岸勇希×箕輪厚介 1万字対談『己を、奮い立たせる言葉。』ヒットの舞台裏

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2017年10月に『己を、奮い立たせる言葉。』を上梓した岸勇希氏と、同書の編集担当である幻冬舎の箕輪厚介氏。名だたる出版社からのオファーを断ってきた岸氏は、なぜ箕輪氏の依頼を受け、どのような経緯で出版に至ったのか。その舞台裏や2人が考える広告界・出版界の未来について語り尽くした対談を『編集会議』特別編として1万字でお届けする。

7回断り2回無視しても書いた理由

—まずは、岸さんにとって9年ぶりとなる著書『己を、奮い立たせる言葉。』を出版された経緯から伺いたいのですが、そもそもお二人の出会いから教えてもらえますか。

箕輪厚介:もともとのきっかけは「NewsPicks」の記事で岸さんを知って、「この人の言葉、すげえ!」と思ったことですね。それと、その記事の写真で見た岸さんの顔と体です。写真からでも半端ないくらいにオーラが伝わってきて、僕が大好きな猛獣だと思ったんです。

すぐに手紙を書いて、本をつくらせてほしいとお願いしました。それが2年前なんですが、当時はNewsPicks Bookなんてまだなかったし、僕はニューズピックスの人たちとも知り合いになる前でしたね。

—聞くところによると、岸さんはそれまで数々の出版オファーを断られていたんですよね。

岸勇希:そもそも断われるような立場でもないんですけどね……断ってましたね。9年前、『コミュニケーションをデザインするための本』を書いたのは、自分にとって体系化することが不可欠だったからです。書きたかったし、書く必要があった。

一方で最近ご依頼いただくほとんどは、プレゼンとか企画書の本で、ビジネス系の大手出版社さんからたくさんお話は頂戴するんですけど、僕にとって少なくとも今はあまり書くモチベーションがないというか。だから断ったというよりは、書かせていただく立場になかったということですね。

本対談は、『編集会議』『己を、奮い立たせる言葉。』のコラボレーショにより実現した。

じゃあなんで今回の話は受けたのかと言えば、箕輪さんからこれだけお願いされるなら書いてもいいかなと思ったんです。オファーをいただいた2年前は箕輪さんがまだ今のような売れっ子編集者ではない頃だったんですが、自分がつくってきた本を見せてきて、幻冬舎の見城徹さんとか堀江貴文さんとか「こういう暑苦しい人たちが他にもういないんですよ」と言われまして。

箕輪:ああ、それは言ったかも(笑)。僕は各業界のトップオブトップで、なおかつ異端の人を探し続けているんだけど、もう岸さんしかいないんですよって。

岸:それを言われたときは、馬鹿にされているのかなって思ったんだけど(笑)。もう一つは、箕輪さんは最初から最後までこれっぽっちも僕のメリットに興味がない人だったんですよ。「この本を書くとこんなメリットがありますよ」とか「この本を書くとこれだけ仕事がしやすくなりますよ」とかは一切ない。ただひたすら、この本を世に出さなければならない理由を語ってくるわけです。まあ、そんなスタイルも面白いなと思ったんですね。

それでも最初からOKしたのではなく、この本の「おわりに」にも書きましたが、7回断って、2回無視しても、10回情熱をもって依頼をしてくれたので、書くことにしたんです。そもそも僕は自己啓発系の本を心から馬鹿にしているので、当初はこういう本は書きたくないと言っていたんです。格言集にしても、そういうのは引退したときや死んだ後に誰かがまとめてくれるものじゃないですか。

でも箕輪さんは、「そうじゃないんです」と言う。偉人たちが残した言葉ってそれはそれで宝なんだけど、スティーブ・ジョブズとかでさえ、彼が生きていた時代と今の時代はもう違う。「死んだ人の言葉なんて、俺には届かないんですよ」と。なかなかいないからね、スティーブ・ジョブズの言葉に対してそんなことを言っちゃう編集者は(笑)。「生きている人間がもがきながら生むプロセスとしての言葉を本にするというのは、ありそうでないじゃないですか」と言われて、たしかにそのコンセプトは面白いなと思ったんです。

そして最後に決め手になったことがあって、「こんな暑苦しい本を今の時代に書いたら、絶対叩かれるよ」って僕が言ったんですね。Amazonのレビューでも星1がたくさんついて、ネガなコメントもたくさんつくかもしれない。それで「Amazonで星1がつくの、嫌なんだけど」と言ったら、そのときの箕輪さんの回答が僕の中で決定打になった。

「そうなんですよ、岸さん。この本、1と5しか付きません。そういう本なんです、僕がつくりたいのは」って。いやあ、この人、マジで俺のことは何も考えてないなと(笑)。でも、もうここまで世の中に投げかけるものにしか興味がないのって、出版社としてはある意味で正しいんだろうなと思ったんです。そういう経緯で「じゃあ書きますか」となりました。

