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スマート家電の進化が“稼げるフェーズ”に入った。さて、日本企業は? 「CES2018」現地レポート③

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マーケターは何をするべきか?

さて、3回にわたった「CES2018レポート」も、今回が最終回。テクノロジーや展示物に目新しいモノはなかったが、第1回目に紹介したトヨタ 自動車「e・Palette」の発表、さらにはSamsungやIntelの講演からは、テクノロジーとエコシステムによる新しいビジネスやライフスタイルが示唆されたように思う。

最後に、「CES2018」を通じて、筆者が考える「これからのマーケターに必要なこと」をまとめてみた。

1.デジタルエコシステムを考慮した体験

欧米や韓国、中国の先進的な企業やスタートアップに触れて感じたこと。それは、企業の大小に関わらず、デジタル(インターネット)のエコシステムを理解し、製品・サービスに取り込んでいることだ。そして、事業全体のエコシステムの中核として据えている。

デジタルのエコシステムとは何か? 筆者は3つのポイントがあると考えている。ひとつは、クラウドベースでサービスを構築すること。ふたつ目は、APIの提供、もしくは取り込むことを前提とした設計だ。そして最後の3つ目が、前者2つをオープンな環境でシームレスに連携させることだ。

多くの家電メーカーは、「Amazon Alexa」にも「Google Assistant」にも、難なく連携している。Samsungは「Smart Things」を通じて、競合を含めたすべてのIoTの“モノ”と連携する姿を描いている。

生活者は、既に享受しているデジタル上での体験と、あらゆる製品やサービス体験がシームレスに繋がることを潜在的に望んでいる。デジタルエコシステムの構築による新たな体験の提供は、競争優位を生み出し、さらにエコシステムを広げて、時間が立てば立つほど、他社と圧倒的な差を生み出していく。

日本企業は、このデジタルエコシステム、そしてネットビジネスカルチャーへの理解を深める必要があるだろう。

2.優れたUIとデザイン

エコシステムだけでなく、日本企業に不足していると感じたことがある。それは、デジタル上のオンスクリーンでのUIとデザインだ。

IoTや5G、AIなどテクノロジーを製品やビジネスに採用することは、Webやアプリもしくは製品に付随するディスプレイ上で、顧客体験が占める割合の高まりを意味する。どんなにプロダクトや提供するサービス価値が優れていても、オンスクリーンでのUIやデザインが伴っていないと、全体の顧客体験が悪くなる。

それは、製品やサービスそのものだけでなく、貴社のブランド体験そのものにも影響を与える。マーケターは、テクノロジーの採用に伴う、自社製品やサービスのオンスクリーンでの顧客接点に責任をもち、優れた体験を提供する機能を有する必要があるだろう。

3.テクノロジーの価値を理解したクリエーティブ

ここまで読んで、ご理解いただけただろうか。多くの企業にとってテクノロジーの採用が、経営に与える影響は計り知れない。今後も、製品やサービスにテクノロジーが多く取り入れられることは間違いない。それは、単なる技術職の採用ではなく、デジタルエコシステムの中に企業が存在することを意味するだろう。しかし、生活者にとって、それは非常に複雑で理解しにくいことだ。

これからのマーケターは、テクノロジーを理解するだけでなく、それらを享受する潜在顧客を見極めて、機能的価値を適切に発信する必要が求められている。もちろん、生活者に新しいライフスタイルを予感させるような、情緒的な価値を乗せてだ。

4.テクノロジストとの連携

テクノロジーは製品やサービスの提供価値を変えるだけでなく、顧客体験自体に大きな影響を与える。古くはインターネットの台頭、スマートフォンの浸透やコミュニケーションにおけるSNSの位置付けを考えただけでも想像できるだろう。また、今さらマーケティングやアドテクノロジーの重要性を伝える必要性もないだろう。

筆者がCESで感じたことは、IoTの急速な浸透、AIやロボティクスなどの新興技術は、ビジネスやマーケティング活動全体に与える影響が、さらに大きくなるということだ。しかも、適切に対応できる企業とそうでない企業の競争優位の差は広がるばかりだろう。

筆者は、日本のマーケターが新興技術に対応するためには、マーケティング組織であっても社内にテクノロジストを置くか、適切なパートナーを見つけるしかないと考える。そもそも、グローバルの採用市場では、随分前からエンジニアやテクノロジストの奪い合いが続いている。いち早く、多くの日本企業とマーケターが製品開発の現場だけでなく、ビジネスやコミュニケーションに対して本質的にテクノロジーを採用するための体制と投資の必要性に気付いてほしいと改めて感じた。

さて、まずは来年の「CES2019」へ行ってみては、いかがだろうか?

森直樹(もりなおき)

電通 CDC部長 事業開発ディレクター、クリエーティブ・ディレクター
光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。デジタル&テクノロジーを活用したソリューション開発に従事し、AR(拡張現実)アプリ「SCAN IT!」、イベントとデジタルを融合する「Social_Box」、「SOCIAL_MARATHON」をプロデュース。さらにデジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。最近は、経営や事業戦略に基づくUI・UXデザインや、ネット事業モデルによる事業革新の支援プロジェクトに取り組む。日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の幹事(モバイル委員長)。著書に『モバイルシフト』(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia (PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。