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業界外の人材とのコラボで、優れた伝統技術を未来に受け継ぐ――日野浦刃物工房

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新しい人材を受け入れる仕組みづくり

日野浦刃物工房の刃物の数々。左と右が「味方屋」作、中央が「司」作。

使う人が異なれば、求められるものは異なる。それが鉈という刃物の特徴だ。一人ひとり、目の前のお客様に合わせたものをつくり上げる、「ユーザーにとっての使いやすさ」を追求する姿勢の原点がここにある。

日野浦氏は、2014年に行われた「燕三条工場の祭典」で実行委員長を務めたことで、メディアからの注目を集めた。

金属加工の産地・燕三条地域で2013年にスタートした同イベントは、普段は見ることのできない数々の工場の内部が一斉解放されるもの。一般の人々が工場を訪れ、職人と対話したり、その手業を間近に見たり、ワークショップに参加したりできる。

「参加してみて改めて痛感しましたが、僕と同世代で、こういう産業に携わっている人は本当に少ない。誇張ではなく、10年後にはつくれないものが出てくる可能性が大いにあるんです。だからこそ、まずは多くの人に、燕三条の優れた技術と、魅力的なものづくりを知ってもらう必要がある。イベントをきっかけに、工場の後継者になってくれる人が少しでも出てきたら…そんな思いで実行委員長を務めました」。

家庭用料理庖丁は海外でも好評。ドイツの庖丁メーカーと現地販売代理店契約を結んでいるほか、刃物専門のバイヤーと連携して全世界への販売網を築いている。

さらに日野浦氏は、このイベントを、メーカー側の意識を変えるきっかけにもしたいと話す。具体的には、業界外から就職してくる人を受け入れる姿勢・体制を整えることが必要だという。

「日野浦刃物も、規模は小さいながら、世界に通用するものをつくって、それをビジネスにできるような仕組みづくりを常に心掛けてきました。例えば、刃物づくりの現場に、機械をいち早く導入したことが挙げられます。導入と言っても、同業の方から譲っていただいたものばかりですが……。

昔は1から10まで全て手作業が良いと言われていましたし、肝心なところは今ももちろん手でやりますが、機械の機能は格段に進化していて、削りや磨きといった加工は機械のほうが圧倒的に高い精度で仕上げられる。ボタンを押すだけで、刃物づくりの一工程を進められる機械化は、業界外から新しい人が入ってきても仕事をできるような体制づくりにもつながっていると思います」と日野浦氏。

部分的に機械化したことを除けば、刃物の製法は今も昔もほとんど変わらない。

しかし、日野浦氏は「現代のライフスタイルにおいて、どんなものが求められているのかを理解・把握し、その中で自分たちが何をつくれるかを考えることも大切だと思います」と話す。

h conceptとのコラボレーションで生まれた「ミニナイフ&カッティングボード」。味方屋の切れ味と使いやすさを、現代のライフスタイルの中で身近に感じてもらえるプロダクトを開発した。

例えば庖丁に対するニーズで言えば、キッチンが小さくなっているので、刃物も小ぶりなものの需要が高まっている。また、木製ではなくプラスチック製のまな板を使う人が多いため、耐摩耗性の高い長切れする刃物が求められているという。

現代の生活に調和する刃物づくりには、近年、特に積極的に取り組んでおり、なかでもデザインブランド・h concept(アッシュコンセプト)とコラボレーションしてつくった「ミニナイフ+カッティングボード」は反響が大きかった。

「女性が持つことを意識してデザインに取り組んだのは初めてでした。モニタリングをして、その結果を見てどんどん改良を重ねていく商品開発は、これまでにない経験で、刺激的でしたね」。

また4月には、廃校になった三条市立南小学校が「三条ものづくり学校」に生まれ変わる。「世田谷ものづくり学校」の姉妹校で、三条の技術と伝統に、新たなデザインやアイデアを加えて発信したり、職人・デザイナー・企業、そして地域がものづくりをキーワードにつながり、交流することを目的としている。

「そこで、デザイナーなど業界内の人と組むことで、また新しいものをつくれるのではと期待しています」。伝統の技術と、進取の感覚。日野浦氏の、刃物の価値向上に向けた挑戦は続く。

日野浦睦(日野浦刃物工房4代目)
職人歴は14年以上。工業短大を卒業後、岐阜県のナイフメーカーに就職が決まっていたが、父親の病気で鍛冶の道に入り、今では日野浦家のブランド「味方屋(あじかたや)」の刃物を任されている。「鍛冶屋は、形あるものは全てつくることができる」と信じ、日々作品を生み出している。より多くのものづくりを目指すのではなく、より多くの信頼を得るものづくりを目指す。


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