デジタルシフト相談室「デジタル系エージェンシーの皆さんのお悩みに答えます」編

【前回の記事】「デジタルシフト相談室「総合系エージェンシーの皆さんのお悩みに答えます」編」はこちら

小霜和也著「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」(7月1日発売/宣伝会議)
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新刊『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。』の発売を記念して、著者の小霜和也氏が、現場でデジタルシフトに取り組む皆さんからの悩みに答えていく本連載。
3回目は、デジタル系エージェンシーの皆さんから質問いただいております。
今回も本音でズバズバ、時にはバッサリお答えいただきました。

小霜さん、本日もよろしくお願いいたします。

この連載では小霜さんへの質問を一般募集していますが、おかげさまで広告主からエージェンシーの新人の方まで、幅広くご質問をお寄せいただきました。ありがとうございます。

今日はその中からもいくつかご紹介していきますね。

まずはデジタルエージェンシーの現場から、メディアプランニングに関する質問です。

Q:プランナーです。WebでTVCMの動画をそのまま配信してターゲットユーザーの商品認知度を上げてくれとオーダーされることが多々あるのですが、その場合はクリエイティブをいじる暇もないので、ターゲティング設計と運用に徹しようと努めています。が、それって正しいんでしょうか?運用は視聴完了率や広告へのリアクション率をKPIとして効果が良い媒体へ予算をアロケーションしたり入札強化したりしております。

 

小霜:デジタル系エージェンシーでプランナーさんということは、メディアプランナーという想定でお答えしていいですね?

まず、広告主のオーダーが正しくないですねえ。テレビで観るCMとWebで観るCMと、メディアによって認知のされ方が違うということが理解されてないんです。ちょっとしたチューニングであってもWeb用に最適化すべきなんですけど。おそらくそのTVCMは別の総合系エージェンシーが作ったのでしょうが、そのまま投げっぱなしなんでしょうね。

僕は内容に応じてトップ画面をいじるなどWeb用に調整した上で運用に渡しますが、マス系でそういうCDはまだあまりいませんから。クリエイティブがTVCMそのままなら、まずターゲティングをがんばってやるのは当然として、KPIをどう考えるかはその内容と出すメディアによるでしょう。完了率やリアクション率に限らず、サムネイルや冒頭の一瞬で認知されるのならインプレッションでもいいと思いますし。

ところで今回はデジタル系の方々への回答なので、専門用語はそのまま使ってます。言葉の意味は僕の新著に書かれていますので、知りたい方はご参照ください。

Q:7年目の営業です。新規顧客の開拓や、既存顧客のプロモーションの最適化が業務です。商材売りが多く、これまであまりプランニングを主としてやってこなかったのですが、今後取り組み、レベルアップしたいと考えています。広告のプランニングをする上での考え方やPDCAの回し方などを身につけるためのアドバイスが何かあれば、お願いします。

 

小霜:僕はとにかくターゲティングファーストです。ターゲットが顕在化しているならWeb、潜在層をあぶり出すならマス、を基本として考えます。メディアプランニングとはターゲティング、ターゲティング、ターゲティングだと思ってます(あえてターゲティングしないという判断も含めて)。

そこに載せる表現はどうあるべきかからクリエイティブを企画します。PDCAは短期と長期があると思ってますが、Webのメディア運用をすれば、それはすなわち短期PDCAですよね。データからどういう属性の人が反応したのかといったスタディを次のストラテジー、クリエイティブ、メディアプランニングに活かすのが長期PDCAです。これらを「PDCA」と一括りにしてしまうと混乱します。このあたりは新著の第1章が参考になると思います。

ターゲティング、ターゲティング、ターゲティング!一般にバズる、ではなくターゲットに刺さる、という考え方で作ることで、Web動画を「WebCM」にしよう、というのが本書の大きなメッセージですよね。1章はVAIOの事例を中心にメディアプランニングとクリエイティブのお話を紹介しています。

次ページ 「さて、お次の方、まいりましょう。」へ続く

さて、お次の方、まいりましょう。おっと、強気の質問が来ましたね。

Q:マス広告ってもうなくなるんじゃないですか?

