コラム

脳のなかの金魚

何かを得た時、何かが失われるという原理について

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コント:「獲得と喪失」

――第一幕
美術館の中庭。毛利俊一・大学3年。同級生・久保真理。並んでゆっくり歩いている。バルテュス展からでてきたところ。

真理:ねえ。俊って、IQいくつ?
俊一:200は行ってないと思うよ。たしか、195とかだったかな。
真理:高いね、やっぱり。
俊一:そうかな。
真理:うん。高いよ。
俊一:そうかな。
真理:いいよね、やっぱり、IQ高いのって。
俊一:そうかな。ふだんあんまり考えないけどな。
真理:みんなうらやましがってるよ。
俊一:でも最近はもう絵描いてばっかり。哲学とか数学とかはちょっとお休みだな。
真理:今日もバルテュス夢中で見てたもんね。
俊一:よかったら、家に見に来ない?最近完成したばかりの絵がいくつかあるから。
真理:いいけど・・・、セックスはなしね。
俊一:え?
真理:だって俊のセックス、あんまり気持ちよくないんだもの。
俊一:僕、へた、かな。
真理:うんん。へたってわけじゃないけど、ちっともよくならないのよ。
俊一:わかった。練習する。
真理:いや、そういうことじゃなくて。なんていうのかな、理論的には正しいんだけど結
   果的にはまるでだめ、みたいな感じかな。うまくいえないけど。
俊一:うーん。むつかしいな。なんかゴールイメージみたいなものがあると、プロセスを
   最適化してミッションをはたせるんだけどな。
真理:そうよね。でも、俊、上達するよ、きっと。だいじょうぶ。
   “アタマのいい男ほどセックスがうまい”って、マルグリット・デュラスも
   言ってるわ。嘘だけど。

俊一の部屋。ひとりでマンションに住んでいる。2LDKくらいのこぎれいな部屋。

真理:どんな絵描いてるの? 見せて見せて。
俊一:最近クラスの人たちの肖像画を記憶とイメージだけで描いてるんだ。
真理:いかにもIQの高い人の考えそうなことね。
俊一:こっちの部屋だよ。(隣の6畳くらいのアトリエになっている部屋へ)
   (カヴァーをはずすと5枚くらいの絵が現れる。一応肖像画というか、顔が描かれ
    ているが、どれもひどい。ようするにへのへのもへじのへたなの、という趣き)
真理、絶句。口をぽかんと開けて、アタマから煙を出している。
俊一:そんなにびっくりしたかい。真理はびっくりするとアタマから煙を出すから。
真理の煙出しは続いている。
俊一:僕の勘がまちがっていなければ、真理、君は僕の絵を見てびっくりしたね。
   100%悪い意味で。
真理、絶句。口開け。アタマから煙。続いている。
俊一:そんなにひどいか、僕の絵は。

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