コラム

脳のなかの金魚

2014とは何か

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このコラムについて
世界一知的でグラマラスな、クリエーティブの教養コラム。著者は日本、海外合わせ200以上の広告賞受賞歴を持つ、電通 コミュニケーション・デザイン・センター長 エクゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの古川裕也さんです。これまで出会ったさまざまな名作映画、音楽、小説を手がかりに、広告クリエーティブの仕組みや考え方をつづっていきます。

中村勘三郎とコクーン歌舞伎を立ち上げた演出家の串田和美が、「無理め」な演出、つまり演者に相当な負担を強いる時、さすがの中村屋も一瞬躊躇する場面があったと言っている。その際、彼を説得する決め手になったのは、「これ、誰もやってないですよ」というひとことだったという。

勘三郎というと、まずこのエピソードを思い出す。彼のクリエーティブ・パースンとしての本質が、とても明解に現れている。この殺し文句に殺されてこそ表現を仕事にする人間だと思う。

同じ夢をよく見る。
ここ1年くらいの間に、表参道から石油が出る夢を何度か見た。

交差点から少し原宿寄り、ハナエ・モリ・ビルがあったあたり。地下鉄A1出口を出てすぐのところ。夢の中ではいつも、僕は、奥さんと川上庵にごまだれそばを食べるためにとろとろ歩いている。車道には、原油が高く噴き上げている。とても機嫌のよい、黒い巨大なターミネーターみたいだ。それを眺めながら、歩く。『ジャイアンツ』のジェームス・ディーンのように、石油を浴びて、我を失って笑い続けている人もいる。

「失われた20年」と言われる。いわゆる資産価値のようなものだけでなく、多くのものがこの20年で失われた。その中でも、いちばん損なわれたのは、何か。ひとことで言うと、「無理めを選ぶ」というスピリットではないか。

1億人が20年間、どうやってもたいしたことにはならないけれど、たぶん、もめないからという理由だけで無難な方を選んできた国と、1億人が20年間、実現するのはかなりかなりたいへんだけれど、ほんとに実現したらすごいことになる方を、つまり、「無理め」を選んできた国とでは、その差はいかばかりか。

誰も触れたことのないところに、鍬を振り下ろさなければ、石油を掘りあてることはできない。
 
明らかに変化した空気の中で始まる2014。まいにちまいにち、なんどもなんども訪れる判断、選択、決定の時。仕事に関することはもちろん、買うもの、食べるもの、着るもの、見るもの、聴くもの、読むもの、行くところ、やってみることなどなどなど。

とにかく、「無理め」の方を選んでみる。勇気をもって選んでみる。
これが、2014的に適切な態度なんじゃないかしら。

誰の助けもなく、100%自力で何かを成し遂げた人間はひとりもいない。目の前にある“きっかけ“に気づいた人だけが、そこで、えいや、と「無理め」を選んだ人だけが幸福になれる。てな歴史法則があるような気がする。

2020年東京オリンピック・パラリンピック。2014年からの7年間。
たしかに“きっかけ”にすぎないけれど、僕たちにとって、最高の“きっかけ”になり得ると思う。


atcreative-direction

本コラムの著者、古川裕也氏の初の著書が発売!

日本を代表するクリエイティブディレクターであり、電通のクリエイティブのトップを務める古川氏が、「クリエイティブディレクション」という、今まで漠然としていた技術を初めて体系化。

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