 

小霜:デジタル系エージェンシーには「Web万能論」の人多いですよね。やはり企業として若いし、売上げも伸びてるからそういう印象を持ってしまうんでしょう。でも少なくとも現時点では間違っていると断言できます。

G社(あの会社です、あの)が大手広告主に直接アプローチしてデジタルシフトを促していたりして、広告主は「そんなに効率いいならやってみようか」モードに入っていますが、「全然成果出ないじゃないか」と幻滅するところも出てきてます。Webだけだとまだ限界があるんですよ。来年あたりはマスへの揺れ戻しが起きそうな気がします。だから僕はマス「or」Web発想じゃなくて、マス「and」Webの統合発想じゃないとうまくいかないよと唱えているんです。

Q:デジタル系エージェンシーがマス領域に進出するのは、一線を越えることになりますか?

 

小霜:総合系もデジタル領域を略奪しようとしてますから、まあそのあたりはお互い様かと。ただ思うに、デジタル系エージェンシーの最大の弱点は総合系の出身者が少ないことでしょう。

マス広告は宣伝部・マーケ部との間合いというか、信頼関係の作り方が重要なのですが、デジタル系の人たちはそこが感覚的にピンと来ないんですよね。広告主は1年という単位で活動するので総合系はそこに合わせて動きますが、デジタル系は短期で収益を見ますからそこもうまくシンクロできなかったり。

今、新鮮なアイデアを期待して総合系のコンペにデジタル系を呼ぶケースが時々ありますが、デジタル系が勝ったという話を自分は聞きません。マス領域をやるなら「数値」だけでなく「人」を読むスキルが必須と知っておいてください。

Q:AIがだんだん運用に導入され始めていますが、自分の仕事がなくなるのではと不安です。

 

小霜:そんなに不安になることはないのでは。歴史的に見ると機械化が進むと就業率は下がることなく上がるんです。それは機械化に隣接した仕事が新たに生まれるからと考えられています。

本にも書きましたが、効果と成果は違います。AIが自動的にメディア出稿のアロケーションをし始めてKPIを最大化したとしても、それは商品が売れたとか、資料請求が来たとかの成果に直ちに結びつくわけではありません。AIが出す効果をどう成果につなげるかという職種が生まれるんじゃないかと僕は予測していて、そこまで行って始めて本当のデジタル広告の始まりだと思うのです。

デジタル系も、総合系も、お互いに一線を越えようとしていると。くれぐれも、人生の大事な一線は踏み越えないようにご注意ください。

AIの質問は、「働き方」のお話ですね。「新たな職業を生み出すことも(AIにできない)人間の仕事の1つ」と話していた方がいましたが、AIを使ってどう人間の仕事の成果を最大化するかを考えていかないといけないのだなと思いました。

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小霜和也(小霜オフィス/no problem LLC. 代表)
小霜和也(小霜オフィス/no problem LLC. 代表)

Creative Director/ Copywriter/ Creative Consultant
1962年兵庫県西宮市生まれ。1986 年東京大学法学部卒業。
同年博報堂入社、コピーライター配属。1998 年退社。
2017年現在、株式会社小霜オフィス no problem LLC. 代表。7月に最新著書『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。』(宣伝会議刊)を発売。他、著書に『ここらで広告コピーの本当の話をします。』(宣伝会議刊)

小霜和也(小霜オフィス/no problem LLC. 代表)

Creative Director/ Copywriter/ Creative Consultant
1962年兵庫県西宮市生まれ。1986 年東京大学法学部卒業。
同年博報堂入社、コピーライター配属。1998 年退社。
2017年現在、株式会社小霜オフィス no problem LLC. 代表。7月に最新著書『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。』(宣伝会議刊)を発売。他、著書に『ここらで広告コピーの本当の話をします。』(宣伝会議刊)

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