岸勇希氏
刻キタル 代表。1977年生、名古屋市生まれ。早稲田大学大学院国際情報通信研究科修了。2004年に電通入社。2008年『コミュニケーションをデザインするための本』を上梓し、広告界にコミュニケーション・デザインという概念を提唱。以後、同領域の第一人者として業界を牽引。2014年に電通史上最年少でクリエーティブの最高職位エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターに就任。2017年4月に独立。広告に限らず、商品開発やビジネス・デザイン、テレビ番組の企画や制作、楽曲の作詞、空間デザインに至るまで、幅広くクリエーティブ活動に携わる。

ちょっと箕輪さんを褒めちぎる話になってしまったので、もう一つだけ言っておくと、この本、左ページの言葉は8年かけて僕がTwitterで書いてきた言葉なんですけど、右ページの解説は書き下ろしです。その解説をこの人、何日で書けって言ったと思います? 3週間ですよ。おかしいでしょ。「まあ、そんなもんですよ、本って」って箕輪さんは言うんだけど、絶対にそんなもんじゃないでしょ(笑)。

箕輪:「NewsPicksのインタビュー原稿の戻しより早ぇーよ!本のほうがインタビュー原稿の確認より早いっておかしくない?」って岸さんが言ったのは面白かったですね(笑)。

岸:本当に衝撃でしたよ。最初は冗談だと思ったし。「俺、本業もあるんだけど」と言っても、「いや、それは知ってます」と言われて(笑)。「締切は3週間後です」は、この本のどの言葉よりも印象に残っている言葉かもしれないですね(笑)。

—2年前から動き出して、原稿執筆が3週間というのは、2年間の空白期間に何があったんでしょうか(笑)。

箕輪:僕はよくありがちなんですけど、最初にワーって取材して、そのまま放置というか、寝かせてしまうんです。ときが来るまで。完全にモラルとしてはおかしいですが、それは大事だなとも思っていて。著者の人からしたら、取材したのに全然連絡こないなと思っていたら、1年とか2年後にいきなり連絡がきて、「来月に出すことにしました」とか言われたら「ふざけんな!」と思うと思うんですけど、僕の中では僕のタイミングがあるというか(笑)。

この本にしても、電通のいわゆる働き方の問題が話題になる前に出ていたら、時代遅れの本になっていたと思うんですよね。直後に出すのも少し意図と違うふうに捉えられてしまう。だからいろいろ落ち着いて、「ぶっちゃけ働き方改革って、一周回ってみてどうなの?」と世の中がうっすら感じ始めている今こそ、僕は出しどきだと思って。

岸:狙ってたんだ(笑)。

箕輪:狙ってたんです(笑)。スケジュールについては、岸さんは絶対に妥協せずにやり切ってくれると信頼していましたからね。

『己を、奮い立たせる言葉。』の裏側

箕輪厚介 氏
幻冬舎 編集者。1985年東京都生まれ。2010年に双葉社に入社。女性ファッション誌の広告営業としてイベントや商品開発などを手掛け、雑誌『ネオヒルズジャパン』をプロデュース。2014年より編集部に異動し『たった一人の熱狂』見城徹、『逆転の仕事論』堀江貴文などを担当。2015年幻冬舎に入社した後、『空気を読んではいけない』青木真也、『多動力』堀江貴文、『人生の勝算』前田裕二などの話題作を作りながら、2017年には出版とウェブメディアとイベントをミックスした「NewsPicksアカデミア」を立ち上げる。またオンラインサロン「箕輪編集室」を主宰し、従来の編集者の枠を越え、無人島や美容室、ランジェリーショップなどを幅広くプロデュースしている。

箕輪:でも岸さんが3週間で書いてくれた右ページにある解説は、濃度がすごく高いと思うんですよ。字数が少ない本って、ただ単に内容がないから字数が少ないだけというのが多いんですが、岸さんの解説は本来この3倍以上の字数で書くべきものを、これ以上削れないというくらいに無駄がない。そして研ぎ澄まされている。

この本って、大して思考していなかったり、本気で葛藤していない人には普通の言葉ばかりに感じるかもしれないと思います。でも本気で思考し、悩み、苦しみながら生きている人には、今の自分を支えてくれたり鼓舞してくれる言葉が見つかるはず。「ああ、この言葉、今の自分に刺さるな」というのが必ずある。その意味で最もわかりやすい反響が、必死にあがいている人ほど「この本、めちゃくちゃ良い!」って言うんですよね。

「残念ですが、頑張ったとか、どうでもいい。」なんて、最高じゃないですか。例えば徹夜をするのは仕事効率が悪いがゆえの代償だし、あまり意味がないと思うんですけど、それを頭でわかっていたとしても徹夜明けとかってやっぱり「自分はがんばった!」と自己満足しがちになる。あくまで大事なのは結果なのに。でもそのとき、この本の言葉を客観的に読むことで、自分の考えを正常に戻せます。僕もこの言葉は常に自分に言い聞かせています。

