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ハリルホジッチ監督の解任から、プロジェクトマネージャーの採用、任命の教訓を得る

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エージェントを挟まなかったメリットとデメリット

以上、プ譜を書いたことによって浮き出てきた問題点について述べました。ここからは、本事例から得られるプロジェクトマネージャーの採用・任命の教訓についてまとめていきます。

まずはあらためて、アギーレ監督解任からハリルホジッチ監督就任までの、「日本代表監督招聘プロジェクト」の特徴を書きだしましょう。

1.進行中のプロジェクトで、前任マネージャーが離脱(転職、異動、降格など)した場合の後任探し
2.選択肢が少ない時期、状況
3.時間の余裕がなかった
4.内部人事で昇格させる可能性
5.予選と本選で異なるサッカーを行う必要性
6.エージェントは雇わず、直接交渉

この特徴を「プロジェクトマネージャーの採用、任命」というプロジェクトに置き換えてみると、以下のような教訓を得ることができます。

1の後任探しは途中離脱ではなくとも、ゼロから始まるプロジェクトであっても良いですが、ここで得られる教訓は、途中からでも初めからでも、プロジェクトの勝利条件の設定、更新が非常に重要であるということです。
「W杯で8強入りするチームをつくることができる」監督を連れてくるのか、はたまた「W杯に出場させるチームをつくることができる」監督を連れてくるのかでは、取り得る中間目的、施策が変わり、当然ながらその選考基準も、納期も予算もガラリと変わります。勝利条件の内容によって、2と3の選択肢と時間の余裕の少なさは、場合によっては問題にならなくなる可能性があります。これは「もしも・・・」の話で現実味はありませんが、この監督招聘プロジェクトの勝利条件を2段階に分けて、更新していくということが考えられます。

第1段階の勝利条件は、 「W杯に出場させるチームをつくることができる」監督を連れてくる。第2段階の勝利条件を、 「W杯で8強入りするチームをつくることができる」監督を連れてくるにします。予選突破した監督は本選も戦いたくなるのかも知れませんが、こうした予選と本選で監督を分けるという新しい戦略を創造し得るのは、想定外が多いがゆえに、何かしら状況を打開する革新的な手を打たなければならないプロジェクトならではの産物でもあります。

ビジネスにおけるプロジェクトでは、0→1フェーズを一人目のプロマネに。1→10フェーズを別のプロマネに任せるというケースがあります。人材に乏しい企業の場合は、そのすべてを一人に担わせてしまうことがありますが、上述のようにプロジェクトのフェーズによってマネージャーを変えることを前提に、プロジェクトを進めるという方法もあり得ます。

こうした戦略を描くことができれば、プロジェクトにいきなり外部人材を採用するという手を打たず、内部人材にまずはやらせてみるという手も取り得ます。当時の技術委員長の霜田氏と、前技術委員長の原氏は共に代表監督を務めることのできるS級ライセンスを所持していました。
ここで述べたことは、あくまで実際のビジネスでの教訓を得るため、仮定の話を書きましたが、このようにして異なる事例から構造レベルで教訓を得る(アナロジー力を発揮する)ことがプロジェクトでは重要になります。

今回は日本代表監督の招聘をプロジェクトとして扱いました。プ譜は進行し変化していくプロジェクトを可視化し、長期にわたるプロジェクトであっても、その状況を適切に記述することで力を発揮します。「日本代表がロシアW杯でベスト8入りする」というプロジェクトを興し、そのための勝利条件を、「守備的戦術で最少失点でもいいので勝ち上がる」にするか、「パスをつないで崩して勝つ」とするかで、中間目的や施策はもちろん、使用するリソース(起用する選手)なども変わります。その違い、変遷をシミュレートすることはたいへん興味深く、プロマネにとっても多くの教訓を与えてくれると思いますが、これはまた別の機会に譲りたいと思います。

今はW杯開催2ヵ月前に監督を解任するという大博打に打って出た日本代表の行く末をそっと見守るとしましょう・・・。

※なお、この本コラムは、2015年3月12日「霜田委員長が語ったハリルホジッチ新監督招聘の経緯と期待(ゲキサカ)」の記者会見要旨や、2017年11月8日「ハリルジャパン、強化の最終局面へ 霜田正浩が語るロシアでの“成功の鍵”」のインタビューなどを参考にして記述しています。

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