日本の美意識で、お菓子を「開ける」行為もデザイン―薄氷本舗 五郎丸屋「T五」

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株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第4号(2015年8月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

地域に根差す企業とクリエイターがパートナーとなり、新しい価値を生み出した事例を、手がけたクリエイターが自ら解説。今回は、新幹線開通で盛り上がる北陸地方の事例です。

日本の美意識で素材や色に加え「開ける」行為もデザイン

箱の中にはリーフレットを同封。表紙は8種類で、お店の周辺で撮影した写真を使っている。菓子づくりの背景にあるものを感じてもらおうと、中面には16代目をモデルにした物語が綴られている。桜(塩味)、抹茶(苦味)、ゆず(酸味)、胡麻(滋味)、和三盆(甘味)―和の天然素材でつくった五味五色の干菓子。

童話に出てきそうな、深い森や、いくつもの浅い滝が点在する富山県石動(いするぎ)に五郎丸屋はあります。260年以上前から商いを営む、富山でいちばん歴史のある和菓子屋さんです。私は2013年、同社の新商品「T五(ティーゴ)」のパッケージデザインを手がけました。

「T五」は、260年前からある「薄氷」という由緒ある干菓子をベースにしたお菓子。

「薄氷」は、昔からお茶の世界で愛されていたと同時に、数々の文化人の著作にも登場するような存在で、私自身も大ファンだった商品です。「薄氷」よりもっと気軽に、お茶を習っていない若い方にも楽しんでいただきたい――「T五」は、そんな思いから、現在の16代目が考案しました。シンプルで、日の丸のように、まんまるな形。私は、菓子の開発段階から関わらせていただいています。風味や形、ネーミングの考案から一緒に進めましたが、菓子に関しては素人の私が要望を伝えすぎず、基本的に先方の意見を尊重することが大切だと思いました。商品名を考案したのも16代目。

「テイストとトーンが5つある」という意味を持たせると同時に、TOYAMAの頭文字であり、五郎丸屋の頭文字でもあります。デザインを考える際には、「薄氷」の歴史と品質を強く意識するとともに、日本ならではの美意識を表現したいと考えました。この新商品開発はもともと、県の観光振興事業の一環で、「富山の手土産をつくろう」と企画されたもの。しかし私には、“ 富山県の” でなく、“ 日本の” お土産にしたいという思いがありました。商品の存在感を高める上で必要なのは、簡素ながら豊かさのある、日本ならではの美意識に他ならないと考えたのです。

例えば、包装を開くのにちょっとした手間がかかり、その時間に豊かさを感じられること。潔く捨ててしまえること。できるだけ天然の素材を使用することなどです。非常に薄い簡素な用紙に、菓子をイメージした5色の特色を印刷。素材にかける費用は最低限に抑える一方で、色の再現にはプリンティングディレクターの力を借りるなどして、こだわりました。包装には、昔ながらの「たとう包み」を採用。割れを防ぐために考案された、お菓子を布団の綿で挟むという、「薄氷」で使われている手法を引き継いでいます。そのほか、統一されていなかったお店のロゴをブラッシュアップしていくなどの作業を行いました。

精神的な豊かさにつながるデザイン

パッケージに関しては一任いただきましたが、ひとつだけいただいた要望は、「店頭で華やかな存在感を出したい」ということ。16代目と一緒にお店を切り盛りされている、ご家族の方からのご意見でした。これに対しては、お菓子の色を外包みにそのまま定着させるという方法で解決しました。いつしか聞いた、「丸い形状のお菓子は四角の菓子器に載せると映える」ということを思い出し、菓子の曲線とは対照的に、包装では直線での潔い展開を意識しています。

長く地元に根差した企業や、魅力あるものづくりをしているメーカーなどで、まだデザインを取り入れていないところがあるのは、地域ならではの特徴だと思います。高い品質の商品や技術を持った企業とともに新しい可能性を探るのはとても楽しく、やりがいがあります。

個人的には、美しさのあるグラフィックの仕事を残すことを目指しています。消費者や社会に、精神的な豊かさをもたらすことができたり、文化の発信になっていくような仕事に関わるために、普段の暮らしの中で、自分が良いと思えることは何かを意識し、そして積極的にそれらに触れること、取り入れることが大切なのではないかと、今は思っています。

宮田 裕美詠(みやた・ゆみよ)
グラフィックディレクター
STRIDE主宰。富山県生まれ&在住。2013年JAGDA新人賞受賞。「TAKEOPAPERSHOW2014『SUBTLE』」(主催:竹尾/企画:原研哉)、「8人の女たち」(企画:クリエイションギャラリーG8)、「NIPPONの47人2015GRAPHIC DESIGN」(企画:ナガオカケンメイ、D&DEPARTMENTPROJECT)、「エアラス・性能と品質」のグラフィックトライアル(主催:特種東海製紙/企画:廣村正彰)などの企画展に参加。
http://stride.me/


CLIENT VOICE:ものづくりとデザイン、その両輪で世代の垣根を飛び越えたい

当社は、「伝統技法と革新が融合されたデザイン性の高い和菓子」「世代や国を越える独自性のある和菓子」「100年、200年愛される和菓子」の創造を目指しており、ブランディングにおいても、このビジョンを大変重視しています。世代の垣根を飛び越えるのが、デザインの力。切り口を変えれば、もののイメージは変わる。クリエイティブに力を入れることで、地域や、そこに根差す企業のイメージアップにつながり、可能性が広がるのを実感しています。

箱の中にはリーフレットを同封。表紙は8種類で、お店の周辺で撮影した写真を使っている。菓子づくりの背景にあるものを感じてもらおうと、中面には16代目をモデルにした物語が綴られている。桜(塩味)、抹茶(苦味)、ゆず(酸味)、胡麻(滋味)、和三盆(甘味)-和の天然素材でつくった五味五色の干菓子。

渡邉 克明(わたなべ・かつあき)
薄氷本舗 五郎丸屋 代表取締役

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