エモーショナルな本は、読者を着火させやすいんだけど、ただ単に頑張ればいいわけではないことをこの本はちゃんと押さえている。僕自身、岸さんの言葉に救われてきたし、この本をつくれたのは、自分のために本当によかったなと思います(笑)。

岸:僕らの仕事って、広告はマスコミュニケーションとか言われますが、つくり手としてはマスに対してではなく、常に目の前にいる誰かに向けてつくっているんです。そういう意味では、この本はある意味で箕輪さんに向けてという気持ちが僕の中にあったのかもしれない。

本に収録したのは200くらいの言葉から箕輪さんと一緒に選んだんですけど、箕輪さんが「これ入れましょうよ」という言葉が、僕からすると「それそんなにいい言葉か?」みたいなのばっかりで。「この言葉、今の僕に刺さるんです」という理由なんだけど(笑)、今回は箕輪さんにとことん騙されようと思っていたので、まあいいかなと。

ただ「はじめに」と「おわりに」で、文句は全部言わせてもらいました。こういう本を書きたくなかったというのは絶対に言いたかったし、箕輪さんが鬱陶しかったっていう話もね(笑)。

—本をつくる上で印象深かったことはありましたか。

箕輪:本来は編集者がやるべきことなんですけど、表紙から最後のページまでのストーリーづくりを、岸さんがすごいレベルでやっちゃって、やっぱりクリエーティブ・ディレクターってすごいなと思いましたね。それぞれの言葉をプリントアウトして並べて、この章にはこの言葉を入れようとか、章ごとのタイトルづけもいちいちすごかった。

「初心」から始まって、その後に「挫折のあとに」「貪欲に考える」「企画する。伝える」「解決の糸口」「岸組の流儀」「すべてはチームの熱量」ときて、最後に「プロとして生きる」がくる。この流れを岸さんは即興で考えてしまうんですが、編集者としてめちゃくちゃ勉強になりました。

岸:僕としては、生きている人間が自分の言葉をセレクトすることに意義があるんだと箕輪さんに言われていたので、死んだ後でまとめられるものとは違う言葉をセレクトしたいという思いがありました。

スティーブ・ジョブズにしても、すばらしい言葉を残した人たちって、結局亡くなった後に第三者によって言葉がセレクトされるじゃないですか。そうではなく、何が正しいかわからないレベルで生きている人間が、第三者が読むものと仮定して言葉を紡いでいくというアプローチは、おそらく今後もうできないと思ったので、その作業はすごく集中してやりました。

箕輪:面白いのが、目次です。「おわりに」のあとに、第一章の「初心」という言葉がまた書かれているんです。「これ誤植ですか?」という問い合わせが何件かあったけど、「『初心』に戻る」という意味です。要は、プロとして生きるという境地に到達しても、そこからまた初心が大事なんだということを伝えている。

それと最後のページで「努力は夢中に勝てない」ってポツンと書いてあるんです。その次のページに「努力は夢中に勝てない」と同じ言葉があり、矢印が「夢中」から「努力」に向かっている。つまり、努力で頑張っている人は、夢中で目をキラキラさせて頑張っている人には勝てない、夢中になっている人こそが勝つんだと、本の中でずっと語ってきた努力の重要性を全否定するんです。でも、その次のページでみんな夢中になっている猛者ばかりの戦いになると、やはり努力こそが勝敗を分けると伝えている。

たぶん気づいてない人がほとんどだけど、表紙の帯に、本書の言葉を羅列しているんですが、その中に、本の中には入れてない「ねるね」というのがあるんです。これも同じ文脈の遊びですね。こういった細やかな外しだったり、クリエーティブってこういうことだよねというのも学びましたね、岸さんと仕事して。

岸氏が9年ぶりに上梓した『己を、奮い立たせる言葉。』

そして本が出た後の届け方のデザインもすごいです。この本が世の中に働き方を問うとしたらならば、この本を生理的に最も受け付けなさそうな大学生や社会人3年目くらいまでの人と話したいと。強烈なアウェイの中で、何が正解かではなく、働き方を一緒に話し尽くしたいと岸さんが言うんです。一冊の本をつくるときに、世の中にどんな価値を生むかまで設計するのは、まさに岸さんが言うコミュニケーションをデザインするということなんだと思いましたね。

岸:ある程度仕事をしてきた人たちは、好きか嫌いかは別にして、この本の言葉の意味を少なくとも半分くらいは理解できると思うんです。でも大学生や社会人3年目くらいまでの人だと、どういうふうに受け取ってくれるのかが見えないじゃないですか。

僕自身は、これを読んで誰かを諭したいとは1ミリも思っていません。ただ若い人がこの本の言葉をどう捉えるのかに興味がある。それは僕が恐れたAmazonで星1をつける人たちにも通ずることで、この本を条件反射的に苦手だと思う人たちとも、積極的にコミュニケーションをとりたいと思ったんですよ。この本をきっかけにして、いい意味で働き方に関する議論が生まれればいいなと思っています。

次ページ 「2人が考える出版界・広告界の未来と求められる人材」へ続く

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