サカナクション山口一郎が語る、企業ブランドとロックバンドの新たな関係

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アイドルかミッションか。2種類に分かれるアーティストと経営者

—「音楽を聴くこと」以外のファンとアーティストとのつながりができたのですね。

山口:今、ミュージシャンはアイドル化しています。「音楽を聴きに行く」のではなく、そのアーティストに会いに行くのがライブであり、だからこそアーティストのプライベートが気になる、興味が人に行くわけです。ただ、サカナクションは非常に職人気質で、アイドル化するタイプのミュージシャンではなかったので、現状に違和感がある。

そういう職人気質のサカナクションの特性からしても、企業と音、企業と音楽を結びつけていくのは向いていると思ったし、BtoCのビジネスの中にカルチャーとしての音楽や音を提供していくことにやりがいを感じます。

康井:アーティストはアイドルだ、という言葉がありましたが、経営も似ています。例えば、AppleとFacebookの違いを考えた時に、根本的に違うのは、Facebookは「世界中の人をつなげる」というミッションに基づいて意思決定をする企業であり、一方Appleはスティーブ・ジョブズというアイドル的な存在の夢をみんなで追いかけるスタイルの企業であること。どちらがいい、悪いではなくて、どの道を選んでいくのか、アーティストとしても、経営者としても考えるべきところなのでしょう。

ロックバンドが持つべき新しい「夢」の形

—企業と音楽をつなげる、という活動は他にはどのような形がありえるのでしょうか。

山口:店舗でのショッピング、会議、製品の音、色んなことを音の力でよりよくできます。家電もそう。日本の家電は非常に性能がいいのに音に面白味がまるでない。音で商品や企業をデザインしている事例は、海外には多いのですが日本は本当に無頓着です。僕個人がそうなのですが、macの起動音に未来を感じていた人、多いのではないでしょうか。ああいったアプローチが日本にないことについて、強い疑問を持っています。

ただ、企業側だけでなく、古いままの音楽業界側にも大きな問題があります。だからこそ、これからはロックバンドが持つ夢もアップデートが必要。東京ドームに何万人、ではなく音楽で社会をよくしていく、という意識の変革が求められると思います。

ミュージシャンの音楽の作り方も変わってくるはずです。「グッズ」と「プロダクト」と分けて考えるとわかりやすい。「グッズ」は何万人という大衆に向けてつくるものである一方、「プロダクト」は企業に特化したもの、社会に特化したものと考えています。

大衆のための「グッズ」を通してメディアに出ていき、多くの人に知ってもらって価値を高めていく。その裏側で、その高めた価値を軸に「プロダクト」を企業向けに作る。こういったサイクルが、ミュージシャンとしてのこれからの新しい音楽活動になってくる気がします。

これら2種類の音楽のギャップ、違和感がこれからの音楽のかっこよさ、そしてロックバンドとしての新しい夢になってくるんじゃないかな、と。

康井:今までベンチャーへの投資などをしていく中で感じるのは、「ビジネスのあり方をディスラプトしたい、根本から変えたい」という思いは、やはり何かをドライブさせる原動力だということです。

ベンチャー投資をしている中で気づいたのは、上手くいく企業はやろうとしている人がアイデアを信じ込んでいるということです。最初はそのアイデアを信じるのは嘘つきに近いかもしれない。ただ、時代がこう変わる、面白くなるということを言い続けることで、仲間がついてきて、さらにお金がついてくる。

既成事実として物事が前に進むと、さらなる人とお金、つまりリソースが集まってきて、最初の妄想が形になっていく。このプロセスが非常に面白くて、そしてその同じエネルギーを一郎さんから感じるんです。

だからこそ単純に決済音をつくりたい、というだけでなく新たなビジネスの形を模索する山口さんと一緒にプロジェクトを進めるプロセスにわくわくしました。

Origamiとしても、音を使った新しいチャレンジを続けていきたいです。

—ミュージシャンが手掛ける音楽ビジネスの一貫として、企業ブランドを音で表現した今回の取り組みは、企業コミュニケーションと音楽ビジネス、両者のあり方をも変えるかもしれません。企業と音、ミュージシャンの関係の変化に、今後も注目していきたいと思います。

山口一郎
サカナクション vocal guitar

1980年北海道小樽市生まれ。5人組ロックバンド「サカナクション」のボーカル兼ギターとして、2005年に活動を開始し、2007年にメジャーデビュー。楽曲のほとんどの作詞・作曲を手掛け、音楽的な評価も受けながら「ミュージシャンの在り方」そのものを先進的にとらえて表現し続けるその姿勢は、新世代のイノベーターとして急速に支持を獲得している。

 

康井義貴
Origami代表取締役社長

1985年トロント生まれ。
トロント、ニューヨークで幼少期を過ごし、10歳から東京に在住。
シドニー大学留学、早稲田大学卒業後、米大手投資銀行リーマン・ブラザーズでM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルDCM Venturesで米国、日本、中国のスタートアップへの投資を手掛ける。2012年、Origami(オリガミ)設立。

 

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