「宮川選手の質疑応答は完璧。日大広報は権力者の番人」危機管理広報のプロ、アメフット問題を解説

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日本大学アメフット部の選手の悪質なタックルで、関西学院大学の選手が負傷した問題。5月22日に日大の選手が、翌23日には同部前監督とコーチが緊急記者会見を開催している。一連の会見と広報対応について、20年以上にわたり危機管理広報のコンサルティングに携わってきた専門家・山口明雄氏(アクセスイースト代表)が解説する。

会見から一夜明けた5月24日、アメフット部練習場のある日本大学桜上水キャンパス前で

日大広報に聞きたい「正気の発表ですか?」

日本大学アメリカンフットボール部の宮川泰介選手は5月22日、実名で謝罪会見を行った。

翌23日の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ系)では、読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏が「日本大学の危機管理はどうなってるんだ?誰が責任者でやってるんだ?まるで無政府状態だ」と指摘していたが、危機管理広報のコンサルティングを仕事とする私は、これを聞いて胸のつかえが少し下りたように思った。

しかし、会見を受けて同日に日本大学広報部が出した公式コメントがひどかった。
その要旨はこうだ。

「コーチから『1プレー目で(相手の)QBをつぶせ』という言葉があったということは事実です。ただ、これは本学フットボール部においてゲーム前によく使う言葉で、『最初のプレーから思い切って当たれ』という意味です。誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います」。

「本人と監督は話す機会がほとんどない状況でありました。宮川選手と監督・コーチとのコミュニケーションが不足していたことにつきまして、反省いたしております」。

これを見て私は、「日大の現状は“無政府状態”というような生やさしいものではない。広報を含む大学の管理者たちは日大ナンバー2の権力者の番人になり下がっているのではないか」と思ったのである。

問題となっている宮川選手の反則タックルが起きたのは、5月6日に行われた関西学院大学と日本大学によるアメフットの定期戦。この日から22日の宮川選手の記者会見までは、16日の間があった。

記者会見では宮川選手の真実味と説得力がある言葉が吐露されたが、それ以前にも数多くの報道で、日大OBや現役選手が「監督やコーチから『相手選手を本気でつぶせ』と受け取れる指示は何度もあった」との、具体的な証言が出ていた。また、コーチが宮川選手へ異常な指示をしているように見えるビデオも、何百回も放送されていた。

関西学院大学アメフット部の鳥内秀晃監督は、5月17日に関大学内で開催された記者会見でこう話した。
「指示と選手の受け取り方とで“乖離”が起きたことが問題の本質」と言うなら、「なぜあのプレーが起きた時にベンチに戻して、『そんなプレーをしろと言ったのではない』と説明できなかったのか?」。誰もが納得する言葉だった。

日大広報部に聞いてみたい。「この期に及んで正気の発表ですか?」と。
報道でも、「学生を『鉄砲玉』にするなんて教育者としてあるまじき態度」「日大にはガバナンスが完全に欠如している」など、様々な指摘があった。

約20年間、4500人以上にメディアトレーニングを指導してきた立場から言えば、それらも含めて最大の原因は「危機管理の欠如」だ。大学の思考や行動が、無条件に一人の権力者の言いなりになってしまっているのである。社会に対する発表や説明、すなわち広報活動が、身内の権力者に対するすり寄り、おべっか、忖度、太鼓持ちのレベルどころか、権力者の番人と化しているように見える。

今回のケースに限ったことではない。森友・加計問題などの行政の危機も、東芝や商工中金などの企業の危機も、「権力者の言いなり」が危機管理の失敗の根本原因だと思う。昨今、「権力者」に黙って従うことをよしとする暗雲が、日本列島を覆いつくしているようにさえ感じる。

言い訳の枕詞を連発「信じてもらえないかもしれないが」

5月23日には、選手の会見を受ける形で午後8時から2時間にわたり日本大学の内田前監督と井上奨コーチが都内で緊急記者会見を開いた。

2人は会見で責任を認めながらも「指示を出していない」と意図的にけがをさせていないことを説明。
内田前監督は「クォーターバックをつぶしてこいとの指示は、私は出していない」、井上コーチは「その指示はしたが、ケガをさせろという意味で言ったのではない」「思いっきりやれという指導が宮川選手に重圧を与えて、目の前を見えなくしてしまったのかもしれない」と語った。

