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デジタル時代のあるべき組織とは?挑戦するマーケターたち vol.1 三越伊勢丹ホールディングス×アイ・エム・ジェイ

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デジタルシフトの本質は本当の“顧客中心主義”への変化

加藤:最近ではCCCさんとの提携など、他社と協業している事例もありますが。

柴田:会社として、3つのシフトを掲げています。1つ目が顧客軸シフト、2つ目がデジタルシフト、3つ目がアライアンスシフトです。変化のためには、自前主義から脱却しなければいけないと考えています。

加藤:「顧客軸シフト」とはどういうことですか。

柴田:これまでの百貨店の最大の価値は「よいもの」が揃っていること、それを丁寧に接客して販売すること。しかし、品物はどこでも買える時代においては、「体験」も含めた「よいもの」を販売する必要があります。その「体験」を考えるために、お客さまをどれだけ知っているのか、あらためて問うことになったのです。実際のところ、お客さまを知るための客観的な情報は、三越伊勢丹の「エムアイカード」の買い物履歴でしかわからなかった。「次に何をお求めになりたいのだろう」と想像するデータとしては、心もとないものです。カードの履歴以外で、新宿伊勢丹店で購入されたお客さまが、六本木の「イセタンサローネ」では何を購入しているのか。そういった顧客とのエンゲージメントが弱い。もしかしたら、我々はお客さまについて、想像していただけではなかったのだろうか。そんな深い課題認識があって、この「顧客軸シフト」の方針になっています。

加藤:「もの」の提供から「体験」の提供に変革していくのに「顧客軸シフト」は大切な要素ですね。しかし、特に小売業界は昔から「お客さまのために」という思想は強かったように思いますが。

柴田:どこの小売業の企業理念にも書いてありますね。

加藤:しかし、デジタル化によって企業は改めて「顧客中心主義」を徹底することが求められています。つまり原点回帰ですね。

柴田:商品ありきの発想ではなく、お客さまから考える。売り場においてもお客さまへの「体験」を提供する場に変わることを、進めています。伊勢丹新宿店には「cocoiku(ココイク)」という子供向けに社会活動やデジタルへの関心を高める学校をつくりました。商品を置けば一番売れるだろうと言われてきた場所に学校をつくるのは思い切った決断でしたが、お客さまと、子供服を売る以外の接点を持つ場となっています。

具体的な課題をもとに立場の異なる人たちで考え続ける

加藤:「顧客中心主義」を実践した売り場をつくってしまえば、自ずと社員の意識も変わっていくのでしょうね。

柴田:私は、決して「脱・百貨店」ではなく、「百貨店を極めること」だと思っています。ただ、自慢の品揃えの「品」が体験になったり、丁寧な接客の「丁寧さ」がデジタルを用いて形を変えたりすることはあるでしょう。

加藤:顧客のインサイトをしっかり捉え、自社が提供すべき「体験」を考えた時に、自社に足りないパーツが見えてきて、場合によっては提供するサービスの幅が広がったり変化することもあるかと思います。

柴田:これだけ変化が必要となったときに、マーケティング・商品・ITなど部門の違う人たちが、同じ課題意識を持ち、一度に意識を変えるのは困難です。そこで、具体的な企画を宿題に考えてみることを大事にしています。売り上げは毎年アップしているけれど、売り場を変えたことで満足度が下がっている企画を題材に、プロジェクトを組む。マーケティング部門だけで考えると、売り上げを伸ばすことに意識がいきがちなところを、他部門の人たちを呼んでさまざまな方向から考えてみます。

加藤:具体的な課題をもとに立場や考えが異なる人たちで繰り返し考えるのは、とてもいい方法ですね。大きな企業・伝統的な企業ほど変化が難しいと思っていますが、やはり目の前の課題を一つひとつ解決していくことが、一番の近道なのかもしれません。

編集協力:アイ・エム・ジェイ