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コラム

「広告」から「クリエイティビティ」へ【ACCプレミアムトーク】

バスキュール朴正義さんに聞いてみた「デジタルの人から見た、テレビの面白さって何ですか?」

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——なるほど。確かにスマートフォンはあくまで個のデバイスですが、テレビは複数の人が同時視聴のデバイスですので、生まれてくる価値も別にありそうですね。

では、こういったスマートテレビの時代に、番組やCMといったコンテンツの送り手側の意識は、どうあるべきだと思いますか?

朴:テレビを舞台にプロフェッショナルなものづくりを続けてきたみなさんに、こうあるべきという意見を言える立場ではありませんが、個人的にチャレンジしてみたいクリエイティブ領域は、「生」「ライブ」です。「今」「リアルタイム」といってもいいかもしれません。数千万の人々が同時に同じものを視聴できることに、誰もが知っているパブリックなトピックを生み出せることに、テレビというメディア、デバイスの強みがあると思うので、その特長をさらに増幅するようなチャレンジをしてみたいです。

スマートフォンの普及で、人々が常時コネクトした状態、開かれた状態になったことによって、リアルタイムコミュニケーションであるLINEはマスメディアと言ってもいいくらいの存在になりました。スマートテレビが普及し、テレビが開かれた存在になったとき、完パケテープ納品ではない、さまざまな情報が乗り入れ可能な、スポーツ中継やニュース、ワイドショーなどのライブ放送の価値が強烈に上がると思うのです。完パケコンテンツを楽しむHuluやNetflixが注目を集めているのも、これからのテレビの役割を逆説的に表現している気がします。いかに世の中の事象や人々とコネクトできる番組や広告を作れるか、そこにチャレンジしたいですね。

——なるほど。かつてテレビが誕生した時は、番組もCMも全部、ライブでしたもんね。それが一周まわって、スマートテレビが誕生した現在、再びライブの価値が重要になっているってことは興味深いです。
 
でもライブって、言ってみれば完成品がない、っていうことですよね。僕も広告業界で働いているので実感するのですが、完成してないCMに、企業がお金を払うのって相当な覚悟が要りますよ。もし失敗したら、ハンコ押した担当者が上司に怒られちゃう。

朴:それは確かに、大きな課題ですね。他にも、様々なリスクも当然あるでしょう。ただ間違いなく言えることは、結局のところ、人の心が動くところにお金が集まる、ということです。これまでテレビの世界では、リーチの広さ、視聴率がお金に換算されていたと思うのですが、そこに深さという新しい軸を取り入れることで、そのリスクに見あうリターンをつくれるのではないかと思っています。

例えば、視聴率30%が期待されるような日本代表戦があったとして、そのハーフタイムで流れるCMは日本が勝っていようが、大負けしていようが同じものです。視聴者の心模様は正反対なのに。もしそれが試合経過に応じて、視聴者の思いに寄り添ってメッセージが変化するCMだったら、その効果はどうなるでしょう? 視聴者のプロフィールでCM内容を出し分けることも可能かもしれません。

また、最近例えでよく使うのですが、コネクテッドカー時代が到来した時、もし車の会社が5分の天気予報のスポンサーになったら、そこで完パケのCMを流すよりも、今走っている全国の車のワイパーの動きをビジュアライズした30秒の「ワイパー天気情報」を生CMとして流した方が視聴者と深くつながることができるかもしれません。

いわゆるリアルタイムデータビジュアライゼーションの一例ですが、今を表現するクリエイティブを追求することで、その時間帯のマインドシェア獲得をはかるんです。もし朝のワイドショーで日本全国の洗濯機稼働台数が表示されたら、その時間にあわせて洗濯する家庭が増えるかもしれない。

少し前にHUT(総世帯視聴率)が史上最低を記録したというニュースを耳にしましたが、テレビをつければ今の世の中がわかる、今の世の中とつながることができれば、テレビというデバイスと向き合う態勢も変化し、CMの機能を拡張する新しいクリエイティブ領域が生まれるのではないかと思っています。

まだまだ妄想でしかないことを語ってしまいましたが、テレビの対極にいた僕らにこうしたことを語れるチャンスが巡っているのは事実なので、いろんなプレイヤーがテレビを舞台にコミュニケーションにチャレンジするようになるといいですね。


朴正義(ぼく・まさよし)
株式会社バスキュール 代表取締役/クリエイティブディレクター

言語や世代を超え、多くの人に楽しんでもらえるインタラクティブコンテンツを生み出すことを目標に、2000年にバスキュールを設立。数多くの企業やブランドのデジタルプロモーションを担当する一方で、さまざまな企業を巻き込む自主プロジェクトを推進。数百に及ぶ国際的広告賞・クリエイティブ賞を受賞。ここ数年は、テレビ×ネットという領域で多くのチャレンジを行い、今年、日本テレビとの合弁会社HAROiDを設立。スマートテレビ時代の新しいコミュニケーションのしくみづくりにトライしている。


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