「モノ」+「コト」の難しさ
明確なカスタマージャーニーマップを描いていないというスマイルズだが、「スープストックトーキョー」では「パートナー」と呼ぶアルバイトがお店を辞めたあともつながりを持ち続けられるよう、この春から一般顧客とは別にパートナー経験者用のポイントカードを導入した。
パートナーになるということは、一度は「スープストックトーキョー」の理念に「共感」した証であり、辞めたあとは1人のファンとして来店し、そのときに家族や友人と一緒に訪れることは新たな「共感」を生む可能性を秘めている。そうしたパートナーを松尾氏は「バーチャル社員のような存在」と表現し、いつかスマイルズへ「シーン」を提案しに戻ってきたり、ロイヤルカスタマーとして関係性を続けられるのではないかという考え方を提示した。
加藤氏はそれを「カスタマーをパートナーに置き換えたパートナージャーニーですね」と表現。ここから、シーンを想定し、共感を喚起することが顧客体験の向上につながるのではないかという議論が本間氏と松尾氏を中心に始まった。
本間:最近、社内でECを始めるか否かという議論が起きました。検討の結果、私は当社は自社でプラットフォームを持つECを始めるべきではないと考えています。
製造業のECは、専門特化した商材を扱う企業が成功していますが、当社のような総合的なメーカーの成功ケースは少ない。よくメーカーも「モノ」だけでなく「コト」の発想が必要と言われますが、メーカーにはサービス業のノウハウはありません。時代に合わせて自社の業態を見直すべき時ではないかとも考えますが、こういった背景をよく分析しないと失敗をしかねないと考えています。
「モノ」+「コト」という展開では、ネスレ日本さんがネスカフェアンバサダーを始めたのはすごいと思います。“違いがわかる男”と言って訴求してインスタントコーヒーを製造・販売していた同社が、「バリスタ」を無料で提供し、「誰でも同じように美味しいコーヒーが入れられる」というメッセージに転換したのには驚きました。
コーヒーマシンを無償で提供するのは多額のイニシャルコストがかかります。1個100円に満たない専用カプセルをいくつ売れば回収できるのかというシミュレーションができていなければ、とても事業になりません。
花王でこのモデルを考えると、たとえば花王の洗剤しか使えない洗濯機を無償で提供するようなもの。あまりにも現実離れした発想なので、社内ではそういう会話にはなりませんが、そういうことも考える時期にきているのかもしれません。
加藤:そのモデルを実現させるためには、花王の洗剤でなければならない付加価値が必要になりますね。
本間:日本人の洗濯は「ハレ」と「ケ」に通じるものがあって、たとえば一度履いた靴下は、汚れていようがなかろうが洗濯する。穢れを浄めるというカルチャーです。
けれども家事は仕事として大変なので、主婦の方たちはできれば、洗濯はしたくない。メーカーは汚れが落ち、匂いはなくなり、シワはつかず、新しい香りがつくという100%の完璧な「ハレ」の世界を想定しますが、消費者は、そこまで望んでいないかもしれない、本当はどの程度の「ハレ」が必要なのかを理解する動きを取らないといけない。
「スープストックトーキョー」のお客さまは無添加だからといって「健康オタク」というわけではないですよね。
松尾:そうですね。「スープストックトーキョー」に来て、暖かい食事を取ってホッとしてもらうエクスペリエンスを提供したいのであって、「無添加」などのスペック部分を重視しているわけではありません。日本のメーカーはどちらかというと、スペックに傾きがちな傾向がありますね。
佐々木:もっとお客さんの「サティスファクション」は何かに注目した方が良いのかもしれません。
矢野:携帯電話もかつては通信事業者それぞれが異なる端末を発売し、その上で独自のサービスを提供する垂直モデルを展開していて、会社毎に個性があったのですが、端末やサービスの同質化が進んでいます。そうなるとやはり「コト」や「イメージ」、「auって何かいいね、カッコいいね」と思っていただける要素を加味していかないとアイデンティティがなくなってしまうなと感じています。
佐々木:我々も決済を「コト」として感じてもらえる要素は何かを考えなければならないと感じています。カードを当たり前のようにみんなが持っている時代に、三井住友カードを持つことや、それで決済することが「良い体験」だと感じてもらえれば、お客さんの思考は変わっていくでしょう。今はもうプロダクトアウトでは、変わってもらえないのかなと感じました。
顧客価値を視点に業態を見直す
このように各社がどのような価値を備えているかによって、カスタマージャーニーやマーケティングに対する考え方が違うことが改めて見えてきた。花王はマスマーケティングからの変革が必要であると感じ、今まさにどの方向へ進むべきかを模索していた。
スマイルズでは担当者自身が一消費者として本当に必要と思うものを考え、また実際にお客さまがそのブランドに触れ合う具体的な「シーン」を描けることを重視。「スープストックトーキョー」をはじめ、スマイルズが提供するブランドは、個の発想からブランドが作られていた。
企業の歴史や成り立ちによってマーケティングに対する視点も異なる。複数の企業のマーケターが集う議論の場だからこそ、新しい発見が生まれるのもJAPAN CMO CLUBの特徴だ。
加藤氏も「モノ・コト・サービス、自分たちの企業がどのバリューを備えているかで、カスタマージャーニーの捉え方が変わってくることがよくわかった」と総括。
自分たちが考える業態に囚われず、顧客にとっての価値を基点に事業全体を見直さなければならないほど、社会環境が目まぐるしく変化をする時代。業種・業態の異なる企業が集まる研究会だからこそ、従来の慣例にとらわれないアイデアが生まれてくる場になりつつある。
JAPAN CMO CLUB
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