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コラム

脳のなかの金魚

何かを得た時、何かが失われるという原理について

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――第三幕
街。俊一、牛柄のよれよれの着ぐるみを着てひとりで歩いている。まわりは見るともなく好奇の眼で。交差点で信号待ちをしていると、4人がいろんな方向からやってきて彼と合流する。
みな、同じ牛柄の着ぐるみを着ている。ひとりで寂しかった彼も元気を取り戻した感じ。ただし、時々叫んだりしている。俊一、急に走り出す。4人あわてて追うが追いつかない。
曲がり角、曲がろうとして、向こうから来た人と正面衝突。アタマを強く打ったようだ。
俊一の顔つきが、ガラッと変わる。締まった顔に戻る。まわりを見て。
4人、変化に気付き、牛のままきょとん。

俊一:さあ、ハイデッガーの『存在と時間』の続きを読もう。
   確か第19節、デカルトの存在論を批判的に解釈するところだったな。
   
数ヵ月後、件の画廊で、俊一の個展が開かれている。どの絵も初期のへのへのもへじに戻っている。そのひとつにトマトが投げつけられる。それを見て俊一少なからず落胆する。
傍らの真理に、
俊一:セックスしようよ。今すぐ。
真理:俊って、IQいくつだっけ。
俊一:200は行ってないと思うよ。たしか、195とかだったかな。

真理:じゃ、しない。
   
END

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