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【特別対談 古川裕也×山内ケンジ】クリエイティブディレクターが映画・演劇を、映画監督がCMを語る

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フィクションを受容する力がどんどんなくなっている。

古川:いよいよここから映画の話を。『友だちのパパが好き』は、夏、試写会で見ました。

12月19日、ユーロスペースほか全国公開
(C)2015 GEEK PICTURES

山内:ありがとうございます。どうでしたか?

古川:夏からだいぶ時間経ってるので、DVDいただいてもう一度見ました。良い悪い、面白い面白くない以前に、もしかするとこれはヒットする可能性があるなと。前作とはちがって。
物語の構造は前作『ミツコ感覚』とほぼ同じ。「同じ構造なのにこうも違うのか」という部分が面白かった。それは、おそらく本人の意識の違い。前は、少しも当てる気がないっていうか、あらゆる観点から見てヒットしないっていう感じだった(笑)。かたや今回は、「もしかしたら」ってつい思ってしまったくらい。いい意味で受容しやすくなっている。この感じはCMでも同じだし、映画監督でも、最初才気走ってマイナーで誰も見ないところからスタートして、戦略的に成長してというより、半ば必然的にメジャーになっていくというからくりは、ほんとうに才能ある人共通のサイクルです。

山内:そうですね。『ミツコ感覚』とパターンは同じです。『ミツコ感覚』は謎があるけど、今回はそれがなく、より一般の人に受け入れられるのではないかと思っています。

古川:というふうに、物語構造はとてもクラシカル。家族ものの脚本の王道です。幸福に問題なく暮らしていそうな家族の中に、異物を一滴たらす。作用としてはただそれだけ。でも、それだけで全てが変わってしまう。あらゆることが露呈して、それは必ず周囲を巻き込んでいく。昔の館もの、ソープオペラまで頻用されてきた古典的構造で、ま、受け取りやすくて成功率高い。それが、スモール・ワールドの中のできごとになっているところが、緊密ですごく良かった。とにかく脚本がすばらしい。
言わないつもりのことを言ったことで、また新たな意外なことがおこるという。水を一滴垂らしたら波紋が広がって、必ず少しずれながら、緻密にできごとが連なっていく。そこの運動神経がとても優れている。そのことによって、映画としての文体を獲得している。文体というのは、どのジャンルのクリエイティブにとっても、いちばん重要なものだと思います。それがあるかどうかが、作家であるかどうかを分けてしまうような。文体とは、極めて個人的であると同時に、それによって創られたものが公共物になり、シェアされていく把手のようなものです。
構造はクラシカルだけど、普通の日本映画からするとオーソドックスじゃなく新しい。すごく抑制がきいていて説明をまったくしないという清潔なスタイルを貫いている。

山内: ありがとうございます。マイルドヤンキー向けではないです。(笑)

古川:そうなんだよね。だいたい、映画に限らずだけれどファインアートは、「俺のすごいとこ見せてやるぜ」だの、「思いのたけをぶちまけてやる」だの、「この問題を世界に訴えたい」だの、「俺の監督としてのテクを見せてやる」だのから入ると120%失敗する。映画的客観性というか論理力がまずないと、チャイルディッシュで困ったものができあがる。その辺は、ケンちゃん監督は、CMもとても論理的につくっていたから。

山内:論理的かどうかはわからないけど、CMをたくさんやってたときも、さっき言った、個人的なモノを出す一方で、めちゃくちゃ客観的に作品(CMのこと)を見ていたと思います。

古川:タイトルを見て、エリック・ロメールの『友だちの恋人』を思い出しました。ロメールも、ある枠に収まっている人間関係に異物を混入させて、関係性をくずしたり、好きと嫌いのベクトルをずらしたりっていう撮り方をする素晴らしい作家。話は全然ちがうんだけれど。『友だちのパパが好き』もそういった良い意味で西洋古典的なドラマ製作の手法に忠実につくられていますね。そこに今の日本のカルチャーが載っている。『ミツコ感覚』は誰が見に来るのかと心配でしたが『友だちのパパが好き』は、ヒット作として広がる可能性がある(笑)。

