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【特別対談 古川裕也×山内ケンジ】クリエイティブディレクターが映画・演劇を、映画監督がCMを語る

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CMについて

古川:では、みんながいちばん聞きたい質問をします。最近、CMつくってるの? 

山内:機会があればやりますよ。オファーがほとんどないんですけどね。

古川:そうなんだ!もうやらないかとみんな思ってるよ。やってると言わないと!

山内:ときどきオファーはありますけど、時間的にできないことが多いかな。オファーもあまり面白くないのが多いですよね。なにか面白いCMとかありました?

古川:最近、と言っても1年以上前だけれど、dビデオはよかったな。サウンドトラックのつくり方とか、ギターの音で心理描写をしたりとか。普通のCMでは、なかなかやらないことをやっていました。

山内:1話目をオンエアでちらっと見たけど、あんまり覚えてないかも。

古川:あれは5~6本あるから、まとめて見るといいよ。フィルムじゃないとできないことってCMに限らずあると思う、映画もPVなんかもそうだけど。フィルムの表現能力を100%把握して、信じている感じ。今は、つくることより、その前後がどうのこうのというのが多いけれど、“映像コンテンツ”が持つ「人の心を闇雲に動かす力」っていうのはいつも圧倒的だと思う。

 あとはやはり、ペプシの『桃太郎』かな。フィクションと言う意味では、これも一つの極致。あと、制作費いくらかわからないけれど、適切に使えばお金に比例して効果的という例でもある。今後は、こういう壮大なブランド広告と極端に効率重視のCMに二極化していく可能性がある。前者は、一本いいのをつくっちゃえば、そのあとしばらくほとんど何もしないでいい。そう考えると、その制作費は決して高くない。

こないだ、ACCの審査委員長というのをやったんだけれど、「コンコルド(静岡のパチンコホール)」のような得体がしれないCMは、少なくなくなりました。審査員、ああいうメンツなので、スクリーニングしていてもほとんど笑わないのよ。でも、コンコルドだけ、みんな、素で爆笑だった。初見の人が多かったこともあるけれど。
 
<コンコルドCM コンコルゲン夫婦 愛の勝利篇>

最終的には、「笑う」ということが獲得物として想定されているんだけど、しかも、それは笑かさないとテレくさいという、つくる側の都市住民的な感覚が作用してそうなっているわけだけれど。にもかかわらず笑かすことが最重要でもないんだよね。そこに行くプロセスというか、ほんとのこと言うと、CMという形で提出されているところのカルチャーのような人生観のような仮説のようなもの、これがいちばんだいじで、そのことによって結果的に笑かすということだよね。だから別に、泣いたりでも怒ったりでもいいわけだけれど。

というか、それがないと表現とは呼べない。広告はもちろん商業表現なのだけれど、なまじ表現だから、その辺のところがむつかしい、というか肝のところ。

山内:でも、震災以降、CMは本当に変わったと思いませんか?最近のCMは、ほとんどがマイルドヤンキーをターゲットにしていて、全部が右へ倣えで、似たようなものばかり。脳みそを使わないレベルで面白くしようとしています。CMくらいは、多様性があってもいいのに、と思うんだけどね。

古川:映画とは違ってなかなか、難しいよね。東海テレビのCMは見た? 「戦争を、考えつづける」というテーマで、ネット右翼とか在特会とか戦争経験者とかのインタビューなど取材を通して、記者の目線でアジェンダを設定していくドキュメンタリーっぽいもの。「面白いものはこうだ」とか「これが結論だ」とか答えを言うのではなく、問いかけるような。

<東海テレビCM 戦争を、考えつづける。>

山内:真面目そうなやつかな、見ていますね。最近は、クリエイターのFacebookやTwitterでCMがシェアされるのをよく見かける。いまさらだけど、これからはネットが主戦場なのかな。オンエアでも目立つものが見たいんですけどね。震災前まで、15秒でどれだけ振り向かせるかっていうことに、すごく注力していて、オンエアがほんとうにおもしろかった。

古川:今は、CMをテレビで見るほうが少ないんじゃないかな。YouTubeだと1億回見られている映像なんていうのもあるからね。やっぱり秒数の制約から自由だから。オンエア回数少なくても、中身よければみんな見てくれる。

山内:そういう時代になっていますね。僕もコンコルドは、WEBでしか見られない映像も同時に作っています。基本は、15秒と30秒。歌ものCMは2分くらいのも。オンエアはそこから切りとったものですね。

古川:僕は、CMでもブランディングの仕事がやっぱり多くて、秒数長いことも多いんですが、15秒CMだと無理があるんですよね。企業の深いメッセージや概念を映像化するには、ある程度の長い尺がないと難しい。今はブランデッド・コンテンツをWEBに置くのは、オーソドックスな手法になっていますね。

