【前回記事】「あなたは広告主ではありません、パトロンなんです——土屋敏男×谷口マサト対談(下)」はこちら
2014年の12月からスタートした連載「ビデオコミュニケーションの21世紀」。4月で終わりにしたのですが、この領域は今年まさに変化が次々に巻き起こっています。もう少し続けてみようか、ということで、これからまたしばらく、月一回のゆるいペースで書きつづってみようと思います。ふたたび、よろしくお願いいたします。
あらためての出だしとして、この連載のテーマとしているいわゆる、テレビとネットの現状について、ものすごく主観的に私の感じているところを書いておきます。
テレビから離れた若者は、決してテレビに戻って来ない
テレビは「もう危ういなあ」と、最近思います。5月中旬に出揃った在京キー局の決算を見ると、いまは各局ともホールディングス体制で地上波テレビ局単体がどうなのかをパッと言いにくいのですが、おしなべて業績は悪くない。でも、良くもない。そんな状況だと思います。テレビがまた新たな視聴者をぐいぐい獲得して事業分野全体として駆け上がっていく、そんなことはもう起こらないでしょう。でも、いきなりダウンもしないみたい。むしろリーチを短期間で獲得するにはいまも最適のメディアです。視聴率が多少じわじわ下がっても、広告媒体としてのニーズは安定していると言ってもいいくらいでしょう。
でも危ういと思うのです。だってテレビは、「おばさん化」している。
まず若者はテレビを相手にしていない。うちの息子、ハタチの大学生ですが、まったくテレビを見ません。朝見ない、昼見ない、夜も見ない。深夜私がだらだら見ているとソファでゴロゴロしながらスマホいじるので、テレビの音声には接している。その程度です。
娘は高校二年生で、彼女もテレビは見ない。ところが彼女は映画やドラマが好きです。目が肥えてきて、けっこう通な作品を選んで見ます。もう日本の連ドラには興味がないらしく、ハリウッドドラマをhuluとdTVで視聴しています。面白いことに、iPhoneやiPadではなくテレビで見ます。小さい画面はイヤなのだそうです。突然リビングルームに来て「huluにしていい?」と聞いてきてこっちが答える前に勝手に入力を切り替えてhuluでドラマを一話見て、終わったらとっとと自分の部屋に戻ります。彼女にとってテレビ受像機は、VODサービスの専用端末なのです。
もちろん若い人でもテレビをよく見る人は大勢います。でも見ない人は徹底して見ない。極端に分かれるし、徹底して見ない層は着実に増えているそうです。
若者のテレビ離れに対し、彼らが就職したり結婚したりすれば戻ってくる、と言う人もいます。自分も学生時代は見なかったが、働きはじめて生活リズムができると自然に見るようになった。いやいや、それはあなたの話、テレビ世代の話です。テレビから離れた若者は、決してテレビに戻って来ない。これは、その世代の家族がいるとみんな実感していると思います。戻る、というのはテレビがメディアの原点だった世代の話で、戻るという感覚さえないのがいまの若者でしょう。
さて妻はすでに、F3層の仲間入りしましたが、よくテレビを見ます。こないだ9時ごろ帰ってきたら彼女が熱心に見ていた番組は「腰痛・ひざ痛」がテーマでした。一瞬、NHK『あさイチ』を録画で見ているのかと錯覚したのですが、ちがいました。9時ごろにリアルタイムで「腰痛・ひざ痛」をやっていたのです。私は、がく然としました。ゴールデンタイムで、華やかなタレントを集めて「腰痛・ひざ痛」かよ。
当然だよなあと思います。F3M3は人口の4割を超えていて、彼らが番組を見てくれたほうが世帯視聴率は上がるのですから。
プライムタイムのバラエティ番組を制作している知人はいつもF3に振り回されると言います。他局にドラマ枠があって、それが調子いいとF2F3がかっさらわれて、自分の番組の世帯視聴率がどーんと落ちるのだそうです。さっそく上司から「お前ら、なんとかしろ!」と檄を飛ばされるのでF3対策にみんなで頭を悩ませることになる。どんなネタなら、誰を出せばF3が見てくれるか。
各番組がF3対策にいそしみ、腰痛・ひざ痛だらけになると、例えば私の息子がふとテレビをつけても、「ああこれは自分のためのメディアではないんだな」と感じるでしょう。彼はますます、「戻ってこなく」なるわけです。
テレビはおばさん化しています。当然なんです。男性が会社に縛りつけられるこの国で少子高齢化がぐいぐい進むのに、世帯視聴率をたったひとつの指標にしていれば、必然的におばさんに向くに決まっています。今のテレビは構造的におばさん化せざるをえないのです。
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