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デザインの力で長野のご当地米の存在感を高める—「風さやか幸村」

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株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第5号(2015年11月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

【前回】「小売りをしない、ご当地日本酒を新潟観光の呼び水に—今代司酒造「新潟清酒おむすび」」はこちら

地域に根差す企業とクリエイターがパートナーとなり、新しい価値を生み出した事例を、手がけたクリエイターが自ら解説。今回は、甲信越地方の事例です。

前面に使用した赤色は重厚で上品、かつ斬新な印象になるよう意識。裏に白色を引かず、透け具合にも注意して色を選択した。

「風さやか」は、2013年に生まれた長野県上田市産のブランド米。地力に恵まれ、生産量が多く品質も高い、日本有数の米どころである長野県ですが、ほかにも多くの特産品で知られていることや、稲作を行っているのが一部地域に限られること、独自の銘柄が育ってこなかったことなど、いくつかの要因から「長野県=お米」というイメージは皆無。新米の収穫時期が10月と他の産地に比べて遅いため、関東地方の市場に入り込めないという課題もあり、これまで大半が長野県内で消費されてきました。

そこで、長野の独自銘柄として開発されたのが「風さやか」。これまでは県内で試験的に流通させていましたが、いよいよ今年、本格的に県外への販売を開始することになりました。確かな品質を持つ「風さやか」を消費地に届けたい。これまでにない新しい見せ方で、「風さやか」を多くの人が手に取るブランドにしたい——個人で全国各地の米農家と直接取引きをし、産地と消費地を結ぶ取り組みをしている小野瀬多幸さんのそんな熱い思いから、「風さやか」のブランディングプロジェクトが始まりました。

米業界にデザインの力を

小野瀬さんからのオリエンは、年明けにスタートするNHK大河ドラマの題材でもある、上田市ゆかりの戦国武将・真田幸村と結びつけて発信できないかというもの。そのアイデアをデザインで具現化し、「風さやか幸村」として風さやかをブランディングすることが、今回のプロジェクトのミッションでした。

パッケージでは、お米自体の特徴や長野県の自然の素晴らしさを訴求するというよりは、六文銭や結び雁金(かりがね)、赤備えといった真田幸村を連想させる要素を全面に押し出したオリジナルデザインを制作しました。

最近ではデザイン性の高い包装のブランド米がいくつか登場していますが、業界全体で言えば、パッケージデザインに対する意識はまだまだ低いのが現状。規格品をベースとした、無難なデザインを採用するのが一般的です。ただ、「風さやか」は知名度の低いブランドですから、まずは売り場で目立ち、消費者に手に取ってもらえなければ始まらない。赤備えをイメージした赤色を前面にひくという斬新なデザインを採用しました。

“いかにも戦国”のようなコッテリした和風の表現は避け、また近年巷でもてはやされている「地域のデザイン=『手づくり感』『アナログ感』」というイメージとは一線を画す、“ワンランク上の” 洗練されたデザインをめざしました。表現面では上質さを重視しながらも、消費者が手に取りやすいブランドにするため、流通コストとのバランスを考慮して包装資材を選定しています。

また米袋の印刷においては、オリジナルデザインを制作しても、米流通業社に正当なデザイン料を請求しづらいのが大きな課題でした。そんな条件下でも、今回の新しい試みに共に挑戦してくれるパートナーとして、米袋制作には包装資材会社の昭栄が携わりました。

手に取りやすいブランドを目指すという点では、もう一つ、サイズにも工夫をしています。現在、小売店頭で販売されている米は2キロ・5キロ・10キロが一般的ですが、単身世帯が増加する中、より小分量の米が求められています。そこで、「風さやか」は3キロを採用。分量を減らすことで、売り場に並んだときの価格感を抑えることができますし、純粋に目を引きます。

大河ドラマのスタートを目前に控え、上田市では観光客の受け入れ準備が急ピッチで進められています。消費地で話題になれば、風さやかは地元でのニーズも見込めるはずです。そして地元で売れれば、消費地においても“ご当地米”としての認知や評価がさらに高まる。そんな良い循環をつくっていけたら、と考えています。


上村俊信
クリエイター

U-WORX(ユーワークス)アートディレクター、グラフィックデザイナー。プロダクトデザイナーとして関西の無線機メーカーに勤めた後、U-WORX設立。以降、グラフィック、パッケージ、エディトリアルなどのデザインを中心に活動。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員。
http://www.u-worx.org

CLIENT’S VOICE

米袋は、米の魅力を伝える上で重要な顧客接点

米業界は、産地・米卸・米屋・小売・消費者という川上から川下までのプロセスが細かく分断されていて、米の特徴や魅力といった産地の意図が、消費者に伝わりにくいのが課題です。こうした中で、米の個性を伝える顧客接点として、米袋のデザインは非常に重要だと考えています。生産者が自分でつくった米を、自分でプロモーションして、販売できる米業界をつくる–今回のプロジェクトが、その実現の第一歩になればと思っています。


小野瀬多幸
コメ大王

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