ターゲティング論の目的はブランドに対する「投票数」を高めること
森岡氏は1については簡単にしか述べていませんが、USJの成功ケースで彼が明確にターゲット向けに開発したのは「ファミリー向けの施設の充実」です。それまでの映画のテーマパークとしてのUSJでは、ターゲットが映画ファンとなり、顧客の幅としてあまりに狭過ぎたためです。映画のテーマパークからエンターテインメントの総合パークにポジショニングに変更したのも、そのターゲット層を大阪のテーマパーク商圏人口の制限を破るためでした。
『確率思考の戦略論』には下記のようにあります。
消費者を区切ってターゲティングすることは、M(筆者注:プレファレンス=消費者の選好性)を増やすためであって、決して自社ブランドのMを狭めるためではないのです。この本質を理解していないマーケターは多いように思います。ターゲティングや競合との差別化、などの手段が先に立ってしまって、大切な自社ブランドのMを不必要に狭めてしまっていることが多いのです。
言うまでもなくコトラーの有名なSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)に慣れているマーケターにとっては、セグメンテーションとターゲティングは戦略策定の基礎中の基礎です。また一般論としても「みんなを狙ったマーケティングは成功しない」と言われます。ターゲット層を明確にするのはクリエイティブブリーフの基本です。しかしながら、これらの考え方はある前提を持っていないと実際の自社ブランドの売上を下げる結果になるというのがこの主張です。それはどのような前提でしょうか。
森岡氏の論の根拠は、ブランドのプレファレンス、つまり選好性です。その選好性の確率を上げるのであれば、ターゲティングという考えは正しい、ということになります。プレファレンスとは、個人にとってそのブランドが好きか嫌いか、という「態度」や「認識」の問題ではなく、実際にそのブランドを選ぶ行動の確率のことを示しています。プレファレンスという言葉によって、パーセプション(認識)のことと勘違いするマーケターは多いですが、プレファレンスはより行動的なものです。
森岡氏の比喩では、プレファレンスは「投票の確率」です。そのブランドが好きでなくても、たとえば5回に一回にそのブランドを購入、つまり投票するのであれば、それは5分の1の投票の確率になります。森岡氏は数学的に、その確率は個人によって異なるため、ガンマ分布している、と言っています。
これはわかりやすく言えば、その確率はランダムではなく、個人のブランド選好性によって再現性があるという意味です。さきほどの5回に1回くらい買うような人は、その個人においてのカテゴリーの購入の20%を占めて、それは繰り返し行われるという意味です。森岡氏は、その個人個人のブランド選好性のガンマ分布を変えることはコントロールしにくい(あとで述べますが、つまり個人のロイヤリティを上げるのは困難であるということ)ので、プレファレンス全体の確率を上げるべきだと言っているわけです。
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