先生!パクりとインスパイアとの境界線は何ですか?
「パクり」というのは基本、「劣化コピー」である。オリジナル作品に新たな価値や切り口を加えたもの(例えばパロディ)、オリジナル作品をリスペクトしたもの(例えばオマージュ)とは別である。
以下の話は有名である。
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」に着想を得て作られたアーサー・ローレンツの「ウェスト・サイド・ストーリー」のことは「パクり」とは一般的に言わない。舞台劇とミュージカルという違いもある。時代、場面設定も異なる。登場人物や物語の具体的なシーンも違う。後者は1950年代後半のニューヨークを舞台に貧困や人種差別問題などオリジナリティのある背景を設定している。
「パクり」というのは、戦略やフレームでの着想を得て模倣する(マネる)フォロワー戦略とは異なり、よりディテイル(詳細)な部分の戦術をコピー(トレース)してオリジナルの価値を毀損(劣化コピー)することに問題があると考える。
「パクる」ならば堂々と、相手をリスペクトしつつ、最大限のオリジナリティと付加価値を加えること
フレンチレストランのシェフが和食の料理人のもとで修行を積んで日本料理風のダシや薬味の「味の重ね方」(コンセプト)を学んで自分の料理に取り入れたとしても、それは「パクり」ではないだろう。だが、仮にある和食店の「日本酒を使ったシャーベット」のレシピをそのままマネして(コピーして)販売すれば、それは「パクり」と呼ばれ、非難されてもおかしくはない。
しかし、レシピを知った上で自分ならではの研究を行い、フランス人が好むシャーベットの味にふさわしい日本酒の銘柄を探し、自分なりのレシピにアレンジしてからフレンチ料理のデザートとして提供したらどうだろう?この場合は独自の付加価値が加わる。オリジナリティもある。これは「パクり」でない。堂々と「インスパイア」と言えばいいのではないか。
私がPRやマーケティング案を、毎日毎日(飽きもせずに)練っていくことができるのは、これまで、直接間接の影響を受けた多くの先輩や行事例から着想を得ている(表現手法ではなく、あくまでコンセプトとして)からだ。
現実的に企画を仕事として行う上で大切な要素は自分自身の独創性(オリジナリティ)だけではない(例えば、子どもの考えるアイデアは、じゅうぶん「独創的」ではあるが…企画として採用されない)。必要とされるのは、誰もが考えつくような大して「独創性」はないごく普通のアイデアとのちょっとした差異の発見や、その人に「しか」できない切り口だったり、ジミにコツコツ継続することによる、排他的価値だったりする。
「先生!先生はアイデアをパクったことありますか?」「パクりとインスパイアとの境界線はどこですか?」という学生からの素朴な質問が「企画構想」に関する、ずいぶんとややこしい話になってしまった。
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