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コラム

CSR視点で広報を考える

STAP細胞論文問題のコンプライアンス視点から見る分析

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類を見ない失墜報道

論文が公開されてすぐに、画像の切り貼りや他人の論文の一部転載などが発覚、STAP細胞そのものの存在自体が疑問視される事態に追い込まれ、「生物学の常識を覆す世界的大発見」はあたかも「世界的不正・捏造」として結論付けされそうな状況に至っている。

小保方晴子氏は、理化学研究所の内部調査委員会の調査結果で「不正」とみなされ撤回を促された論文について、4月9日、反撃の記者会見を行った。

約2時間半にわたって行われた記者会見では、自らを不勉強、不注意、未熟としながらも、指摘された論文の不備はミスや軽度の誤りとして主張し、「不正」はなかった、意図的に存在していないものを存在するかのような論文は書くはずがないと涙ながらに説明した。

ミスについては猛省していたが、「改ざん」と言われた画像の切り貼りは見えやすくするため、「捏造」とされた画像データは整理不十分で取り違えたと結論付けた。

最も疑問視されるSTAP細胞の作製が本当に成功したのかについては、200回以上成功したと主張したが、その科学的根拠は未だ解明されていない。論文の撤回についても関係者が多数いるため、論文の内容の真偽を含めて結論が出ていない。

小保方晴子氏の4月9日の記者会見では、内部調査委員会が指摘したあまりにも少ない「実験ノート」の2冊の冊数に対して、4冊~5冊はあるとの主張や、内部調査委員会が行った調査そのものへの疑問として、説明や弁明の機会が少なすぎる点に触れており、事実関係の把握において不十分であるとの指摘があった。

沈静化をあわてた理化学研究所の失態

科学の分野における信頼の失墜、発見者・所属団体・マスコミ・民衆を巻き込んだ情報戦にまで至った社会現象は、劇場型テロに等しい。

「あってはならないこと」が現実に発生した理化学研究所の立場は、一刻も早く風評の沈静化を図りたかったことだろう。

しかし、このような事態が発覚した場合、内部調査委員会は一般的に以下の調査項目に着目して慎重に調査を行わなければならない。

  1. 懸念される不正が発生しているか否かの実態把握
    (1)懸念を生じさせた事実の確認
    (2)その事実が不正の存在を示唆するものであるか否かの判定
  2. 不正行為自体の全容解明
  3. 不正が発生した原因の究明
    (1)不正が発生した契機、動機
    (2)不正が防止されなかった原因(内部統制の整備・運用状況の把握並びに内部統制の欠陥の有無に関する評価)
    (3)不正が早期に発見されなかった原因
    (4)不正が抑止されなかった原因
    (5)所属する組織団体が採用していた不正防止策の内容並びに有効性の分析
  4. 再発防止策
    (1)緊急対策の内容
    (2)抜本的再発防止策の内容
    (3)対策の完了状況の把握
  5. 関係者の処分案の策定
    (1)主体的関与者の処分案
    (2)従属的関与者の処分案
    (3)管理責任者の処分案
    (4)直接関与者に対する社会的責任追求

今回の事案では、調査の適切性に対する甘さと正確性の欠落が事態の解明を遅らせている。その結果として、当事者である小保方晴子氏からの記者会見の反撃があり、事態の混乱をさらに深めてしまった様相がうかがえる。

このような事態を回避するためには、内部調査委員会の透明性を担保するため、第三者委員会を設置し、内部調査委員会の調査事項や調査手法を検討したり、調査結果を客観的な立場で評価・結論付けることが重要である。

また、評価・結論に至った理由についても明確にすることが不可欠である。関与者による不明確・不適切な事項や当該事項の当事者の意図性に関する評価についても十分触れることが必要だろう。

内部調査委員会の報告書における再発防止策の実効性についても客観的に評価し、その適切性について修正が必要であれば積極的に関与し、是正勧告するなど、今回の事態の影響の深刻さを考慮すれば、何があったのかの解明と「科学の信頼の回復」に対する徹底的な再発防止策のプロセス管理は行われなければならないだろう。

現在、小保方晴子氏は、弁護士を通じて、理化学研究所に対し、再調査と不正認定の撤回などを求めて不服を申し立て、その中で「(内部)調査委員会は自らの検証や解析を妄信して判断を誤った」などと主張し、所属組織に真っ向から反論している。

理化学研究所はこの不服申立てに対して審議を開始することを決定したが、早期に第三者委員会を設置し、客観的な視点から再調査が徹底されることを期待したい。

さらに、当然ながら、不正があった場合や仮にミスであったとしても、このような社会問題を発生させてしまったことに対して、理化学研究所内部の内部統制の整備不良や欠陥についても指摘されるべきであり、業務遂行責任と業務管理責任の両面から実態の把握、再発防止策の策定が図られることが望ましい。

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