山内:『ミツコ感覚』を大絶賛する人も、50人くらいはいるんですよ(笑)。

古川:ストーリー構成の骨格がしっかりしているので普通に楽しめるし、最終的に日本ではめずらしい作品になっていますね。10年程前に、タイのCMがカンヌ国際クリエイティビティフェスティバルで賞を獲りまくって、一世を風靡した時の構造がそう。
タイのCMは欧米式の構造で、そのうえにタイの文化やカルチャーが乗っかるという、ヘンテコだけどグローバルなCMができていた。もちろんトーンとか思想とかまったく似てないんだけどね。西洋古典的な構造の土台に、今の時代のあいまいな日本特有の小さい心理描写が積み重なっている。変態ばかり出てくるのに、逆に普遍性を感じさせます。

山内:40代、50代の方々も面白く感じると思います、特に女性も。ただ、若い世代は、どうかな。割とコンサバだよね。友だちのお父さんを好きになるなんて、絶対そんなヤバいことできないっていう子が多い。友だちとの関係がちょっとでも悪くなるのを恐れるというか。

古川:フィクションを受容するためのリテラシーも必要だしね。フィクションってある程度は学習しないと受容できないから。「映画という大ウソを見ている現実」は認識しているけど、それでも楽しく見ることができるという。そこを受容する力がどんどんなくなっている。

山内:それそれ。フィクション許容力。それが文化度を表すから。クレームのせいで、局の考査も厳しくなってるし。コンコルドも。

古川:(笑)。ところで、映画監督をしているときって、CMディレクターをしてるときとどう違うの?

山内:CMと違って、映画はお金を払って見に来てもらうものなので、マーケティング的に考え、なるべく多くの人に受け入れられるようにって、いまは思ってます。逆にCMの場合は、それがプランナーの企画のときは、マーケティングのことはあまり考えない。その企画をちょっとでもよい仕上がりにしようと。そういう点では楽なんだけど、コンコルド以外の場合、いろんなこと言われて結局ストレス多いです。長年CMの世界にいるので全部事情がわかってしまうので。

古川:脚本と演出というのは、当然ちがうものだけれど、完全に別アタマなんですか。コンコルドみたいなCMは、実は脚本と演出が同一人物じゃないとできない。ただ映画の脚本も演出も、ちょっとクリエイティブディレクター的なところもないですか。その都度実質総責任者だもんね。プロデューサーいると言っても。

山内:そうですね。脚本はクリエイティブディレクターに近い部分もあるかも。ただ、日本でクリエイティブディレクターに一番近い監督は、伊丹十三さんだけだったんじゃないでしょうか。あの人は、映画がヒットするかどうかノイローゼになるくらい気にして、企画を考えていたそうです。自分で予告編にでるとか、どうやって映画を流行らせるか必死だったんだよね。

古川:面白い映画が撮りたかったはずなのに、売れる映画を撮るためにがんばるようになってしまうって、目的と手段が入れ替わっていますね。伊丹さん、最初の2本(『お葬式』『タンポポ』)、ほんとにすばらしいのに。そういう意味で、『友だちのパパが好き』は、今日本で受け容れられているエンターテイメントとは、ちょっと違うものかもしれないけど、こういうものが受けたりすると、世の中ちょっといいなと思います。ちなみに「ヘンタイ」って連発してる予告編って自分で作ってるの? 

<『友だちのパパが好き』予告編>

山内:いや、あれは、外部にお願いしました。もともとが、変な話なんで、「ヘンタイ」でもいいかなって。ストーリーは、主人公の女の子が、友だちのお父さんを好きになるっていうタイトル通りの内容です。でもそれだけじゃなくて、友だちの家庭、愛人、恋人、周りの人それぞれに問題があり。このマヤという主人公は、いたって純粋なんだけど、トリックスターみたいなもんなんです。彼女が“好き”という純粋な気持ちで突き進むことで、典型的な日本の家族がかき乱される。それによって、周りがみんな影響されて、人に言わないようなこと、隠していた面を出さざるをえなくなる。

古川:その表出のさせ方は、それぞれのキャラクターごとに絶妙です。吹越さんの踏み越えさせ方とか。キャスティングはどのように。芝居と同じあてがきですか?

