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コラム

原田朋のCHIAT\DAY滞在記 ~リー・クロウの下で365日~

世界のクリエイターは、なぜ移籍するのか?

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ロスの日本人CD。

原田氏2

夜中のベニス通り沿い、肉とタコスを焼くいい匂い。でもひとりじゃ行けないかも。

「ナイトタコスを食べに行くんですが、一緒にいきません?」

このあいだの土曜の夕方、ゴウからメールが来た。ひとりで夕飯何食べようかなと考えてたところだ。行く行く。もっとも、タコスってタコ焼きみたいなもので、ごはんというより小腹がすいたら食べるって感じだそうだが。

ゴウは、博報堂の3年下の後輩コピーライターだった。今は、ロスのTBWA\Media Arts LabでCDをしている。つまり、国を越えて移籍した日本人クリエイティブディレクター。日本出身で、グローバルな舞台でCDをしている人がどれだけいるか分からないが、こんな後輩(もはや先輩)がいてとても僕は誇らしい。

夜の10時に、タコトラックと呼ばれる屋台トラックに、たくさんの人が集まっている。見たところ、メキシコ系の人たちがほとんどだ。肉が焼けるいい匂いの中、行列しながら、アホな話からマジメな話までいろいろした。

原田氏3

ゴウ。そんなポーズは見せないけど、すごい努力家だと思う。

「こっち来た時、TOEIC500点台だったんすよ。『24』を字幕なしで見まくりました」
「ほんと?!僕は今『SATC(セックス・アンド・ザ・シティ)』見まくってる。今後も日本からのクリエイターがアメリカで働けるかな?」
「英語ネイティブじゃないとこっちでコピーライターはまあ無理。むしろ、CDの方が可能性あると思いますよ」
「日本のエージェンシーってこれからさあ…」
「日本発のグローバルエージェンシーがないのは悔しいですよねえ」

ゴウと僕は、実は、東京コピーライターズクラブ新人賞を2000年にいただいたTCC同期だ。まさか、2013年にロスでこんな話をしているとはね。タコスを食べたあと、少しビールを飲んで、こんどはダウンタウンの向こうにドーナツを食べに行く約束をして別れた。

東京とロス。日本とアメリカ

原田氏4

東京会館、純和風の金屏風にて。フクベ(左/審査員特別賞!)とハシヅメ(右/メダリスト!)に囲まれて。

5月の終わり、僕は東京に3日間だけ帰った。JAAAの2012年クリエーター・オブ・ザ・イヤーのメダリストという身に余る賞をいただくことになり、授賞式に出席しないのはありえないと思って、無理をして帰った。

東京は、まだ離れて2カ月半なのに、梅雨の湿気も、電車の混み具合も、もう何もかも懐かしい。ああ日本ってこうだったなあ。

授賞式会場でいろんな人に会えてうれしかった。会場では、同世代、同時に受賞した博報堂のフクベとハシヅメと「何か変わったことあった?」なんて話したり、行く前に飲もうと言ってたのに飲めなかった博報堂のムナカタさんとやっとビール飲めたり。その夜は、ほんとうに偶然にも、出国直前に手がけた仕事の祝勝会があり、顔を出して、TBWA\HAKUHODOのザマさん、ユウゾウさん、ミヨシさん、そしてマツイさんとご飯を食べることができたり。

ロスで気を張っている分、好きな人に会うとなんだか心がふにゃりとしてしまい、3日間の滞在でよかったなあと思う。日本に根が生えてしまう前に帰らなきゃ。

さて、気合いを入れ直して、シャイアットデイズ再開。みんな「日本はどうだった?」って聞いてくれる。そういう挨拶文化なんだけど、自分の存在が承認されてる感じでちょっとうれしい。

帰りの便は、深夜1時に羽田発。便利になったものだ。飛行機を待ちながら考える。

日本に「和を以て尊しとなす」「空気を読む」という言葉があるのは、同じ人々と同じ場所で、ずっとやっていくための知恵なのだろうと。一方、居場所を変わることが当り前のアメリカ広告業界では、しばらくしたらいなくなるし、逆に言うと、成果を出さないといられなくなるので、自己主張し、早く結果を出して、次のステップにつなげようとする。

でも、だからといって、仲が悪いわけじゃない。日本の会社で知らない社員と廊下であっても挨拶しないけど、シャイアットでは、何かというとみんな挨拶するし、話しかけるし、むしろ友達になろうとする。

それは、ずっと同じ場所にいられないからこそ、今ここで会えた「縁」を大切にするふるまいなんじゃないだろうか。みんないつかは、去っていく。アートディレクターのティファニーが言うには、彼女がシャイアットに来て以来の2年間で、半分以上のクリエイターが入れ替わっているそうだ。

海賊船を標榜するシャイアットに、世界中から海賊が集まり、また世界中へ散って行く。ここで手に入れるものは、それぞれ。僕は、あと9カ月半で何を持って帰れるのか。