【前回コラム】「コピーを「選ぶチカラ」が必要なのは誰か?」はこちら
コピーを書いてクリエイティブディレクターに見てもらう。クライアントに見てもらう。その時の「ダメ出し」の言葉の理解に苦しむ時があります。ダメ出し自体は、悪くはないんです。もっと良くなるためのヒントだからむしろ大歓迎。
経験上、一発OKよりもいろんな制約や指摘があって、考え直したほうが結果的に良くなった、ということ、結構あります。やっぱり、一人の脳ミソよりいろんな脳ミソを混ぜたほうがいい場合がありますから(ただし、全員が同じ方向、同じゴールを目指している、という前提ですが)。
電通時代、コピーライターのボクが42才、クリエーティブ・ディレクター佐々木宏さんが45才頃の話。そう、2000年のKDDI合併広告を作っている時の話です。突然、佐々木CDのところに舞い込んだ、緊急の大きな仕事でした。どんなコピーがいいか、まだ模索状態の第1回打合せ。
ボクはどんなのがいいか、たくさん書いて佐々木さんに見てもらいました。いわゆる「たたき台」です。この中から突破の糸口を見つけ出すために。しかし、「う〜む。なんか違うなぁ。こんなんじゃないんだよな〜」とおっしゃる。
「ムッ」とする表情を押し殺して「じゃあ、どんなのがいいんですか?言ってくださいよ、書きますから」と応酬したんです。自分が「そうか!」と納得できるヒントをもらわないと、次の書き直しができませんからね。黙って引き下がるわけにはいきません。
佐々木さんは「そう言われても、俺だってまだわかんないよ〜」と言う。仕方ありませんよね。つい先日来たばかりの仕事なんですから。誰にもどんなアプローチがいいなんてわかっていない時期でした。
すると佐々木さんは、業界の位置関係について話し始めました。業界ナンバーワンのNTTと規模は2番目だけど新規参入のKDDI、「プロ野球のセ・リーグに対抗して、パ・リーグを面白くします、みたいなんじゃなくて、セ・リーグ vs Jリーグみたいなもんなんだよな」とつぶやいたのです。
そのとき「!」と電気が灯りました。そうか、今の状態は、単なるA社とB社が競合しているんじゃなく、全然次元の違う、先入観や前例や今までの常識なんかを無視した異種格闘技戦みたいなオモロイ競争関係なんだ、と感じました。その方がワクワクするし、勢いも伝わるし。
ヒントをもらったので、もう、コピーは書けます。
・がんばれNTT がんばるKDDI
・多数決で決まることは、たいてい、フツーだ
・No.2だから、ヤンチャできる
・つまんない広告をする企業は、ほぼ、つまんない
・スローガンより実行せよ
クリエイティブディレクターの的確なディレクション、というより抽象的なひとことから想像力が沸騰してきて、どんどん書けてしまいました。
クリエイティブディレクターという人は、スタッフのスイッチを入れる人、なんじゃないかと思います。佐々木さんはそこまで考えて「セ・リーグ vs Jリーグ」とつぶやいた訳ではないのかもしれませんが、立派なディレクションでした。進む方向を示してくれたのです。
佐々木さんの考えに共鳴する部分があった。深く納得できる部分があった。だから、あのコピーのスイッチが入ったのだと思います。クライアントの無意識の言葉、クリエイティブディレクターのちょっとしたひとことに「!」があったりする。コピーライターは、それを見逃さないようにするのです。
クリエイティブディレクターはスタッフにああしろ、こうしろという人ではなく、スタッフの能力を引き出すきっかけを与えてくれる人なのかもしれません。少なくともKDDIの仕事の佐々木さんとボクの関係はそういうものでした。これは、先輩と新入社員、上司と部下という関係でも同じだと思います。
書籍の中の第5章、コピーを選ぶときの話「仲畑チェックを自己分析」に書いた、一人反省会。仲畑チェックに対して自分で「もしかしたら、○○だからダメなのかもしれない」「これは○○だから、いいと言われたのかもしれない」という仮説を立て、想像をしてきたことがここで役に立ちました。
ああしろ、こうしろと言われて育ったコピーライターだと、こういうケースでは対応できなかったかもしれません。良いダメ出しの言葉は単なる指示ではなく、能力を開花させるキッカケの言葉なんだと思います(もちろん受け手側の想像力があって、の話なんですけどね)。
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