資生堂ジャパン デジタル事業部 企画室長
徳丸健太郎氏(写真右)
1992年資生堂入社。営業、ブランドマーケティング、事業戦略などを担当後、ワタシプラスの立ち上げを行い、現在に至る。
デジタル事業部 企画室 企画グループ
山崎智史氏(写真左)
ブランドやワタシプラスのプロモーションのプランニング、データ分析などを担当。
顧客との関係をどう築くかが重要
顧客との接点が店舗だけだった時代、顧客との直接的なコミュニケーションは店舗に委ね、企業は主にテレビを中心としたマスマーケティングにリソースの多くを投じていた。しかし近年、多くの場面でデジタル化が進み、チャネルも多様化したことで、その構図は大きく変化している。そうしたなか、資生堂は顧客との新たな接点の創出を目指し、先端テクノロジーを駆使したマーケティングに取り組んでいる。
「いまの時代に最も重要なのは、顧客との関係をどう築くかということ。テクノロジーの進化によってワントゥワンマーケティングが、これまで以上の精度で可能になった。従来の仕組みで築いてきた顧客との関係性を、見込み顧客との間でも築いていくことを目指している」と資生堂 デジタル事業部 企画室長の徳丸健太郎氏は語る。
ECサイトとしてだけでなく、“新しいお客さまと出会うための起点”と位置付けて2012年よりスタートしたオウンドメディア「ワタシプラス」の会員数は累計250万人にのぼる。PVも月間5000万を超え、新規顧客の獲得の場としてだけでなく、そこで獲得した顧客をリアル店舗に送客する接点としても機能している。
そうした取り組みのカギを握るのは、現在では多様なチャネルで取得が可能になったデータだ。ワタシプラスの立ち上げにあたり、自社内のデータを統合することからはじめた。店舗が主体となって管理していた花椿クラブの会員データと、同社が管理していたWeb会員のデータのIDをワタシプラスの会員として統合。
DMPを活用し、購入データやWeb上のアクセスデータなども含めて、自社で持つデータを収集・蓄積していった。
それにより、“コスメに興味のあるユーザー”といった粒度の荒いプリセットではなく、より詳細なターゲット設定が可能になった。「データは蓄積するまでが大変」と徳丸氏が言うように、同社がデータを蓄積するのに費やした年月はおよそ3年。昨年からデータの本格的な活用をスタートさせた。
データ活用のノウハウは資産になる
データ活用の取り組みの一つが、マーケティングオートメーションの導入だ。
同社では世界観の異なるブランドを複数抱えており、チャネルも多岐にわたることから、さまざまなニーズで来訪するユーザーに対して、最適なブランド体験を提供する必要があった。「個々人への最適なコミュニケーションを考えると、100万人いたら100万通りのコミュニケーションをすることが理想だが、それは現実的ではない。だからこそ、類型化したシナリオをつくって、マッチングさせる目的で活用している」と徳丸氏は話す。
プロモーションチームとアナリストチームが連携し、プロモーション担当の仮説をアナリストがDMPで設定できる範囲にデータで定義し直す。それを検証およびフィードバックする仕組みによって、より効果の高い施策へとつなげている。また各商品ブランドチームにもマーケティングサポートをつけ、その施策検討から効果検証までを、KPIをもとにフィードバックすることで、PDCAサイクルを活性化させている。
「プロモーションは一発で終わってしまうが、きちんとトラッキングをしてそこから得たことを蓄積することが、企業としての財産になる。データ分析は今後も積み上げていくものだからこそ、仮説検証の繰り返しで培ったノウハウをどのように資産にしていくかが重要」と話す徳丸氏は、同時にその狙いを次のように語る。「いくら良質なデータを活用できるようになったとしても、最終的にそのデータを扱うのが人である以上、会社として人材育成にも力を入れていく必要がある。そのためにはデータドリブンなカルチャーを根付かせていかなければならないと考えている」。
徳丸氏の下で現場を担う山崎智史氏も「たとえば、ブランドの部門の人にデータを見せると、『商品開発に生かしたい』『チャネルの販売戦略に生かしたい』と次々とアイデアや要望が出てくる。データによってさまざまな事柄が可視化された現在、あらゆる部門で、まずはデータを見てみることから始めている。今後は、データがあらゆる事業のプランニングの中心になってくるのではないかと感じている」と話し、データがマーケティングのみならず、多岐にわたり活用されていく可能性に期待を寄せる。
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