山内:そうですそうです。あてがきじゃないと書けないんですよ。

古川:あてがきと言えば、『トロワグロ』の片腕のモチーフが、平岩紙のとても白い腕から出てきたという話があったけれど、映画ではどうだったんですか。脚本の段階でいきなり肉体性が獲得されるという、ずいぶん有力なルートだと思うんですが。キャスティングと脚本の関係についてぜひ。

山内:「友パパ」については、それほど肉体的な誘導はないけれど、でもこれはいつもだけれど俳優の声ですね。

古川:声?

山内:ええ、声が聞こえないと、というか聞きながら脚本を書きますね。稽古のときも、よく目を閉じて芝居を聞いたりしてる。僕は耳で演出する方だから。CMのキャスティングだって、どんな声の組み合わせになるかはとても重要です。

古川:なるほど。そうですか。映画全体見ると。やっぱりCMで技術を構築した人だけあって、半分無意識に、そうとう緻密に編集・構築されてます。やっぱりセリフの言わせ方とか、フレーム単位で適切ざんす。

山内:今度の映画は、ワンシーンワンカットだから、技術的な意味での編集はほとんどしてないんですけどね。(笑)

古川:というわけで、電通CDCでは組織ぐるみで応援しています(笑)。澤本はもちろん、意外にも菅野、コピーは細川が書いています。西田編集長もおもしろいと言ってくださって、ブルータスでも採り上げていただいてます。

山内:ありがたいことです。長年、CMギョーカイにいた価値があったと言うものです。

古川:この映画が、どのように今の日本の人たちに受容されるか、とても興味があるのです。念のためもう一度言っておくと、まちがいなく傑作です。



古川裕也(ふるかわ・ゆうや)
電通 CDC局長 エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター

クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌライオンズ40回、D&AD、One Show、アドフェスト・グランプリ、広告電通賞(テレビ、ベストキャンペーン賞)、ACCグランプリ、ギャラクシー賞グランプリ、メディア芸術祭など内外の広告賞を400以上受賞。2013年カンヌライオンズ チタニウム・アンド・インテグレーテッド部門、2005年2014年フィルム部門はじめ、D&AD、クリオ、ACC審査委員長など、国内外の審査員多数。D&AD President Lectureなど、国内外の講演多数。
主な仕事:九州新幹線全線開業「祝!九州」。ポカリスエット「Jump!」。BIG「10億円・西島秀俊シリーズ」。リクルート「すべての人生がすばらしい」グリコ「Smile!Glico」キャンペーンなど。
著書に「すべての仕事はクリエイティブディレクションである」。アドタイ連載中のコラムも単行本化予定。現在、レコチョクにて、「音楽はあなたを突然奪う」というタイトルでPlay List毎月公開中。


山内ケンジ(やまうち・けんじ)
CMディレクター・劇作家・映画監督

83年に電通映画社入社。92年よりフリーに。
CMディレクター&プランナーとして『NOVA』、『クオーク』、『コンコルド』(静岡のパチンコチェーン)、 『ソフトバンク/ホワイト家族』など数多くのCMを手掛ける。ACC賞、広告電通賞、ギャラクシー賞など受賞歴多数。
04年から演劇の作・演出を開始。故・深浦加奈子を主演に迎えた『葡萄と密会』を公演し、06年にプロデュースユニット“城山羊の会”を発足。2013年上演の『効率の優先』では第58回岸田國士戯曲賞にノミネート、2014年上演の『トロワグロ』では第59回岸田國士戯曲賞を受賞する。2011年には映画初監督作品『ミツコ感覚』の脚本・監督をも勤め、第27回ワルシャワ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門にノミネートされる。2015年には第二作監督映画『友だちのパパがすき』で、第28回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門に公式出品。

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