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「脱成長〈デクロワサンス〉」持続可能な経済モデルをめぐる思想潮流(2)

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「脱成長〈デクロワサンス〉」持続可能な経済モデルをめぐる思想潮流(1)に引き続き、『環境会議』2013秋号から、気鋭の研究者による論文を紹介します。

中野 佳裕 国際基督教大学社会科学研究所助手・研究員

(2)倫理の再構築


2012年5月に、カナダのモントリオールで開催された脱成長会議。会議の報告書はアーカイブされており、ダウンロード可能。(Photo by desazkundea.org)

アントロポセンの時代が示唆することの1つには、倫理の再検討がある。19世紀以降拡大発展を続ける産業文明は、20世紀後半以降、欧米・日本の先進工業国を中心にエネルギー・資源を大量消費する消費社会を形成するに至っている。そして現在、中国・インドなどの新興工業国を先頭に、世界の多くの諸国が、工業化を通じて消費社会へいたるために経済開発を行っている。

しかし、消費社会の地球規模での普及は、地球資源の枯渇や原発事故に代表される科学技術のサイド・エフェクトなど、生物圏の再生産能力に多大な負荷をかけている。最新の調査によれば、人類全体のエコロジカル・フットプリントは、2008年時点で生物圏の再生産能力の1・5倍に達した。消費主義的な産業文明は維持不可能な段階にあり、『成長の限界』の著者の1人デニス・メドウズは、2012年に行われた同書の40周年記念インタビューで、「人類は破滅のシナリオへ向かっている」と診断している。

消費社会に内在する倫理的問題は〈節度〉の感覚の喪失にある。消費社会に暮らす人間は、自身の生活が将来世代や自然界に与える影響を想像し、自らの行為(生産、消費)に制約を設ける力を失っている。〈節度〉の感覚の喪失の主因は、生産力至上主義的な〈進歩〉の思想に帰趨する。



2012年9月に、イタリアのベネツィアで開催された脱成長会議。会議のもようは動画で視聴できる。(Photo by AnnaGladkikh)

19世紀以来、科学技術の開発とそれに伴う産業資本主義の発達が人類の生存と繁栄を保証すると考えられてきた。

ところが、近年高まる生態学的危機、そして科学技術に内在するリスクは、かつては人類の進歩の牽引役と考えられてきた産業社会とそれを支える科学・技術・経済の三位一体の体制が、逆説的にも人類の生存を脅かす可能性を顕在化した。

この隘路から脱出するために、脱成長の企図は、〈節度〉の感覚の回復を提案する。近著『〈脱成長〉は、世界を変えられるか?』でラトゥーシュは、世界の様々な社会思想を援用して〈節度〉の倫理のレパートリーをいくつか提示している。

1つめは、アリストテレスの「知慮」に代表される、「熟議を通じた慎重な判断能力」の再生である。潜在的なものも含め、産業文明の負荷を総点検し、将来世代の生存条件を悪化させないように、科学・技術・経済の諸制度の質的転換を促すことが重要である。

もう1つは、限られた資源や財を人々と分かち合うことで、資源浪費を行わない節約的な社会をつくることである。ウ
ィリアム・モリス*4、ジョージ・オーウェル*5、イヴァン・イリイチ*6、コルネリウス・カストリアディス*7など、「慎ましさ」や「自律」の倫理を発展させた社会思想の系譜がこれにあたる。

*4 ウィリアム・モリス(William Morris,1834−1896)は近代デザインの創始者といわれる19世紀のイギリスの芸術家。産業革命後の大量生産の時代、手仕事の重要性を強調した。
*5 ジョージ・オーウェル(George Orwell,1903−1950)は、『1984年』『動物農場』等の作品で知られる20世紀イギリスを代表する作家。
*6 イヴァン・イリイチ(Ivan Illich,1926− 2002)は、ウィーン生まれの哲学者。『脱学校の社会』『脱病院化社会』『専門家時代の幻想』等、アメリカ最下層で暮らすマイノリティの人々のために奔走した社会活動家としての経験を踏まえて展開した現代産業社会批判で知られる。

 

『環境会議2013年秋号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。(発売日:9月5日)
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