企業を変えた「売れ続ける仕組み」
【企業を変えた「売れ続ける仕組み」】
・商品訴求と企業ブランディングで進める大麦市場活性化
・小ロット販売でB2BからB2Cへ顧客が拡大〜タイセイ
・ネットでデザイナーズ家具を販売 絞り込むことが逆に人を集めた「リグナ」
日野浦刃物工房のここがポイント!
- 鍛冶職人としての卓越した技術を下支えとした多様な刃物づくりによって、ニーズが変化しても安定的な経営を維持している。
- ものづくりの現場に入ってくる新たな人材を受け入れられるよう、体制を整えている。作業工程の一部を機械化する試みは、かねてから進めてきた。
- デザイナーなど、業界外の人材とのコラボレーションにも積極的に取り組み、今の時代に受け入れられる、これまでにない刃物づくりを目指している。
鉈から庖丁へ―技術を生かして拡大
「鍛冶職人は、刃が付いているものなら何でもつくれるんです」――山林用鉈なたや庖丁、アウトドア刃物などを手掛ける日野浦刃物工房の若き4代目、日野浦睦氏はそう言い切る。
父で3代目の司氏の病をきっかけに22歳で家業を継ぎ、鍛冶職人に。以来10年にわたって、研ぎやすく、欠けにくく、長切れする、エンドユーザー目線の刃物づくりを志向し、その技術と実用性、機能美は国内外で高く評価されている。
日野浦刃物では代々、鉈をメインにつくってきた。鉈の需要は漸減傾向にあるものの、一方でアウトドア分野の需要が増えていることもあり、受注数は安定的だという。
「刃物が売れなくなってきているとは言え、確かな技術を持っているところは、それほど収益を落としていないと思います。最近では家庭用庖丁の注文が増えていて、うちでは今、庖丁、鉈、ナイフの順に売上が大きいですね」。
欧米で販売している庖丁も好調で、現在は売上の約半分を海外が占める。
2006年に、世界最大の消費財見本市「フランクフルト・メッセ・アンビエンテ」へ初めて出展した際、試しに持って行った庖丁が思った以上に好評だったことがきっかけだ。
「鉈の需要は、なくなりはしませんが、家庭に1本必ずあるかというとそうではない。絶対数から言えば、やはり家庭用料理庖丁のほうが多いですから、事業に柱をもう1本立てるイメージで、庖丁もつくるようになりました」と日野浦氏。
「使えば分かる」の壁
日常生活の中で誰もが使う機会の多い刃物だが、その質の良し悪しを正しく判断し、良いものを選ぼうという意識を持っている人は、そう多くないのではないだろうか。
日野浦氏も、「味方屋や」(日野浦刃物のブランド)の刃物の良さを伝えることに苦慮している。
「刃物の良し悪しは、使うと分かる。良いものは切れ味が全く違いますし、質が悪いものはすぐに刃が欠けます。しかし逆に言えば、使わないと分からないから、売るのが難しいんです。展示会でも、その場で使ってもらうわけにはいきませんから(笑)」。
そうした中で質の良さを証明するのは、口コミやリピーターの多さだ。
「つくるのに、とにかく手をかけている。例えば、表面に波状の模様が広がる庖丁は、素材である鉄から自分でつくり、刃を何層にも貼り合わせながら、多種多様な模様を描き出していきます。そういう手間のかかる技を、海外でも評価いただいているのだと思います」と自信をのぞかせる。
たとえ良さが分かったとしても、気軽に手を出しにくい価格帯であることも自覚している。しかし日野浦氏は、「そのままの価格で挑戦したい」と話す。
「安くする必要はなく、高くても買ってもらえる市場をつくればいいと思っています。そのために最も重要なのは、切れ味や、他には出せない模様の美しさなど、モノの違いが分かるバイヤーさんと組むことです」。
日野浦氏は、日本の刃物市場が振るわない理由の一つに、売る人が商品の良さを十分に理解できていないこともあるのではと指摘する。
「刃物を扱う問屋・小売り店は、かつては誰もがブランドごとの違いを理解して、それをユーザーに説明することができてました。しかし今は、取り扱うアイテムの数があまりに増えたために、一つひとつの特徴を把握しきれなくなってきています」。
その状況を問題視し、日野浦刃物は、より多くの人に商品の真の良さを知ってもらうべく、刃物専門のバイヤーと組むことを重視している。また同時に、ものづくりの現場にも、取り組まなければならないことが山積しているという。
「商品に、オリジナリティが必要になってきているんです。資本力がある企業は刃も柄え も自社独自のものをつくることができますが、規模が小さいところは、市販の柄を使うケースも少なくない。でも最近、その状況が変わってきています。
小さい工場(工場)同士が連携することで、大手に負けない独自性の強い商品をつくることができるのです。刃物メーカーがたくさんあるように、木柄メーカーも無数に存在します。商品ごとに様々なメーカー同士で組むことで、独自性の強いものができる。
厳しい市場環境下でも、三条の職人同士で力を合わせれば、小さな企業でも生き残ることができると感じています。」
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