山内:NGになったお蔵入りの映像も、今だとWEBで流そうってことになって、“お蔵”は減りましたね。ただ、ずっと過去のものが残ってしまうデメリットもありますね。

古川:20年くらい前に作った昔のCMが、残っているのは恥ずかしいけどね。「昔はああいうのつくってたんですか」ってお子達に言われて。ネットは一度しくじると永久に傷が消えないからタチが悪い(笑)。企業がイメージを変えたいのに、意図せず昔のCMの方が大人気っていうこともある。それを消すためには、以前のよりもよいCMを作って、コンテンツのクオリティで勝つしかない。
昔は、オンエア量が多いほど、話題になりやすかったけど、最近はこのようにたくさんオンエアされれば勝ち、っていうだけのゲームでもなくなってきてる。

山内:年齢層によってはテレビでCMを見ている人が多いから、今もそういうオンエア量で勝つ部分は残っていますけどね。高年齢層だけじゃなくて、コンコルド(コンコルゲン夫婦)のツイートを検索すると、そうとう若い子たちで、それはネットじゃなくてオンエアを見てのツイートなんですよ。

古川:今でもいいCMは、1回オンエアしただけで人の心をつかめるし、何回やってもダメなものはダメ。あと、一番始末が悪いのが中程度のクオリティのもの。この辺は、確かに効きにくくなっている。オンエアも多いし、決定的にダメじゃないんだけど。目立たないし、ルーティンの取るに足りない感じがする。ただ、CMに限らずほんとにおもしろいもの、残るもの、どこか他とちがうものなんて、もともとほんの一部です。これは、広告に限らずすべてのクリエイティブ行為共通で、いつも変わらない。
  
表現的に見て、このへんが今の日本のCMでぽっかり空いているというようなものありますか。まあ、だいたいいつも、どこかに偏っているものなんだけれど。

山内:それはだから、さっきおっしゃっていた、作り手の人生観とか世界観からちゃんとできている表現ですよ。それが今はあまりにもないと思う。

古川:そういえば、昔はこんな話ばかりしいてたような気がする。僕が電通でケンちゃん先生が電通映画社(現電通クリエーティブX)。入社が2年違いか。当時は、電通のクリエイティブと映画社とは、つまりCMプランナーとCMディレクターとは、今と全然違って、密度の高い関係だった。お互いもちっとレベル上げてもらわんと困るじゃないか、ってな感じ。つうか、大手プロダクションに、演出家を育て上げることがミッションであり、プライドであるという共通認識が確固としてあった。
 だから、ちっちゃい頃は、半ば強制的に同世代紹介されて組んだりしていた。電通の方は、年齢上なんだけど転局だった佐藤雅彦さん、岡康道、中治信博、僕3人が同期で。映画社では、瓦林智、本田昌広、黒田秀樹、やまけん監督。外に、中島哲也さん、前田良輔さんとか。やっぱり何か、近い世代でカタマリで、なんとなくやってくんだよね。 そういえば、瓦林たちみんなで、毎年年末に、原宿のカフェ・ラ・ボエムに集まって、「CMプランナーの悪口を言う会」みたいのやってたよね。

山内:毎年、朝までやってました。ただし、それは、プランナーだけではなく、ディレクターの悪口も言ってましたよ。

古川:そりゃひどいね。僕も散々だったと思うけれど、ひとつ覚えてるのは、「古川裕也の企画は概念だからな。とにかく撮りにくい」とかいうやつ。ま、うまいこと言うもんだと思った。ヒトの弱点をずばりと。誰が言ったか知らないけど。

山内:覚えてないです。それは失礼しました。

古川:ひと世代上だと、三浦武彦さん、白土謙二さん、安西俊夫さんたちと川崎徹さん、関谷宗介さん、早川和良さん、関口菊日出さんたち。ヌーヴェル・ヴァーグだってゴダールひとりじゃ、ただのヘンな奴だもん。トリュフォーがいて、シャブロルがいて、ルルーシュがいて、何といってもロメールがいて。不思議なことに作風はバラバラな方がいいみたい。多田琢、澤本嘉光、髙崎卓馬、福里真一、山崎隆明たちと、高田雅博、関口現、真田敦、永井聡たちが次のカタマリだけど、そういうのは、最近ないのかしら。

山内:最近はどうなんだろう。佐藤渉さんはがんばってる。組んでるプランナーは誰かな。でも、今のディレクターたちって、僕らみたいにあからさまにプランナーの悪口言わない感じがする。みんな大人だな。

次ページ 「フィクションを受容する力がどんどんなくなっている。」へ続く

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