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コラム

戦略PR視点で、大学・地方・アートを考える

5限目「先生!広報がうまくいっている大学と、うまくいっていない大学との違いはなんですか?」「大学のイメージ作りはどうやってやるんですか?」

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今年のノーベル賞受賞者が発表された。日本人では大村智・北里大特別栄誉教授がノーベル医学生理学賞を、梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長・教授がノーベル物理学賞を受賞した。「ノーベル賞を受賞するような教授がいる」ということが、どれだけ大学の広報的価値(もちろん広報的価値に限らない本質的な価値であるが)を押し上げることか、効果は計り知れない。

教授陣の実績と同様かそれ以上に、卒業生のその後の活躍というのも、大学の社会的評価(レピュテーション)を高める上で重要だ。「OBが金融界に多い」「地元優良企業に長年人財を輩出している」「OB同士の横(あるいは縦)のつながりが強い」といった傾向的な事実(FACT)は、大学の広報活動におけるイメージ作りに大きく影響する。

私が教鞭を執る(広報活動も行っている)東北芸術工科大学(芸工大)は、学長の根岸吉太郎さんをはじめ、小山薫堂さん、中山ダイスケさん、山崎亮さん、山川健一さん、竹内昌義さんなど、教授陣は各分野の一線で活躍中の方たちばかり。その充実ぶりは目を見張るものがある。一方で、まだ開校24年の大学のため、伝統は浅く、卒業生の大半はまだ若い。歴史もあり卒業生も多い他の大学と比べると、まだまだ「傾向的な事実(FACT)」と呼べるものは弱い。

産学連携が充実、地域との「共創」がUSPになる

大学を広報していく上では、以前、本コラムで記したが、その大学独自の「売り」(USP)を明確に打ち出す。そして、外部に向けて打ち出していく。その時の打ち出し方が重要となる。

しかしこの打ち出すポイントの「見える化」(可視化)が難しい。なぜならば、大学は、民間企業のように外部で販売・利用されるような商品・サービスを直接、開発・製造・販売するわけではないからだ。「可視化する」という一点においては、どうしても民間企業やNPO団体などと比べると引けをとる。このことは、広報活動を通じて、大学の魅力を地域住民の方々を含め幅広く伝え、理解して頂くためには、避けては通れない課題でもある。

その点、芸工大の場合、産学連携事業という形で、民間企業をはじめとした、大学外部の諸団体と連動した活動がとても充実している。教授陣の魅力、卒業後、社会に出て即戦力となる学生たち、地域との共創関係といった、大学の売り(USP)を可視化し、民間企業とのコラボレーションの実例を知ってもらうことは非常に分かりやすい。

<産学連携事業の例>

・エスパル壁画(美術科洋画コース)

仙台駅前にあるショッピングモール「エスパル」の社員食堂と談話室に飾る壁画を制作。

・亀や(建築環境デザイン学科、グラフィックデザイン学科)

山形県鶴岡市の老舗旅館「亀や」のVIPルームのリノベーションを担当。この空間のロゴマークはグラフィックデザイン学科の学生が担当。

・山形代表(グラフィックデザイン学科)

その名の通り、山形を代表する果実を使用した果汁100%飲料シリーズのパッケージデザイン提案。

・無印良品(建築環境デザイン学科)

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無印良品の「縦の家」は学科との共同プロジェクトを通じて製品化。

・日本一さくらんぼ祭り(企画構想学科×グラフィックデザイン学科×プロダクトデザイン学科×総合美術コース)

基本コンセプトの作成とメインイベントのプロデュースを教員と学生が担当。第3回には、地元企業7社と連携してさくらんぼグッズを制作。

・純米吟醸酒 つや姫なんどでも(企画構想学科×グラフィックデザイン学科)

山形のブランド米「つや姫」の冷めても美味しい特性を生かして「何度でも、何°Cでも」美味しく飲めるお酒の商品コンセプトから販売戦略、パッケージデザインまでを教員と学生が担当。今年、ワイングラスで美味しい日本酒アワード2015 メイン部門で金賞を受賞。

・アートプロジェクト「ひじおりの灯」(おもに美術科の大学院生と教員)

開湯1200年目を超え、湯治文化を今に伝える大蔵村肘折温泉郷と協力し、肘折の暮らしの情景や古くから語り継がれる民話や周辺の雄大な自然などを描いた灯篭絵を点灯するアートプロジェクトを開催。

・「パスラボ山形ワイヴァンズ」との連携(グラフィックデザイン学科)

山形初のプロバスケットボールチーム「パスラボ山形ワイヴァンズ」と連携し、グラフィックデザイン学科の原高史准教授と学生チームが、ロゴやマスコットキャラクター「ヴァンゴー」グッズなどをデザイン。


また、「総合芸術大学」という言葉の持つイメージとは少しかけ離れた、芸工大ならではの実像を理解してもらう上で、とても有効である。入学前の高校生たちにとっても、必ずしも「アート&デザイン」などの専門技術を学ぶだけの大学ではなく、もっと広義での「デザイン」(社会全体やコミュニケーションをプロデュースする意)を学べる大学だと知ってもらうことで、「芸術大学で学ぶ」という抽象的(他人事)な自分の未来が、「この大学ではこういうことを学べる」と、少しずつ具体的(自分事)なイメージに変わっていくものと考えている。

と、ここまで書いて私がいま感じている何ともいえない違和感は何だろう??

これまで書いてきたような、自分たち独自の「売り」(USP)の可視化することは、大抵どこの大学の広報でも行っていることだろう。広報活動を担当する職員であれば、どこの大学でも長年考えられてきたことなのだろう。

しかし、こうした大学の「売り」(USP)を可視化し、大学の魅力や強みがしっかりと伝わることに成功している大学と、うまくいっていない大学が、実際には存在する。その差は何だろう?

そこから先の話こそが、むしろ私がここで話すべき本当の「仕事」の話になるのだろう。

次ページ 「「社会性」という文脈と統合したストーリーを伝える」へ続く