させていきました。その結果、黒烏龍茶は月に1000ケース以上売れる、お店のランキングで常に1位の人気商品になり、お店全体の転換率(コンバージョンレート)も9%を超えるようになります。転換率というのは「接客力」を表す指標です。その推移は、2003年で3%台、2005年で7%台、2006年で9%台となっており、接客力が上がっていることが伺えます。

代表例その3は、「いろんなとこの地サイダー 昭和レトロ 2本×8種類」

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2006年夏に、お客さんから届いた「いろいろな地サイダーを飲んでみたい」というリクエストがきっかけとなり、中江さんが「たしかに味わいも違うので飲み比べできたら楽しそう。いっそのこと、レトロな雰囲気のダンボールをつくってオリジナルセットをつくっちゃえ」ということで実現したセット商品です。これがメディアに取り上げられるなどして看板商品へと育ったことによって、お店全体の転換率は10%を超えるに至ります。アクセス人数が伸びながらの転換率10%超えというのは、「エクセレントなネットショップ」を見分ける判断基準の一つといってよいでしょう。実際、黒烏龍茶と地サイダーセットが売り上げを牽引した結果、2008年7月の月商は7829万円を突破しています。

有事でも「いつも通りに商品を届ける姿勢」が信頼につながる

「いわゆるソフトドリンクのお店」では、1999年から「翌日配送」にこだわり、朝10時までの注文はすべて翌日に届く体制を構築していました。これは中江さんの「命の根幹である水を商う者」としての矜持(きょうじ)の現れの一つです。出店当初から掲げられている理念が、会社概要ページに書かれています。

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その理念を「使命」として実感することになったのが、東日本大震災でした。飲料水を求めて人々が大混乱するなか、中江さんはとにかく「いつも通り」、すなわち翌日到着を目指してできる限りの対応をします。大手飲料メーカーに「いつ何が入荷するのか」を問い合わせ、配達可能地域を確認し、すでに注文を受けているお客さん一人ひとりに連絡を取って現況と到着予定日を伝えました。そして、方々に手を尽くし、販売できる商品の在庫を確保。在庫状況を逐一ページで更新し、「いつも通り」に翌日到着でお届けしたのです。この対応に感激したお客さんのコメントが、レビューにたくさん残されています。

これらの事例を通して、私が大切だと思うのは次の3つです。

自動販売機の前に立って「呼び込み&接客」をする姿勢

前の記事からの繰り返しになりますが、この連載では、ネットショップには「究極の自動販売機」型と「究極の対面販売」型という2つの方向性がある、という前提(第1回参照)で考えてきています。
ネットショップというものを「自動販売機」的にとらえる人にとっては、「価格が安い順」に並べ替えができてしまうネットのショッピングモールや価格比較サイトというのは、過酷な環境といえます。これを現実(リアル)に置き換えてイメージ(妄想)してみるなら、「たくさんの自動販売機が、【右から安い順】に並べられている状態」のようなものでしょうか。お客さんは、まず右端の自販機へ行き、品切れになっていなければそこで買います。右端の自販機が見たことのない、ややうさん臭い感じであれば、その左隣りにある「買ったことのある自販機」で買う人も出てきますが、右から10番目、20番目にある自販機が選ばれる可能性はかなり低くなります。そこで、少しでも右側へ行けるようにがんばろう……と、価格競争に巻き込まれていくわけです。

この私の「妄想」を聞いた中江さんは、「自分だったら自販機の前で呼び込みするなぁ」と言いました。これこそ、「対面販売」の道です。人はたとえ右から安い順に並べられていても、右から10番目のお店で面白そうなイベントをやっていて人が集まっているのがわかると、寄ってのぞいてみたくなるものです。

有事でも「いつも通り」に商品を届ける姿勢

「究極の自動販売機」と「究極の対面販売」の大きな違いの一つは、有事の対応かもしれません。たとえば、いまあるビジネスの前提が崩れてしまうようなハプニングが起こって商品価格が暴騰したような場合には、値上げをするのがビジネスとしては当然の対応と考えられます。しかし、あらゆる手を尽くして、時には短期的に持ち出しをしてまでも自らの「使命」をまっとうするために値上げもせず「いつも通り」に届けるためのアクションを取るという道もあります。その姿勢に感動・感激・感謝したお客さんとの関係は、「売り手と買い手」を超えたものになることでしょう。「究極の対面販売」は、人と人との間の営みなのです。

自動販売機としてのサービスレベルを妥協しない姿勢

今回のような「面白い企画が大事」という話をすると、とても共感し、ワクワクしてくれる人がいます。ただ、そのなかに、「面白い企画をやればすべて解決する」と解釈してしまう人がいたら要注意です。中江さんのお店の事例を紹介するにあたって強調しておきたいのは、12年前から「10時までの注文は翌日配達」という自動販売機としての基本機能をきっちりと確立した上での「面白い企画」だということです。現在「いわゆるソフトドリンクのお店」では「13時までの注文は翌日配達」とレベルアップしているものの、配送スピードのレベルとしてはもっと早いネットショップも出てきています。その状況で「ウチは楽しい企画がウリだから」と、配達に2〜3日かかるままで妥協しているようでは、お客さんの選択基準で「足切り」にされる可能性があります。ネットショップに求められる最低レベルのサービスというのは時代とともに変化していくので、そこは満たした上で「面白い企画」をやると極めて効果的になる、という話として受け取っていただければ幸いです。

※この連載では、「EC温故知新」というテーマで、「自動販売機型のネットショップにはできない売り方」でお客さんを魅了する事例などを中心に紹介していきます。