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シンプルかつ戦略的にクリエイティブを開発するメソッド

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【前回記事】「36歳オールド・ルーキーのマイアミ・アド・スクール挑戦記」はこちら

椎名和則
アートディレクター

日本の広告代理店にクリエイティブとして勤めた後、35歳にして一大決心して渡米。
現在はマイアミ・アド・スクールに在籍。OneShow, Clio等の広告賞を受賞。


今回は、マイアミ・アド・スクールが最も重視している、アイデアを導き出すプロセスの一例をお話したいと思います。

「フォーカス、フォーカス、フォーカス」

これは今から約2年前、私が最初に受けた「アイデア・ファースト」(Idea first)のクラスで、最も尊敬する講師のひとり、エディ・ルイビスが何度も言っていたキーワードです。当時、彼はニューヨークにある広告会社で、世界的に有名なIT企業をクライアントに持つストラテジー・プランナーでありながら、マイアミ・アド・スクールの講師もしていました。

クラスの冒頭に行ったのは、モニターにスプーンとフォークの画像を映し出したこと。そして、なぜこの形でなければならないのかを生徒に質問することから始めました。いくつかのポイントを生徒に挙げさせた後、エディは、

  1. スプーンはスープなどを口に運びやすい。
  2. フォークは食べ物を刺して食べることができる。

という2点を象徴的な特徴として絞り込みました。

次に彼はスプーンの先にフォークがついた「スポーク」の画像を見せて、これがアイデアであると説明します。アイデアとはいくつかの事柄の組み合わせからできており、問題を解決する力を持っていると。この場合、スプーンとフォークの組み合わせで、食べ物を刺すことも、すくい取ることも、ひとつの道具で事を済ませることができます。

単純なことのように思えますが、彼は「フォーカス」(Focus)という言葉を用いることで、問題を解決する意義がぼやけてしまわないように、本質の絞り込み方を徹底的に考えさせようとしていたのです。

もうひとつ大事なクラスに、アイデアを考える前の戦略の立て方「シンク・ストラテジカリー」(Think strategically)があります。

クラスではまず、商品やサービスの情報をリサーチすることから始めます。次に解決すべき「問題」(Problem)を見つけ出し、誰のための広告か「ターゲット」(Target)を想定し、彼らと共感できるポイント「インサイト」(Insight)を導き出していきます。それぞれを導き出す方法は、過去の広告の事例を見てディスカッションしながら、学んでいきます。

ストラテジーにおいても「フォーカス」することの大切さは同じで、最終的には各ステップの目的をシンプルかつ分かりやすい言葉に落とし込んでいきます。このプロセスを行う目的は2つあります。ひとつは、効果的なキーワードに落とし込むことで、プレゼンテーションにおいてクライアントの理解の速度と深度を高めるため。もうひとつは、制作に関わるチーム全員に向けて、ブレのない共通理解を持つために必要になるためです。

このストラテジーからアイデアまでの非常に複雑なプロセスを経て広告クリエイティブの骨子が決まる、とマイアミ・アド・スクールは考えているため、最初の半年間で生徒はこれらの概念を徹底的に教え込まれます。これによって、クリエイティブ・ブリーフをつくり、理解する能力が養われるのですが、講師陣によってアプローチ方法は様々であるため、生徒は自分の相性にあった方法を模索していきます。

また、どんなプロジェクトであれ、その後のクラスでは、なぜそのアイデアに至るのかを必ず講師から質問されます。そしてロジックが破綻している部分は指摘され、何度も繰り返し修正していきます。このようなトレーニングを繰り返し行うことで、アイデアの精度を高めていきます。良いアイデアは誰が見ても簡単に一言で説明できるものです。個人的にはこのプロセスを学ぶために留学したと言っても過言ではありません。

日本においては、このように広告制作を体系的にかつ、グローバルで通じるメソッドを学べる機会は極めて少ないと感じています。