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コラム

「第54回宣伝会議賞」審査員リレーコラム

何を見てきたか聴いてきたかが、そのクリエイターを決定する

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松村祐治(まつむら ゆうじ)
電通CDC クリエイティブディレクター/CMプランナー。

主な仕事に、サントリー、ヘーベルハウス、FRISK、銀のさら、SONY、西武鉄道、アイデム、NOVAうさぎ、テレビ番組「喝老人」「ど人生」、PUFFY、Brian the Sun、ASIAN KUNG-FU GENERATION、チャットモンチーなどのPV。TCC、ACC、ギャラクシー賞、NY フェスティバル、アドフェスト、SPIKES、CRESTA、LIA、Music Video Awardなど受賞。

 

このコラムのお題は、宣伝会議賞に応募する人に「こんなふうにするといい」とか「僕ならこうする」とかアドバイスすることなのですが、考えてみると宣伝会議賞だけの特別なやり方なんてないし、あったとしても宣伝会議賞だけのプロになってもしょうがないとも思うので、自分の普段のやり方を正直に吐露してみようと思います。役に立たなかったら、すみません。

いきなりカミングアウトすると僕、けっこう「酔拳(すいけん)」です。これはあまり取材なんかでも話したことない話ですが、アルコールでブーストして考えます。

もちろんその前に、シラフで頭が痛くなるまで考えます。考えます。考えます。で、もう限界でこれ以上出ないなあ、ってところまでいった夜更け、おもむろにプシュッ、です。ゴクッ、です。この状態でさらに考察していきます。

するとフリーダムに暴走しはじめたマイブレインが今まで思いつかなかった角度からアイデアを見つけてきます。ククッと笑いながらノートにアイデアを書きつけます。ビアーの泡がノートについてシワシワになります。気にせず、ミミズののたうち回るようなドランカーの字で書きなぐります。

でもよく言いますよね?深夜のハイテンションのアイデアは次の朝見ると、全然良くないって。でも、そうでもないんです、僕の場合。重い頭を抱えて、次の朝ノートを見ると、猛烈な勢いで書かれているもはやあんまり覚えてないコピーやストーリーが、結構面白い。時にシラフのページよりも。

実際、そんな風に生まれたアイデアでつくったCMやコピーはたくさんあります。半分くらいはそうだと思います。賞を獲った作品もたくさんあります。でもこれはそんなに珍しいハナシでもなくて、人によっては会議室で散々打ち合わせして、そのあとボーッとタクシーに乗ってるとふと、アイデアが浮かぶとか、お風呂でリラックスしてると急に浮かぶとか、みんなそんな体験をしてます。

つまりそういうことなんだと思います。弛緩の時間。

そして、僕は恥ずかしいのですが、ものすごく考えます。時間というか量というか。実は僕をつくってるのは、この点につきると思います。若い頃から、他人より才能があると思ったこともないので、会議室にアイデアを持って集まったどの人より、一番深く考えてなきゃダメなんじゃないか、と昔から思ってまして。すみません、カッコ悪いですね。

だから、あまり考えてない先輩が会議で、僕が最初の5時間くらいに考え終わったエリアをいつまでもウロウロ掘ってると次第に腹が立ってくるというか、「そこ何もないと思うんで、僕もう帰っていいでしょうか」と心の中で挙手してました。あ、若いころのハナシですよ。若いころ。そういう意味でも広告のオタクじゃないとプロじゃない気もします。

たとえば「バンコクインシュランスのあの嵐のCM」って話になって、それが何かわからないとちょっと打ち合わせしにくいというか。あ、本当の天才はそんなこと知らなくてもいいですよ。もちろん。ただ、そうじゃない僕のような凡人は、過去の名作はすべて頭にインプットすべきです。僕も自分の中にアーカイブがあって、それを検索しながら考えています。

それは表層を真似るということではなく、構造を指標にするということです。Xboxの「LIFE IS SHORT, PLAY MORE」のCMを脳内検索して、「一気に人間が老いるってアイデアはどうかしら」って考えるのではなく、「目も離せないエンターテインメントを一行のコピーで一気に解決する構造で考えてみよう」と考えることです。

ネタ帳は特につくらないのですが、映画とかレコードとかドラマとかは大量に見るようにしてます。これも自分の作品のクオリティに直結すると思います。何を見てきたか聴いてきたかが、そのクリエイターです。ひどい時はレコードを毎月20万円ぶんくらい買ってました。家にレコードが1万枚ありました。そりゃ貯金がないわけですよね。悲しいです。

まとめますと、私の言ってることはシンプルで、広告のクリエイションくらいは努力でなんとかなる、というポジティブなメッセージです。何もピカソになろうとかマッカートニーになろうってハナシじゃないんで。

最後に賞の意義ですが、精神的安定が最大ですかね。僕も弱い人間なので会社のエレベーターに乗ったときに「あ、この中でTCC獲ってないの俺だけだ・・・」とかカレー屋で「20杯食ったら新人賞、とかなら、俺食うな」とか日々の暮らしで鬱々としてました(笑)。いや、そういうことじゃないですね。賞を獲ると仕事がしやすくなります。なんとなく、前ほどコピーが否定されない気がするぞ、とか。あと仕事が来やすくなりますよ。クリエイターの客観的な評価って案外難しいので。

などなど、だらだらとスミマセン。では、がんばってください!審査楽しみにしてます!


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日本最大規模の公募広告賞「第54回宣伝会議賞」は、11月11日13:00まで作品応募を受付中です。課題は好評発売中の「宣伝会議」10月号誌面をご覧ください。また、応募は公式サイトで受け付けています。