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「地方企業もクリエイティブ力で世界を目指せる」——福島広告協会50周年で地域と広告テーマにトークセッション開く

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多くのクリエイターの共感と協力を生んだ新聞広告

土橋通仁氏(電通中部支社 クリエーティブディレクター/アートディレクター)

次に、名古屋を拠点に活躍する電通中部支社の土橋通仁氏が講演した。土橋氏は地方広告の壁「予算問題」をクリエイティブと人海戦術で克服した事例や、広告賞を受賞することでPR効果を発揮したケースなど、3つの事例を紹介した。

1つ目の事例は、家から遠く離れた病院に難病の子どもを預ける親のための宿泊施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を名古屋大学病院に誘致するにあたり、その建設費用2億円を1年半という短い期間で集めた募金プロジェクトだ。もともと、2億円の資金は地元企業が協賛することになっていたが、東日本大震災が発生したため、その資金が震災復興に充てられたため頓挫していた。土橋氏も鷹觜氏と同じく、「震災がきっかけでこのプロジェクトに携わることになり、地方の広告のあり方を考えるようになった」と話した。

「ドナルド・マクドナルド・ハウス」の必要性を訴える新聞広告

まず活動を広く認知させるために掲出した新聞広告のクリエイティブは、病院の広いベッドにひとり横たわる難病を抱えた少年の写真。読者が半ページを折り返すと、優しく添い寝する母親が現れる。ハウスの必要性を訴え、自分の手で親子を助けることができることを疑似体験させる仕掛けだ。新聞広告は学校の教材として使われるなど、ネットで拡散し、掲載後3カ月で6000万円を集めた。

この広告を見て共感してくれたた地元のクリエイターやカメラマンなど約50人の協力で動画と5連ポスターを制作。キャンペーンの制作物は約30タイトルの広告賞を受賞し、活動の輪はどんどん広がっていく。1年半で1億8000万円を集め、2013年11月ハウスは完成した。

「この施策では新聞広告と同じカンプを持ち交渉している時間が一番多かった。地方では、予算がない、人手がないといった壁が必ずといっていいほどある。その最善の解決策は、とにかく自分が一番動きまくることだ」(土橋氏)。

妊婦の不安を和らげるクリエイティブがカンヌで称賛

2つ目は広告規制が厳しい医療業界の事例だ。東海3県に産婦人科ネットワーク「ベルネット」を展開する葵鐘会(名古屋市)から、早期分娩予約数を増やすことと、海外進出に向けてカンヌライオンズの受賞を目指したいという要請を受けた。

土橋氏が着目したのは、子どもが産まれるのはうれしいが、自分の体形が変わることや出産に対する不安もあるという、妊婦の複雑な心境。不安を和らげ、赤ちゃんが生まれることを楽しみにできるクリエイティブとして、1週ごとの妊婦のお腹の形を美しいフォルムで表現した「MOTHER BOOK(マザーブック)」を作成した。マザーブックには妊婦本人や家族が赤ちゃんを心待ちにしている心境などを記録できるようにした。

「ライオンズヘルス」のグランプリに選ばれた葵鐘会の「マザーブック」

マザーブックはカンヌ・ライオンズヘルスのグランプリをはじめ、数々の国内外の賞を受賞。葵鐘会には海外からの取材が殺到し、早期分娩予約数は120%伸びた。

アワードで受賞することでPR効果を生むこの手法を、他でも活用できないかと挑戦したのが3つ目の事例、シヤチハタの知育玩具「エポンテ」プロジェクトだ。エポンテはクリエイティブアートに関心がある親をターゲットにした親子のコミュニケーションツールで、シヤチハタの新市場開拓のため、土橋氏がクライアントと共に開発した。


親子のコミュニケーションツールとして開発したシヤチハタの知育玩具「エポンテ」

マザーブックと同じ効果を狙って制作したスペシャルプロモーションパッケージ「イマジネーション・チェンジ・ザ・ワールド」は、「One Show 2015」のデザイン部門ゴールド受賞、「D&AD賞」にて「Wood Pencil」を受賞したほか、プロダクト自体も「日本おもちゃ大賞2015」のエデュケーショナル・トイ部門の優秀賞やグッドデザイン賞など2商品が受賞。さまざまなメディアで紹介され売り上げにもつながっている。

「かつて海外広告賞は自分には関係のない世界だと感じていたが、いざエントリーしてみると地域のクリエイティブにもチャンスがあることがわかった。地方にはいろんな制約があるが、クリエイティブの可能性を信じていれば突破できる」と、土橋氏は力を込めた。

クリエイティブアイデアが次のビジネスを生む

パネルディスカッションは、地域から情報発信する場合の情報の集め方や予算の壁をどのように克服していったのか、鏡氏が土橋氏と鷹觜氏に問いかける形で進行した。鷹觜氏が手掛けた田んぼアートの施策は、自主開発アプリ「ライスコード」の実証実験と位置づけ、田舎館村からの予算はポスターの制作費のみ。ライスコードの商標権は開発サイドが所有しており、「海外からの問い合わせも寄せられ、いくつかのモデルが動きはじめている」と明かした。

鏡氏は「広告は受注産業だったが、広告から派生したもので利益をあげる新しいビジネスモデルができたことは素晴らしい」述べた。

土橋氏は「地域には深刻な状況もあるが、それを言い訳にすると何もできない。それを承知したうえであえて前向きな発言して行動することだ。そうすれば周りのクリエイターは刺激され、前向きな空気はどんどんできていく。どんな地域にもチャンスは必ずあると思ってほしい」と来場者にエールを送った。

当日の来場者は約200人。福島県内の広告会社やメディア、広告主、学生のほか、仙台など周辺地域からも参加があった。福島広告協会の佐久間広人事務局長は、「参加者からは、『地方だからとあきらめていたところがあったが、3人の話を聞いてそれでは通用しないと痛感した』との感想が寄せられるなど、刺激になったとの声が多かった」と述べた。


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