大手企業が本当の意味で顧客を巻き込むには
昨年、ソニーが社名を隠して、電子ペーパーを使った腕時計のプロジェクトをクラウドファンディングに登場させたことが話題となったが、まだまだ大手企業が取り組むまでには至っていないのが実情だ。
松崎氏は「こうした取り組みは、中小企業や個人の方が行いやすく、大企業にハンデがあるのは間違いないと思います。なぜなら、大企業の場合は、守らなければいけないものが多く、リスクを考えてしまい、どうしても消極的になり、取り組むスピードが遅くなってしまいがちだからです。ただ、本当の意味でお客さまをパートナー・仲間にしたいと考えるのであれば、これまでのお客さまの捉え方を大きく方向転換できるかがカギだと思います」と話す。
例えば、kibidangoで資金を集めたボンサイラボの3Dプリンタの量産プロジェクトでは、プロジェクト終了後に購入者限定のクローズドなグループをつくり、そこで売り手である企業とユーザーが一緒になって情報をやりとりできるようにした。そこでは、「今商品を使ってこんなものを作った」といったユーザーの報告や、「こうしたトラブルにはどう対処すればいいのか」という問い合わせも投稿されている。そうした問い合わせに対して、企業だけでなくほかのユーザーが解決策を示すなど、参加者全員でユーザーサポートを行うという仕組みになっている。購入した後にも企業側が価値を提供して、さらに購入者自身がほかの人に価値を提供でき、ほかのユーザーに価値を提供することに価値を感じるというのは、新しい顧客との関係性をつくるうえで参考になる。
ただ、大きな企業であるほど、コントロールがきかないSNSの取り組みはあえてしないというスタンスのところも多く、コミュニティを作ったとしてもその中で何かあった時のリスク対策ばかりが先行してしまいがちなところもある。
「あくまで、これまでのメーカーと顧客の関係性を前提としているからそう感じてしまうのでしょう。そうではなく、顧客との新しい関係性を、支援者・協力者であると捉えられれば、顧客を巻き込んで主体的に行動してもらう方がお互いにとって良く、顧客満足度も高いということがわかると思います」(松崎氏)。
では、大手企業が「生活者の共感を高め、プロジェクトに巻き込んでいくような関係性」を作るにはどうすればいいのか。松崎氏は、「企業名、商品名だけでなく、このチームの、この人たちのプロジェクトであると個人の顔をしっかり見せて打ち出すと、より共感を生みやすい」と指摘する。
一方で、「プレマーケティング」「テストマーケティング」「プロモーション」といった既存のマーケティングの枠組みとの一環として、ファンから資金を集めるという「機能」に注目してプロジェクトを組み立ててしまうと、うまくいかないことが多いという。「クラウドファンディングの大切な要素は『共感と参画』です。だから、先ほどの個人の顔が見えることに加えて、チームが取り組もうとしているプロジェクトが、ワクワクするようなものであるか、自分もぜひかかわりたいと思えるストーリーがあるかということが重要なのです」と指摘する。
現在、多くの企業が、商品・サービスを購入・利用した後でもコミュニケーションをとり、顧客との関係性をより深めていく方向を目指している。これまでとは異なる顧客との関係性を目指せば、当然行うマーケティングも大きく転換する必要がある。そう考えて、クラウドファンディングの「支援を広げる仕組み」を見ると、企業のマーケティングコミュニケーション活動のヒントになることがたくさんありそうだ。
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