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コラム

箭内さん!聞かせてください。今日このごろと、広告のこれから。

箭内さん!クリエイティブディレクターなのにチームづくりが苦手だったって本当ですか?

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クライアントに応援されるクリエイター

クライアントとの関係は、いろいろ考えるところがあります。僕は、実家が商店だったので「お客さまは神さま」という前提がどうしても抜けないのですが、その性質は必ずしもプラスに働かないケースもあって。要望を何でも叶えれば、クライアントが満足するかというと、そうでもない。ぶつかり合いながら、アウトプットを磨き上げていった成功体験を持っている企業もたくさんありますから、最近は、ときにはちょっと無理して否定したり、思いきり言い切ったりするよう、気を付けています。

10年前と今とでは、クライアントのマインドが変わってきていて、「自分たちのやりたいことを、箭内さんに実現して欲しい」というだけでなくて、「自分たちのやってきたことを壊してくれてもいい!」という人もいて。後者に対して、いつもの調子で「皆さんのやりたいことをやりましょう」と言ってしまったら、モヤモヤが残ってしまいます。そのさじ加減が難しいですし、クライアントとのチームづくりの面白さでもありますね。

実は、「クライアント」という呼び方は苦手。逆の立場だったら、「クライアント」ではなく「箭内さん」と呼ばれたいなと思うので、なるべくそういう呼び方をするようにしています。広告会社と得意先、発注側と受注側というのではなく、「一緒につくっていく」関係性をつくりたいと思っているので、クライアント(って、ここでは便宜上、そう呼んでしまいますが…)の人たちとは仲が良いです。お互いを尊敬しあったり、でも必要なときには言いたいことを言い合ったりと、力の合わせ方をつくっていく、という感じです。10年以上前には、「テレビ出ている暇があったら、もう一案、提案を増やしてよ」と言われたこともあった。でも、そういう関係づくりを積み重ねていったことで、東日本大震災のときにはクライアントの皆さんも一緒になって福島を心配してくれましたし、広告以外の僕の仕事に賛同してくださる企業が増えていきました。もちろん、“本業”をきちんとやるのが前提ですが。

—「テレビに出ている暇があったら…」と言われなくなったのは、なぜでしょうか?

広告の仕事も、それ以外の仕事や活動も、すべてつながっている。福島の復興支援活動を通じて得たことは広告の仕事にフィードバックしているし、広告以外の仕事で一緒に活動したミュージシャンと、今度は一緒に広告をつくるようになることもある。新しいものの見方や、アイデアの考え方、これまでにないパートナーなどを、広告づくりの現場に持ち帰っているんですよね。それを“お得”だと、僕と仕事をする価値の一つだと感じてくれる企業と、いまも一緒に仕事をしているのだと思います。逆に、理解して支えていただいている分、そういうクライアントに対して何を持ち帰れるか、還元できるかということは、さまざまな活動をする上で常に意識しています。

—クリエイターがクライアントを応援するという構図は、広告ビジネスにおいて一般的ですが、クライアントがクリエイターを応援するスタイルって、あまり多くない気がします。

そうですね、ちょっと特殊かもしれません。ゼクシィをはじめ、CM記者発表会などの場には、必ずと言っていいほど登場していますからね。こんなに前面に出てくるつくり手はいないんじゃないでしょうか。

タワーレコードのフリーマガジン『bounce(バウンス)』で、毎月「NO MUSIC, NO LIFE.」の広告が紹介されるとき、右ページには広告原稿が、左ページにはメイキング風景が掲載されるのですが、そのメイキング写真にも僕がたくさん写りこんでいて、それを見た宇川直宏くん(ライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」の創設者)から、「広告のつくられ方も含めて広告になっている。それが箭内さんの面白いところだし、珍しいところなんだよ」と言われて。もちろん、例えばテレビCMなら、その15秒・30秒だけで勝負しろよっていう意見もあると思うけれど、それをつくったときのストーリーを知ることで、企業に対する理解がさらに深まったり、面白さを感じたりということもあるかもしれない。そういう、“CMそのものだけではない部分”も僕が担わなければ、となんとなく思い続けてきました。いまは、多くの人が「物語」を求める時代だと思うので、なおさらですね。

ゼクシィのCM記者発表会の様子。出演者らとともに登壇することもしばしば。

「NO MUSIC, NO LIFE.」の広告が紹介されている、タワーレコードのフリーマガジン『bounce(バウンス)』の誌面。右ページには広告原稿が、左ページにはメイキング風景が掲載されている。

—広告の向こう側にある「思い」「空気」のようなものを、広告と合わせてつくっていく。それが、昔から箭内さんのスタイルだったんですね。

そこしか、僕の独自性を発揮する道がなかったんだと思います。そういうことが必要だと思う会社が増えるといいのにな、とは思っています。僕が役に立てる部分は、まだまだあるんじゃないかと。

広告の裏側にある、企業の思いや空気感にも踏み込んでいくので、「クライアントと一緒につくる」という姿勢はやはり不可欠。クリエイティブも、僕らつくり手だけで完成させるということはなくて、例えばコピーを考えてきてもらうこともあるんです。“クライアント遣い”が荒いと言われても仕方ない。例えばゼクシィでは、「明日までに、プロポーズのシチュエーションをできるだけたくさん挙げてきてください。メールで送ってくれたら、良さそうなものを選ぶので」みたいに…。そうして、考えることの面白さと難しさを感じてもらった上で、僕はプロとして求められるクオリティの切り口やディレクションを提供するようにしています。

 

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