これらの発言の本質は、22日の広報部の公式コメントと何ら変わらない。謹慎や辞任の話を除けば。
内田前監督は「宮川くんをあんな気持ちにさせたことは、指導者として申し訳なく反省している。しかし自分には、ルールを逸脱してやってもいいという発想はなかった」と反省の弁を述べ、今後については「フィールドで起こったことは全部自分の責任なので、常務理事の役職を謹慎とし、今後の第三者委員会の調査と判断に進退を任せる」とコメントした。井上コーチは、「自分の人間性の未熟さにより、宮川選手へのアプローチを間違えた。コーチは辞任する」と話した。

2人の会見と前日の宮川選手の会見の両方の印象を比べたら、どちらが事実を話しているのかは誰の目にも明らかだろう。会見で目立った監督の言葉は、「“信じてもらえないかもしれないが”私から反則行為は指示していない」「“これは言い訳になってしまうが”宮川選手の反則行為は見ていない」「“正直、本当に申し訳ないが”やらなければ意味がないと言っていない」など、すべて言い訳に聞こえる枕詞が入っているものだった。

井上コーチのしどろもどろな態度や言葉も、権力者と愛弟子との狭間に置かれた人間の苦悩のすべてを物語っているように見えた。「彼のプレーを中止させなかったのは、後で考えると、ぼくの判断ミスだった」。「ぼくも一字一句覚えているわけではないが、とにかく彼を試合に出してやりたかった」。

コーチの苦しげな表情と震える声は、「試合後の円陣の中で監督が言った」という、宮川選手の記者会見での発言–「宮川なんかはやる気があるのかないのか分からないので、そういうヤツは試合に出さない。辞めていい」「日本代表に行っちゃダメだよと、(今年6月に中国で開催されるアメリカンフットボール大学世界選手権大会の)日本代表を辞退するように言われた」–これらに真実味を与えた。

大企業トップでも、宮川選手のような無欠な返答はできない

宮川選手の記者会見は勇気ある行動と評されている。その通りだと思う。それ以上に、危機管理広報コンサルタントとしてメディアトレーニングも行う私からすると、彼の質疑応答は完璧だった。20歳の大学生が、たとえ事前の練習を十分にしても、ここまで見事な対応ができるものかと驚嘆した。

私の経験では、大企業のトップに何日もかけてトレーニングしても、あそこまで無欠な返答ができる人は数少ない。おそらく、被害者やその家族・関係者、そして国民に自分の犯した罪を深く謝罪し、ただただ正直に事実を話そうとするひたむきな気持ちが、経験豊かな記者のあの手この手の誘導質問や仮定の質問を物ともしなかったのだと思う。

記者の質問
「事件後、監督とコーチに対する印象は変わったか?」

返答「指示があってもぼくがやってしまったことは変わらない。だから監督・コーチに対する感想や意見を言うべきではないと思う」

記者の質問
「周りからおまえが悪いのではないという声があがらなかったか?」

返答「声はあった。しかし、やってしまったという事実がある以上、人のせいにはできない。自分が反省すべきだと思っている」

記者の質問
「監督の指示がご自身のスポーツマンシップを上回ってしまった理由は何か?」

返答「監督・コーチからどんな指示があったにせよ、自分で判断できなかったことは弱さです」

記者の質問
「もしコーチの指示を拒否して反則をやらなかったら、いま、どうなっていたと思うか?」

返答「(考えて)どうなっていたか、分からない。自分としては、今後試合に出られないという状況になりたくなかった」

記者の質問
「後輩のことも考えると、酷な指導をどう思うか?」

返答「指導について、ぼくは何か言える立場にない。同じことが起きないことを願う」

圧巻は、最後の方の質疑応答だった。

「あなたのように今日の会見に臨む強い意志を持つ人として、断れない状況に追い込まれたとき、そんなことが繰り返されないために、世に伝えたい言葉があると思うのですが、いかがですか?」という記者の質問に対し、「(しっかり考えて)自分の意思に反することは、フットボールにかかわらず、やるべきではないと思います」と答えた。

前監督とコーチ、そして日大の広報や関係者は、宮川選手の記者会見と自らの会見を見比べて、真実の行方を国民がどう判断するか、いま一度考え直すべきではないだろうか。

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アクセスイースト 代表取締役
山口明雄(やまぐち・あきお)

東京外語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務めたのを皮切りに、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。2018年2月、『危機管理&メディア対応 新ハンドブック』(宣伝会議刊)発売。

 

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