日本人の感性を武器に世界に出る
各務:私も彼らの話を聞いているうちに、熱い思いが伝わってきて、自分もその壮大な夢の一部になりたいと思いました。
「GO ON」のコンセプトは、細尾さんが当時取り組んでいた、西陣織を素材として海外に輸出するという手法を明文化したものです。つまり伝統工芸品を物としてではなく、技術・素材・物語に分解して、他の産業の中に忍び込ませるということです。
このコンセプトから事業計画をつくり、資金調達して商品を開発し、海外展開するということを続けてきています。最初は、その方法が分かりませんでしたので、岡崎さんに協力していただきました。当時、岡崎さんに「ルールを変えなければダメだ」と言っていただいたことが印象として残っています。
岡崎:そのときは、日本人の豊かな感性で生み出したものを世界のプラットフォームに入れてしまえば、海外の企業やクリエーターはそこから二度と抜けられなくなるという話をしたんだと思います。
各務:そうです。それを僕らは「忍び込む」と表現して、「忍び込むクリエーティブユニット、GO ON」を掲げました。
岡崎:参考にしたのは、クリスタルガラスで有名なスワロフスキーです。彼らはアルプスの水の力でガラスを削る機械屋さんに始まって、カットデザイン、液を塗布して虹色に輝かせたりする技術を開発し、特許化してブランドとして進化しながら、いまに至っています。完成品はスワロフスキーとして、ハリウッド映画やアカデミー賞の装飾など芸術や文化の世界にも浸透しています。
実はスワロフスキーの商売の源泉になっているのは、ガラス細工ではありません。平らな石の裏に塗ると絶対に離れない糊(のり)なのです。その糊という技術があるから、スワロフスキーは世界中で使われるようになった。
それを京都で実行しようとしているのが、西陣織から着物や帯という枠を取り払った細尾くんです。視点を少し変えることで、ルールを大きく変えることができると思います。
細尾:最初に岡崎さんにお会いしたときは、話すことの1%ぐらいしか理解できませんでした(笑)。ですが、言われたことはずっと引っ掛かっていました。
岡崎さんは、「日本のような四季がある国は少ないし、京都はそれをめでる文化を1000年以上も育んでいる。そこが一番の強みになる」と言った。
それを聞いたときは、本当にそうだなと思いました。例えば、一口に「白」といっても、日本にはいろんな白があって、それぞれに呼び名があります。それを季節の移り変わりなどに応じて使い分けて、着物の柄に落とし込んだり、和歌に詠んだりします。
日本人はそういう敏感なDNAを持っていて、常にそれを感じる訓練をしている。そこが一番の武器になると、岡崎さんに教えてもらいました。
各務:つい先日、細尾さんがオープンされた宿泊施設「HOSOO RESIDENCE(ホソオ・レジデンス)」は、四季の感性という京都独特の価値観を体現されていて、すごく感動しました。
細尾:約100年前の京町家をリノベーションしてホテルにしています。飛鳥時代の版築という伝統的な左官の技術を駆使し、庭には白砂利を敷き詰めて、そこからの反射光を室内に取り込んでいます。室内が薄暗いため、明るさに対する感覚が敏感になるのです。
これは先ほどの色の話と同じで、かつて日本人は、月明かりのような1ルクスにも満たない世界でも光の変化を感じていました。その世界観を感じてもらえるような宿になっています。
各務:「ホソオ・レジデンス」よりも前につくられたのが、西陣織の工房に併設したショールームでしたよね。今は海外からも、たくさんのお客さまがいらっしゃっています。
細尾:そこも京都の町家を改装した場所で、一番古い部屋は200年前のものです。
今、世界中のラグジュアリー層がプライベートジェットで京都を訪れています。彼らは、伝統工芸の持つ世界観に関心を持っています。そこで工房をショールーム化したのです。今では観光の流れも変わって、クラフトツアーが増えているようです。
各務:細尾さんが取り組んでいることを横展開しようと、普段は入っていけないような“ものづくりの現場”を案内する、コンシュルジュサービスのプロジェクト「Beyond KYOTO」も立ち上げました。
後編に続く
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