#SXSW2017 ビジネスクリエイションにおけるアドエージェンシーの光と影

濱本智己
JWTジャパン  Communication Design Director

大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティングに入社。ビジネスコンサルタントとして、公共交通機関や家電量販店、食品メーカー等のコンサルティング業務に携わる 。2007年に外資系広告代理店に入社後は、ストラテジックプランナーとして、日本マクドナルド、BMW MINI、NIKEやPUMA等のコミュニケーションプランニングを担当する。2016年より、ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパンに参画。戦略のわかるクリエイティブとして、コミュニケーションストラテジーからクリエイティブまでを一気通貫してデザインするハイブリッド型プランナーとして活躍。

 


優れたビジネスアイデアと、その他無数に存在するアイデアとの間にある決定的な違いとは、いったい何なのか?そしてアドエージェンシーのクリエイティビティは、ビジネスクリエイションというスケールでも機能しうるのか?今回初めてSXSWを視察するにあたって、個人的に最も関心を抱いていたのはこの問いでした。

どんなとんでもないアイデアと出会えるんだろう?それはもう期待に胸を膨らませながらオースティンへと出発しました。そして5日間のSXSW視察を終えた今、率直な感想を言うと、それは当初想像していたものとは少し違っていました。誤解を恐れずに言うと、アクセラレーターピッチのWinningアイデアですら「その手があったか!」と膝を打つような感覚を、僕は正直あまり持てなかったのです。

その理由を悶々と考えてみたのですが、恐らくそれは広告コミュニケーションの世界で評価されるアイデアと、ビジネスとして評価されるアイデアの間には「アイデアの捉え方」に決定的な違いがあるからなのだと思います。

アクセラレーターピッチの様子。

ここ2〜3年、日本のいくつかのエージェンシーは、自社開発した製品やサービスのプロトタイプを積極的にSXSWに出展する動きを見せています。これは、アドエージェンシーが広告に依存しない新しい収益モデルを模索する試みであり、自らのクリエイティビティを拡張しようという大きなチャレンジでもあります。

ここ数年の間にアドエージェンシーがSXSWに出展してきたアイデアの数々と、今回SXSWで評価されたスタートアップアイデアを見比べていると、ふと感じることがあります。それはアドエージェンシーのアイデアの多くは、良くも悪くもやはりアドエージェンシーらしく見えるということです。非常にユニークでインパクトがある反面、どこか刹那的というか、瞬間的なスパークのような読後感が残るのです。

昔、あるテレビ番組でブータンの首相が「幸せと喜びは違う」と言っていたのを思い出しました。たしか、喜びは刹那的なものだけど、幸せとはもっと継続的なものであるという内容だったと記憶しています。僕はこの喜びと幸せの違いのようなものを、アドエージェンシーのアイデアとSXSWで評価されるスタートアップビジネスとの間に感じたのです。

それは一体なぜなのか?僕はここに、我々がビジネスクリエイションというフィールドで飛躍を遂げるための、ひとつの大きなヒントが隠されているように感じました。そしてそれは、我々アドエージェンシーが抱える2つの無意識の弊害によって引き起こされているのではないかと見ています。

次ページ 「「キャンペーン思考」と「課題解決型コンテンツ思考」という弊害」へ続く

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