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「人の幸福を考える人がいる限り、広告の価値はベーシックな面で高くなる。」——特別パネルディスカッションレポート<後編>

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箭内:小田桐さんは、何か感じていることがありますか?

小田桐:広告は、企業活動の一端を担うものという認識で間違いはないのですが、自分が言いたいことを聞いてもらうには、やっぱり相手に何かあげなくちゃいけない。そして、相手を思う心の余裕が、広告の「余白」や「間」に表れるんですね。だから、いまの広告は全体的に、相手のことを考えてないんじゃないですかね。それが広告の「呼吸」のような形で、表れているのかなという気がします。やっぱり息苦しいですよね。

箭内:それでは最年少の副田さん、お願いします。

副田:となりに座っている細谷さんは、作品の「レベル」という話をしょっちゅうするんです。それで言うと、民度と言うのでしょうか、この国全体のレベルが低くなっているんじゃないかと感じていて。そしてそれが、広告のレベルとも一致しているように思うんです。僕は広告が好きで、長年この仕事をしてきたんですが、最近テレビを見ていると、もう見たくないようなCMばかり流れるので、CMが始まるとチャンネルをかえるのが癖になっている。でも今日、皆さんの作品を見ていると、最近のものを含めていい広告がたくさんある。こういう広告もあるんだと思うと、日本全体で、もう少し民度を上げていかなくちゃいけないと思うんです。たぶん広告は、政治を含め、世の中のあらゆる事柄と密接に関わっている。ですから、広告のレベルが低いということは、この国が総すくみ状態というか、解決すべき問題が山積みになっていて、レベルがそうとう低いところまで落ちてしまっているのではと感じています。

細谷:口幅ったい言い方になるんですけれど、広告表現を考えるにあたっては、我々クリエイターだけでなく、クライアントにも「ヒューマニティ」というものを改めて意識していただきたいなとよく思うんです。難しい広告テクニックではなくて、表現する時のベースになる考え方–繊細なデザインワークに表れる、人に対する「やさしさ」のようなものでしょうか。そういうものを改めて意識すると、もっと仕事がうまくいくんじゃないかと思います。

宮田:人というのは、「こうなりたい」という思いを持って生まれてきたはずなんです。人類始まって以来、幸せになりたいとか、平和でありたいとか、そういう思いがベースになっていろいろな職業が生まれてきた。家を建てる人、食料をとってくる人、料理をする人、服を作る人、歌を歌う人、デザインを作る人……。長い歴史の中で色々な人が出てきては、いらなくなると消えていく。「自分たちがいても、幸せや平和にはならないな」と思った人たちは自然に消えていくのが、「時代が移り変わっていく」ということだと思うんです。ですから僕らクリエイターも、幸せとか平和といったことを求めていないと、いま存在している価値はないんじゃないかな。企業があって、広告があって、僕らがここに存在しているということは、そこでやらなければいけないことは、もう決まっているんじゃないかなと。僕らの仕事が、幸せや平和といった世の中の「空気」を作るものだとしたら、「広告だけをやってもダメで、実はセールスプロモーションのほうがいいのではないか」とか、「いや、店舗を作ったほうがいいのではないか」とか、「この会社は世の中を悪くしているから、ここの広告はやりたくない」といったことを考えながら、仕事をしていかなければと考えています。

箭内:宮田さんのお話に、秋山さんが何度か大きくうなずいていらっしゃいましたね。人が求める幸せがあって、そこに仕事が生まれるということ。そして必要なくなったら、いなくなっていくというところでしたね。

秋山:聖書の言葉を聞いているようでした。宮田さんはやはり、本当にこの世界の、もっと言うと宮田さんが考える世界の「幸せ」をきちんと考えている方だなと思いました。そういう人がいる限り、広告の価値は表現面だけではなく、ベーシックな面で高くなると思いました。宮田さん、ありがとうございます。

箭内:「人の幸福を考える人がいる限り、広告の価値はベーシックな面で高くなる」——今日この場で発表する共同声明として、ふさわしいような気がします。いまの時代、すごく不安だし、わからないことがたくさんあるし、言葉の裏に隠れているものも見えない。そういう中で、今日皆さんからいただいたお話は、すごく貴重なものでした。本当に濃密な一冊の辞書というか、それこそ聖書を紡げるようなリレーだったなと思います。あえてまとめる必要はないと思うのですが、大島さんが議長国だとして、声明を出すとしたらどんな感じでしょうか。

大島:広告を作るというのは、すごく辛い仕事です。しかし、矛盾するけれども、すごく楽しい仕事でもある。先ほども話に出たように、常に「いま」を扱っているから、いつも新しい刺激を世の中に与え続けます。その刺激が、人々にとって悪い刺激になるのか、よい刺激になるのか–それを決めるのは、広告を作る人の責任になってくる。これからの広告界を担う若いクリエイター、そして今日ここに集まってくださった大勢の方々には、よい刺激を与える作り手のエッセンスだけを、汲み取ってもらえたらと思います。

『広告ロックンローラーズ 箭内道彦と輝きを更新し続ける14人のクリエイター』
日本の広告クリエイティブを牽引してきた重鎮の方々を招き、内に秘められた広告への熱い思いや、年を重ねてもなお広告界の未来を見据え続けるクリエイティブマインドについて聞いてきた連載企画「広告ロックンローラーズ」。広告クリエイティブが長年にわたって世の中に与えてきたものとは?時代が変わっても変わらないクリエイターの役割、その本質とは?これからの時代を担う、広告クリエイターに伝えたいことは?広告界を目指す若き才能に、また広告クリエイティブを愛するすべての人々に贈る1冊です。

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※本書に収録したインタビュー記事の取材・構成・執筆は河尻亨一さん、撮影は広川智基さんが手がけました。