クリエイターは「他人の物語」をつくる力を磨き続けるべき
前田:ゴジラという他者の物語をぶつけられているんだけど、気付いたら自分自身もそこに投影して、ドキドキしちゃってるということでエンゲージメントを担保してると思うし、ドラゴンクエストもそうだと思うんです。あんなに壮大なストーリーなのに、主人公は「はい」か「いいえ」しか言わない。
というのは、ユーザーが気づいたら完全に主人公に投影してしまって、自分の物語を消費している、という状況をつくるためにあのようにしていると思うんです。基本、誰かがつくった他人の物語だけど、自分もそこに介在していると錯覚させることで熱狂やエンゲージメントを担保するやり方が間にあると思っていて、そのさらに先にある完全に自分の物語です、というパターンは、たとえばFBやインスタに投稿をあげて、それに対して「いいね」してもらったり、SHOWROOMで演者になって自分自身の発信を誰かが承認してくれたり。
これは完全に自分の物語を消費しているということだと思うんですけど。そういうグラデーションがある中で、どんどん自分の物語を消費するという時間の使い方のほうが快楽の度合いが大きいことに気づきはじめて、テレビを見ているよりも、インスタグラムの投稿に「いいね」されたほうが気持ちいいとなっていくとしたら、みんなが発信側に回っていくわけじゃないですか。クリエイターも聴衆もなく。
権八:誰もがそっちの世界にね。
前田:というときに、見せつけるんですよ。他者の物語をずっとやっていたクリエイターが、全員が演者になった時代に「これが本物のクリエイティブだ」と見せつける。そのとき、一度演者を体験したことのある聴衆は、いかに自分との距離がかけ離れているかに気づくと思うんです。すごいな、このクリエイティブはと。
一度、演者をやってみたからわかるけど、こんなものつくれないと思って、その芸術性に感動する時代が来ると表います。今は自分の物語を感じたほうが楽しいよね、という波が広まっていくフェーズだと思います。そのとき、圧倒的なクオリティの他人の物語をそういう人達にぶつけると、またヒットが生まれやすくなると思ってるので。
他人の物語と自分の物語のバランス、世の中どっちに振れてるんだろうなというバランス感覚のある人達がヒットを生みやすくなるだろうなと。僕もその感覚を研ぎ澄ますように日々努力しています。今は自分側ですね。
中村:他人の物語の究極で言うと、映画館だと思うんです。完全に自分の物語、FB開くというところと完全に乖離して、インタラクティブ性もない、俺の物語、作品を見てくださいという2時間。昔より映画熱が高まってきてると思うんです。それは僕もずっと広告のインタラクティブコンテンツをやっていたから、自分の物語派なんですけど、それが増えれば増えるほど他人の物語、『シン・ゴジラ』の庵野さんなどに対して、逆転の飢餓感が出てくるなと、確かに思います。
前田:「逆転の飢餓感」、確かにおっしゃる通りで、世の中のコンテンツがみんなクリエイター側にまわったら、素人コンテンツばっかりになっているなかで、本当にクオリティが高いコンテンツってあると思うんですよね。そういうコンテンツを突きつけられると、驚愕するというか、震えるというか。
こんなコンテンツが世の中に存在するんだ、ということに気づいて、より価値を増してくる時代が来るだろうなと思っていて。だから、他人の物語側の人達は変にこの時代に迎合しすぎずに、他人の物語で超クオリティコンテンツをつくれるという能力をむしろもっと研ぎ澄まして磨いていく生存戦略をとるべきなんだろうなと思います。
<END>
構成・文:廣田喜昭
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